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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第四章 神々の選択

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静寂の籠城と、飢餓という名の獣㈠

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 図書館の窓は、分厚いカーテンで閉ざされていた。わずかな隙間から差し込むのは、結界によって紫色に歪められた月明かりだけ。広大な閲覧室には、バリケードとして積み上げられた書架(しょか)の影が、墓標のように長く伸びている。

 封鎖から、三日が過ぎていた。


「……静かね」


 ひかりが、マグカップを両手で包みながら呟いた。中身は、給湯室に残っていたティーバッグで淹れた、薄い紅茶だ。備蓄されていた水も、カセットコンロのガスも、そう多くはない。


「ああ。……でも、外は違う」


 カイは、カーテンの隙間から外を覗き見た。図書館は高台にあるため、キャンパス全体を見渡せる。暗闇に沈む校舎のあちこちで、ガラスが割れる音や、野獣のような叫び声、そして何かが燃える赤い光が見えた。地獄だ。たった三日で、理性という薄皮は剥がれ落ちていた。食糧を備蓄している食堂棟は、初日の夜に暴徒と化した学生たちによって制圧され、今は力のある運動部の連合グループが占拠しているらしい。そこからあぶれた者たちは、空き教室や部室棟に潜み、互いに少ない物資を奪い合っている。


「みんな、変わっちゃった……」


 ソラが、膝を抱えて震える。彼女の「千里眼」には、見たくないものが映りすぎてしまう。かつてラケットを握っていた手が、今は鉄パイプを握りしめ、友人を殴打する光景。教科書を焼いて暖を取る虚ろな目。鬼塚――スサノオが仕掛けた「毒」は、予想以上に早く、深く、学生たちの精神を(むしば)んでいた。


「……カイ。僕たちも、いつかあんな風になるのかな」


 ソラの問いに、カイは首を振った。


「ならない。僕たちが人間でいる限り、絶対に」


 カイは、手元の文庫本を閉じた。それは、古い詩集だった。この三日間、カイは図書館にある「感情を揺さぶる本」――鬼塚によって廃棄処分寸前だった文学書や詩集を、片っ端から読んでいた。言葉。物語。(うた)。それらは、効率や強さとは無縁の、無駄なものかもしれない。だが、極限状態において、魂が乾いてひび割れるのを防ぐための、最後の潤滑油だった。


「ひかり。外の状況は?」


「うん。……ハッキングは無理。結界のせいで、外部との通信は完全に遮断されてる。でも、学内LANの傍受はできるわ」


 ひかりは、薄暗がりの中で青白く光るパソコンの画面を操作した。


「食堂を占拠しているグループ……リーダーはアメフト部の主将、『剛田(ごうだ)』。彼らは食料を独占して、他の生徒を服従させようとしてる。『食いたければ、俺たちの手足となって働け』って」


「典型的な独裁者気取りか」


 クロが、足元で呆れたように鼻を鳴らす。「わん(くだらん。力に溺れた猿の末路だ)」


「そして、もう一つ……気になる動きがあるの」


 ひかりの声が、緊張を帯びる。「『狩り』を始めた集団がいるわ」「狩り?」「食料のためじゃない。……ただ、他者を痛めつけ、支配すること自体を目的にした連中。鬼塚の親衛隊を名乗ってる」


 画面に映し出されたのは、黒い腕章をつけた集団が、逃げ惑う学生を追い回し、笑いながら追い詰めていく映像だった。その瞳は、完全に狂気に染まっている。スサノオの洗脳が、最も深く進行してしまった者たちだ。


「……許せない」


 ソラが立ち上がる。


「私、行ってくる。あんなの、見てられない!」


「待て、ソラ」


 カイが制止する。


「今、ここを出れば、僕たちも巻き込まれる。戦えば、相手を傷つけることになる。それこそが奴の狙いだ」


「じゃあ、見てるだけなの!? ここでじっとして、自分たちだけ助かればいいの!?」


 ソラの叫びが、静寂な図書館に響く。彼女の正義感は、限界を迎えていた。自分には力があるのに、それを使わずに隠れていることへの罪悪感。カイは、痛ましげに目を伏せた。彼にも、ソラの気持ちは痛いほど分かる。だが、今の彼らが動けば、それは「暴力の連鎖」に加担することになる。スサノオは、カイが力を使って「粛清(しゅくせい)」を行うことを待っているのだ。そうすれば、カイもまた「力で他者をねじ伏せる者」となり、スサノオと同じ土俵に落ちる。

 その時だった。


 ドォォォン!! 


 重い衝撃音が、図書館の入り口付近から響いた。バリケードが揺れる。


「……!」


 四人に緊張が走る。誰か来た。助けを求める者か? それとも、略奪者か?


「開けろォォォッ!!」


 野太い怒号。


「ここに隠れてることは分かってんだよ! 食い物があるんだろ!? 女もいるんだろ!?」


 バン! バン! バン! 


 鉄パイプか何かで、扉を殴打する音。一人や二人ではない。十数人の気配がする。ひかりが、モニターを確認する。


「……さっき言った、『狩り』の集団よ。親衛隊!」


 最悪の来訪者だった。彼らは、この図書館が「まだ荒らされていない聖域」であることに気づき、新たな獲物を求めてやってきたのだ。

「どうする、カイ」クロが、低い姿勢で唸り声を上げる。戦う準備はできている。カイは、入り口を見据えた。バリケードは頑丈だが、数で押されれば時間の問題だ。戦うか。逃げるか。いや、逃げ場などない。このキャンパス全体が牢獄なのだから。


「……ソラ。クロ」


 カイは、静かに言った。


「迎撃する。ただし、殺すな。再起不能にする必要もない。ただ、追い払うんだ」


「……そんな手加減ができる相手?」


 ソラが不安げに聞く。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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