十八歳の胎動と、天を焦がす神々の焦燥㈡
千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!
「……それで? またしても、あの小僧どもの魂一つ、狩れなかったと申すか。貴様ら死神も、地に落ちたものだな」
「も、申し訳ございません、スサノオ様……! ですが、あのカイという小僧の力は、我らの常識を遥かに超えております。地獄の番人たちの力さえも無効化するなど……」
「言い訳は聞かぬ!」
スサノオの怒声が轟き、空間そのものがビリビリと震える。ヤミの体が、恐怖で跳ね上がった。
「よいか。我が目的は、あの双子を殺すことではない。生きながらに捕らえ、我が支配下に置くことだ。特に、カイ。あの者の魂に眠る『空虚』の力は、いずれ我らの支配さえも無に帰すやもしれん」
スサノオは、焦っていた。彼が恐れているのは、地獄の言い伝えだけではない。天界にのみ伝わる、ある禁断の予言があったからだ。
『地獄より生まれし「無」は、人の理にて二十歳を迎える時、万物の理を覆す「絶対」へと至る』
二十歳。人間としての成人。その時、カイの力は完成し、神々さえも手出しできぬ、絶対的な創造主の力へと変貌する。そうなれば、スサノオの野望――天界を転覆させ、自らが新たな王となる計画――は、永遠に潰えることになる。残された時間は、あと二年しかない。
「十八の覚醒が始まった今こそが、最後の好機。奴の魂が新たな力に戸惑い、最も無防備になる瞬間を叩く」
スサノオは立ち上がり、虚空から一本の異形な槍を取り出した。切っ先が三つに分かれ、黒い雷を纏った神具、「天逆鉾」。彼はその穂先を、ヤミの鼻先に突きつけた。
「ヤミよ。最後の機会だ。我が眷属、『荒魂』を率いて地上へ赴き、双子の魂を狩ってこい。今度しくじれば、貴様の魂は塵となって消えると思え」
「は、ははっ!」
ヤミは、恐怖と、与えられた強大な力への高揚感に震えながら、深く頭を垂れた。
スサノオの影から、無数の異形が湧き出す。それは、嵐、地震、疫病といった災厄そのものが形を成したような、荒ぶる神の使い、「荒魂」たちだった。これまでの死神たちとは比較にならない、純粋な破壊の軍勢が、地上へと解き放たれようとしていた。
夜。ひかりの家での誕生日パーティーは、クライマックスを迎えていた。テーブルには、ひかりの手作り料理が所狭しと並んでいる。ハンバーグ、グラタン、色とりどりのサラダ。そして中央には、十八本のロウソクが立てられた大きなデコレーションケーキ。
「カイくん、ソラちゃん、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、ひかり!」
ソラが満面の笑みでクラッカーを鳴らす。クロも、「わん(うまそうだ)」と尻尾を振っている。カイは、ロウソクの火を見つめながら、ふと、胸の奥のざわめきが大きくなっているのを感じた。
(……なんだ? この、近づいてくる気配は……)
先ほどまでの「全能感」とは違う。肌を刺すような、圧倒的な悪意と、破壊の予兆。
その時。
バリンッ!
突如、窓ガラスが激しく振動し、ひび割れた。
「きゃっ!?」
ひかりが悲鳴を上げる。外を見る。真夜中のはずの空が、紫色に染まっていた。月は赤い霧に覆われ、不気味な光を放っている。そして、空から、黒い雨のようなものが降り注いでいた。
「……来たわね」
ソラが、瞬時に戦闘モードの表情に切り替わる。彼女の千里眼が、上空に展開された巨大な魔方陣と、そこから溢れ出す無数の異形を捉えていた。
「ただの死神じゃない……。もっと、禍々(まがまが)しい。神様の気配がする」
カイは、ひかりを庇うように前に出た。
「ひかり、警察と気象庁のデータを! 何が起きているのか、確認してくれ!」
「も、もうやってる!」
ひかりは震える手でノートパソコンを開き、キーボードを叩いた。
「……嘘……。街中が……」
モニターに映し出されたのは、地獄絵図だった。突如発生した竜巻が家屋をなぎ倒し、紫色の雷が電柱を焼き払っている。そして、その嵐の中を、半透明の怪物たちが闊歩し、破壊の限りを尽くしている。ニュースキャスターが、絶叫に近い声で「局地的な異常気象」を伝えているが、それが自然現象でないことは明らかだった。
「奴らの狙いは、街の混乱だ! 僕たちを誘い出すために、街ごと人質に取ったんだ!」
カイが叫ぶ。
「行くぞ! 僕たちで、奴らを止める!」
「わん! (承知!)」
クロが、その場で黒い光に包まれる。三分間の変身。今回は、迷わず最強の形態を選んだ。光の中から現れたのは、雷を纏った巨大な狼――「雷狼」。嵐を相手にするには、雷の力が最も有効だと判断したのだ。
カイ、ソラ、そして雷狼となったクロ。三つの影が、ひかりの家を飛び出し、荒れ狂う嵐の中へと突入していった。ひかりは、彼らの背中を見送りながら、必死に情報を収集し、彼らに最適なルートを指示する。
「三人とも、死なないで……!」
十八歳の誕生日の夜。神々をも巻き込んだ、新たな、そして最も過酷な戦いの幕が、切って落とされた。
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魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。




