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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第三章 絆の在り処

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陽だまりの傍観者と、繋ぎ止める錨(いかり)㈠

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 私の名前は、相沢ひかり。どこにでもいる、ごく普通の大学生。……の、はずだった。

 大学の図書館の、一番奥まった席。高い窓から差し込む午後の日差しが、舞い上がる(ほこり)を金色の粒子に変えてキラキラと輝かせている。私は開いたままの専門書――『現代社会における集団心理と排除のメカニズム』――に視線を落としていたけれど、活字は上滑りするばかりで、少しも頭に入ってこなかった。私の意識は、窓の外、緑の芝生が広がる中庭へと吸い寄せられていた。

 そこには、三つの影があった。ベンチに座り、穏やかに本を読んでいる青年、カイ。その隣で、スポーツドリンクを片手に何かを熱心に話しかけている少女、ソラ。そして、二人の足元で気持ちよさそうに腹を出して寝ている、黒い豆柴のクロ。

 まるで、絵画のように完璧な光景だった。春の光が彼らを柔らかく包み込み、そこだけ時間が止まっているかのような、神聖ですらある「陽だまり」。それを見つめる私の胸の奥で、温かさと同時に、ちくりとした痛みが走る。それは、言葉にするのも(はばか)られる、暗くて重たい感情。――羨望、と、疎外感。

 私は、彼らの「仲間」だ。誰よりも長く彼らの傍にいて、彼らの秘密を知り、共に戦ってきたという自負がある。でも、時々、どうしようもなく感じてしまうのだ。私は、彼らの世界における、ただの「傍観者」なのではないか、と。


 スマートフォンのフォルダを開くと、色褪()せたデジタルデータがいくつも並んでいる。三歳くらいの頃の写真。近所の公園の砂場で、泥だらけになって笑う三人の子供たち。太陽みたいに元気なソラちゃん。月のように静かなカイくん。そして、その二人の手をぎゅっと握って離さない、泣き虫な私。この頃の私にとって、二人は世界の全てだった。言葉なんていらなかった。ただ一緒にいるだけで、心が満たされていた。この幸せな時間が、永遠に続くと信じて疑わなかった。

 その世界に亀裂が入ったのは、私たちが十歳になる直前。あの交通事故がきっかけだった。あの日を境に、二人の周りの空気が変わった。大人たちの冷たい視線。学校での孤立。「呪われている」という噂。私の両親も、泣きながら言った。「もう、あの子たちと関わってはダメだ」と。怖かった。でも、それ以上に悔しかった。カイくんとソラちゃんが、何か悪いことをしたわけじゃない。どうして、誰も彼らを信じてあげないの? 世界中が彼らを拒絶しても、私だけは味方でいよう。幼い私は、震える膝を抱えながら、そう固く誓った。

 でも、現実は残酷だった。小学五年生の時の「神隠し」事件。高校での「学校占拠」事件。そして、人身売買組織との戦い。事件が起きるたびに、私は思い知らされた。私には、力がない、と。

 ソラちゃんのように、念動力で敵を吹き飛ばすこともできない。クロのように、恐ろしい猛獣に変身して戦うこともできない。ましてや、カイくんのように、世界の(ことわり)そのものを書き換えるような奇跡なんて、起こせるはずもない。

 高校二年生の時、学校が死神に乗っ取られた日のことを思い出す。私は放送室の上の空き教室で、震える指でキーボードを叩き、学校のセキュリティシステムをハッキングした。監視カメラの映像を切り替え、電子ロックを操作し、彼らの侵入ルートを確保した。「すごいよ、ひかり。君のおかげだ」カイくんはそう言ってくれた。でも、画面越しに見る彼らの姿は、傷だらけで、血に塗れていた。彼らが命を懸けて戦っている間、私は安全な場所で、モニターを見つめているだけ。「司令塔」なんて、聞こえのいい役割を与えられているけれど、結局のところ、私は彼らが傷つくのを、ただ見ていることしかできないのだ。守られているだけの、か弱い人間。それが、私の正体。

 特に、昨夜の戦いは衝撃的だった。十八歳になったカイくんが、「言霊(ことだま)」の力を覚醒させた瞬間。光の柱が天を突き、荒れ狂う嵐が一瞬にして晴れ渡った光景を、私は遠く離れた自宅の窓から見ていた。美しかった。そして、恐ろしかった。彼は、もう人間ではないのかもしれない。神様のような、遠い遠い存在になってしまったのかもしれない。彼が空を見上げて、何かを呟いた時、その横顔は、私がずっと好きだった「カイくん」のものではなく、触れることすら許されない高貴な存在のように見えた。

 その隣に、ソラちゃんは立っていた。傷だらけになりながらも、弟の覚醒を一番近くで見守り、支えていた。彼らは双子だ。血を分け、魂を分けた片割れ同士。言葉を交わさなくても、常人には理解できないレベルで、互いの魂が共鳴している。昨夜もそうだった。カイくんが力を解放しようとした時、ソラちゃんは何も言わずに彼の手を握り、その負担を分かち合っていた。そこには、私がどれだけカイくんを愛しても、どれだけ努力しても、決して踏み込むことのできない「聖域」がある。

 ああ、(かな)わないな。図書館の窓際で、私は深いため息をついた。私は、彼の恋人になれた。初めてのキスもした。でも、魂の底の底で繋がっているのは、私ではなく、ソラちゃんなのではないか。私が彼の隣にいるのは、ただの「幼なじみ」という惰性(だせい)なのではないか。そんな、どうしようもない嫉妬心が、黒いインクのように心に滲んでいく。

 私は、陽だまりの外側にいる。ガラス一枚隔てた向こう側で、彼らの物語を読んでいるだけの、ただの読者(傍観者)なのだ。


「……ひかり?」


 不意に、名前を呼ばれた。ハッとして顔を上げると、いつの間にか中庭から戻ってきたカイくんが、私の向かいの席に座っていた。少し長くなった前髪、静かな瞳。手には、私の好きなミルクティーのペットボトルが二本握られている。


「あ、ごめん! ぼーっとしてた」


 私は慌てて本を閉じ、笑顔を作った。ダメだ。こんな暗い顔、彼に見せてはいけない。彼は世界を守るために、自分の身を削って戦っているのに。私がこんなちっぽけな悩みで足を引っ張ってどうするの。


「……無理、してないか?」


 カイくんは、ミルクティーを私の前に置くと、静かに私の目を見つめた。その瞳は、深くて、暗くて、でも底知れない優しさを湛えている。千年の地獄を見た瞳。その目は、私の作り笑いなんて、簡単に見透かしてしまう。


「ううん、全然。ちょっと、勉強疲れちゃっただけ」


「嘘だ」


 カイくんは、短く言った。そして、テーブルの上に置かれた私の手に、自分の手をそっと重ねた。彼の手は、大きくて、少しごつごつしていて、そしてとても温かかった。でも、その手は微かに震えているようにも感じられた。


「ひかり。君が何を考えているか、少しだけ分かる気がする」


 カイくんは、ぽつりと言った。


「君は、自分には力がないと思っているだろう。ソラやクロみたいに戦えないし、僕とは違う世界の住人だと。……僕たちの間に、壁があると感じているんじゃないか?」


「……ッ」


 図星だった。心臓を鷲掴みにされたようで、私は言葉を失い、(うつむ)くことしかできなかった。涙が滲んで、視界が歪む。


「だって……そうじゃん。カイくんはすごいよ。神様みたいな力を持ってて、世界だって救えちゃう。ソラちゃんも、クロも特別。でも、私は……私はただの、何もできない……」


「逆なんだよ、ひかり」


 カイくんの指が、私の指に(から)まる。強く、すがるように。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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