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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第三章 絆の在り処

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十八歳の胎動と、天を焦がす神々の焦燥㈠

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 十八歳の誕生日は、まるで嘘のような穏やかな光に満ちていた。

 春の陽気が、大学のキャンパスを柔らかく包み込んでいる。桜並木の下を、新入生たちが希望に満ちた足取りで歩いていく。その風景の中に、カイとソラ、そしてひかりの姿もあった。彼らは無事に高校を卒業し、それぞれ志望する学部は違えど、同じ総合大学へと進学を果たしていた。あの壮絶な人身売買組織との戦いを乗り越え、彼らがその手で掴み取った、かけがえのない「日常」の続きだった。


「カイくん、今日、うちでパーティーしようよ! ソラちゃんと一緒に、腕によりをかけてご馳走作るから!」


 ひかりが、カイの腕にそっと自分の腕を絡ませながら、満面の笑みで言った。高校最後の事件を経て、二人の関係は「幼なじみ」から、一歩進んだものになっていた。恋人同士。まだその響きに少し照れくささはあるものの、寄り添う二人の姿は、キャンパスの風景に自然に溶け込んでいた。


「ああ、楽しみにしてる。ひかりのハンバーグ、久しぶりだしな」


 カイも、穏やかな笑顔で応える。

 その親密な様子を、少し先を歩くソラが、やれやれといった表情で振り返った。


「はいはい、ごちそうさま。あんまりキャンパスの真ん中でイチャイチャしてると、クロが()ねるわよ」


 ソラの足元では、黒い豆柴のクロ(シジマ)が、「別にお前らがどうなろうと知ったことではないが」とでも言いたげに、ぷいと顔を背けていた。だが、その尻尾が微かに揺れているのを、カイは見逃さなかった。この不器用な元死神もまた、今のこの平穏な時間を、彼らなりに愛しているのだ。

 四人の間には、もはや悲壮感はなかった。敵の存在を理解し、自らの宿命を受け入れた上で、彼らは「今」という瞬間を精一杯生きることを選んでいた。カイの「空虚」の力。ソラの「念動力」と「千里眼」。ひかりの「頭脳」。そしてクロの「変身能力」。四つの力が合わされば、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信にも似た絆が、彼らを強く結びつけていた。

 だが。カイだけは、この穏やかな日常の底に、静かなる異変の兆しを感じ取っていた。十八歳を迎えた今日の朝から、彼の魂の奥底で、何かが胎動を始めているのだ。それは、これまで感じてきた、全てを無に帰す「空虚」の力とは、全く質の違うものだった。


(……なんだ、この感覚は……)


 ふと、視界に入る風景が、ぐにゃりと歪んで見える瞬間がある。歩道のコンクリート、風に揺れる桜の花弁、そして空の青さ。それら物質としての「確固たる形」が、まるで粘土細工のように柔らかく感じられるのだ。手を伸ばせば、世界そのものの形を変えられるのではないか。そんな、神にでもなったかのような、傲慢(ごうまん)で、途方もなく巨大な力の奔流。それが、心臓の鼓動に合わせて、ドクン、ドクンと波打っている。

 カイは、自分の掌をじっと見つめた。怖い。地獄の業火よりも、虚無の闇よりも、この「全能感」の方がよほど恐ろしい。自分が自分でなくなってしまうような、人間としての枠組みを超えてしまうような感覚。


「カイくん?」


 ひかりが、心配そうに顔を覗き込む。


「……ううん、なんでもない。ちょっと、めまいがしただけ」


 カイは、慌てて笑顔を作った。この不安を、彼女たちに悟らせてはいけない。この幸せな時間を、僕の中の「怪物」で壊すわけにはいかないのだ。


 同時刻。冥府の最深部、閻魔庁。閻魔大王は、玉座の間にある巨大な浄玻璃(じょうはり)の鏡に映るカイの姿を、苦虫(にがむし)を噛み潰したような顔で(にら)みつけていた。


「……始まったか」


 彼の低い声が、静寂な広間に重く響いた。


「地獄の言い伝えにあった、『十八の覚醒』が」


 傍らに控える側近の赤鬼が、恐る恐る尋ねる。


「大王様、その言い伝えとは、一体……?」


「うむ。千年の地獄を耐え抜き、その魂を磨き上げた者が、人間として十八の歳を迎える時、その魂は地獄の(ことわり)を超え、新たな理を『創造』する力を得る、と……な」


 閻魔は、深いため息をついた。


「だが、そんな者は過去に一人もいなかった。理論上の仮説に過ぎんと思われていたのだ。この覚醒が何を意味するのか、何をこの宇宙に(もたら)すのか、わしにも全く分からん」


 カイの魂から放たれる波長が、刻一刻と変化している。それは、冥府の監視システムが「測定不能(エラー)」を吐き出し続けるほど、高次元のエネルギーへと昇華しつつあった。


「吉と出るか、凶と出るか……。いずれにせよ、このまま黙って見ているわけにはいかなくなったな」


 閻魔の脳裏には、ヤミたち死神の度重なる暴走と、その背後で(うごめ)く、さらに巨大な存在の気配があった。この覚醒を、あの男――スサノオが見逃すはずがない。


 天界――高天原(たかまがはら)。そこは、(けが)れを知らぬ清浄な光と、完璧な秩序に満ちた世界。その中心に座し、地上の森羅万象を慈愛の目で見守る最高神、天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)。彼女の神殿の最も深い場所「天岩戸(あまのいわと)」の奥で、一枚の神鏡が、不吉な紫色の光を放って明滅していた。


「姉上。また、あの忌まわしき弟の気配が、地上を乱しております」


 天照の背後から、静かに語りかけたのは、夜と月を司る神、月読命(つくよみのみこと)だった。天照は、愁いを帯びた瞳で、鏡に映る地上の様子を見下ろした。


「……スサノオ。あの者は、一体どこまでこの宇宙の調和を乱せば気が済むのでしょう」


 その名こそ、ヤミたち死神を裏で操り、カイたちを執拗に狙う、全ての事件の黒幕の正体だった。天照皇大神の弟にして、荒ぶる神、素戔嗚尊(すさのおのみこと)。かつて高天原で乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)の限りを尽くし、追放された反逆の神。彼は、姉である天照が作り上げた、光と秩序に満ちたこの世界を激しく憎悪していた。


「姉上の作る世界は、息苦しい。愛も、情熱も、混沌も、全てを『秩序』という名の檻に押し込める。そんなものは、死んだ世界と同じだ」


 かつて、彼はそう吐き捨てて天界を去った。そして今、彼はその秩序を根底から(くつがえ)すための、長きにわたる計略を実行に移そうとしていたのだ。


 次元の狭間にある、闇に閉ざされた異空間。そこには、天界の美しさを歪めて模倣(もほう)したような、禍々(まがまが)しい神殿が浮いていた。玉座にふんぞり返る巨躯(きょく)の男、スサノオ。彼は、眼下で平伏するヤミを、侮蔑(ぶべつ)焦燥(しょうそう)の入り混じった眼差しで見下ろしていた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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