表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第四章 神々の選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/48

静寂の籠城と、飢餓という名の獣㈡

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

「やるしかない。僕たちは、人間だ。人殺しにはならない」


 カイの瞳に、覚悟の光が宿る。それは、神の力による解決ではなく、人間としての泥臭い抵抗の決意だった。


 ガガガガッ! 


 バリケードの一角が崩れ、ガラスが割れる音がした。侵入者が入ってくる。


「ヒャハハ! いたぞ! ここだ!」


 懐中電灯の光が乱舞し、薄汚れたジャージ姿の男たちが雪崩れ込んでくる。その手にはバットやナイフ、そして奪った消火器などが握られている。目は血走り、口元からは(よだれ)が垂れている。飢餓と興奮で、理性が消し飛んでいる状態だ。


「女だ! 上玉がいるぞ!」


 先頭の男が、ひかりを見つけて下卑た笑い声を上げる。その瞬間、ソラの髪が逆立った。


「……この、クズどもがっ!!」


 ブォン! 


 ソラの念動力が炸裂する。近くにあった重厚な閲覧机が浮き上がり、男たちの進路を塞ぐように叩きつけられた。


「うわっ!?」


 男たちが怯む。その隙に、黒い影が疾走した。クロだ。変身はしていない。豆柴の姿のままだが、その動きは弾丸のように速い。


 ガブッ! 


 先頭の男の手首に噛みつき、武器を取り落とさせる。


「ぎゃあああッ! な、なんだこの犬!?」


 クロはそのまま次の男の股下をくぐり抜け、足首を強打して転倒させる。殺傷能力はない。だが、的確に急所を突き、戦意を喪失させるプロの動き。


「な、なんだお前ら!? 化け物か!?」


 親衛隊のリーダー格らしき男が、後ずさりながら叫ぶ。カイが、一歩前に進み出た。彼は武器を持っていない。ただ、その身から放たれる、凍てつくような静気が、暴徒たちを圧倒する。


「出て行け」


 カイの声は、決して大きくはなかった。だが、その言葉には、物理的な質量があるかのような重みがあった。


「ここは図書館だ。静寂を守る場所だ。君たちのような獣が土足で踏み入っていい場所じゃない」


「な、何を偉そうに……!」


 リーダーが、隠し持っていたナイフを取り出し、カイに飛びかかった。


「死ねぇッ!」


 カイは動かない。ナイフが胸元に迫る。その軌道が、カイの目にはスローモーションのように見えていた。千年の地獄で、彼はあらゆる痛みを味わった。肉体を切り裂かれる痛みなど、呼吸するのと同じくらい馴染み深い。だからこそ、恐れない。パシッ。カイは、素手でナイフの刃を掴んだ。鮮血が滴る。


「ッ!?」


 男が目を見開く。肉を切らせて骨を断つ、どころではない。自ら刃を掴み、その痛みさえも平然と受け入れている。カイの瞳が、男の瞳を射抜く。そこにあるのは、怒りではない。深い、深い、哀れみ。


「痛いだろう? 切られるのも、切るのも。……思い出せ。痛みは、君が生きている証拠だ。獣になるな。人間に戻れ」


 カイの手から流れる血が、男の手に伝う。その温かさが、男の凍りついた理性を解かしたのかもしれない。男の手が震え、ナイフが床に落ちた。


「あ……あ……」


 男は、腰を抜かしてへたり込んだ。カイの「虚無」の力が、男の中にある狂気の熱を吸い取り、鎮火させたのだ。それを見た他のメンバーも、戦意を喪失し、我先にと逃げ出していった。


「……はあ、はあ……」


 静寂が戻る。カイは、傷ついた手を押さえ、膝をついた。


「カイくん!」


 ひかりが駆け寄り、救急箱から包帯を取り出す。


「無茶だよ……! こんな……!」


 涙を流しながら手当てをするひかりに、カイは弱々しく笑った。


「平気だよ。……これくらい、すぐに治る」


 そう、すぐに治る。彼の肉体は、覚醒の影響で人間離れした再生能力を持っている。だが、ひかりを悲しませたという事実が、傷よりも痛かった。

 ソラが、悔しそうに唇を噛む。


「追い払うことはできた。でも……これじゃあ、ジリ貧よ。また来るわ、あいつら。次はもっと大勢で」


「ああ」


 カイは頷いた。籠城は、限界だ。守るだけでは、何も変わらない。この狂ったキャンパスを開放するには、元凶を断つしかない。すなわち、学長室に鎮座する鬼塚――スサノオの分身体を倒し、結界を解除すること。


「……攻めるしかないか」


 クロが、人間の言葉を借りるかのように、重々しく唸った。


「だが、学長室は最上階だ。そこに至るまでには、洗脳された数千の学生と、鬼塚が配置したであろう『本物の怪物』たちが待ち受けているぞ」


「わかってる」


 カイは、包帯を巻かれた手を握りしめた。


「でも、このままじゃ、みんな心が死んでしまう。……行こう。夜明けと共に」


 その夜。彼らは最後の晩餐をとった。ひかりが大切に取っておいた缶詰のスープと、乾パン。質素な食事だったが、四人で囲むその時間は、何よりも温かかった。明日、生きている保証はない。だからこそ、今、この瞬間を噛み締める。

「美味しいね」と言い合えること。「怖いね」と弱音を吐けること。それが、彼らが守りたかった「人間らしさ」の全てだった。

 窓の外、東の空が白み始める。四日目の朝。それは、彼らにとっての反撃の狼煙(のろし)であり、神への最後の挑戦の始まりだった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ