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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第一章 冥府の理

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落ちこぼれ死神の憂鬱(ゆううつ)な転身㈡

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

「その『優しさ』が、今度の任務には必要なのだ。力で対抗するのではない。奴らの悪意から、ただ、二人の子供の『心』を守ってやればよい」


 シジマは言葉を失った。自分が落ちこぼれと蔑まれる原因となった「弱さ」。それを、この冥府の頂点に立つ王が「必要だ」と言っている。心を守る。それは、物理的な盾になることではない。孤独に震える魂に寄り添うことだ。それならば、自分にもできるかもしれない。


「……はあ。まあ、そういうことなら……」


 シジマは頭をかいた。断れる雰囲気ではないし、満更でもない自分もいた。


「承知いたしました。微力ながら」


「うむ。話が早くて助かる」


 満足げに頷いた大王は、どこか楽しそうに続けた。


「して、大王様。地上では、どのような姿で活動すればよろしいので? やはり、人間の姿に化けて……」


「ならぬ。人間では目立ちすぎるし、死神の波動を隠しきれん。ヤミたちに即座に感づかれる」


「では、どうやって?」


「案ずるな。そなたに最適な、完璧な擬態を用意してある」


 大王がニヤリと笑い、玉座から軽く指を振るう。その瞬間、強力な術式がシジマの体を包み込んだ。


「ぐっ……ぐわあああっ!?」


 骨がきしみ、視界が歪む。体が縮んでいく感覚。意識が遠のき、気づいた時には、視線が恐ろしく低くなっていた。床が近い。自分の手を見ようとして、そこに現れたのは、黒い毛に覆われた、小さな肉球のついた前足だった。


「なっ……!? こ、これは……!?」


 恐る恐る鏡を見ると、そこに映っていたのは。つぶらな瞳、くるりと巻いた尻尾、短く愛らしい四肢(しし)。紛れもなく、黒い豆柴だった。


「わんっ!? (なっ!?)」


 シジマの魂の叫びは、現実の世界では実に情けない鳴き声となって響き渡るだけだった。


「閻魔大王様あああ! いくらなんでも、犬は(ひど)すぎますぞおおお!」


「フハハハハ! 可愛いではないか! それなら誰からも警戒されん。潜入にはうってつけだ」


 大王は腹を抱えて笑っている。シジマは、屈辱に打ち震えた。


「最悪だ……」


「まあ、そう()ねるな。不憫に免じて、一つ面白い能力を授けてやろう」


 大王は真顔に戻り、指を鳴らした。


「三分間だけ、別のものに自在に変身できる力をな。ただし、三分を過ぎれば強制的にこの犬の姿に戻る。使いどころを誤るなよ?」


 三分限定の変身能力。ウルトラなヒーローじゃあるまいし。


「では、頼んだぞ!」


 そう言うが早いか、大王はシジマ(豆柴)の首根っこをひょいとつまみ上げると、足元に開いた地上の転送陣へと、ぽいと放り込んだ。


「あ、ちょっ――」


 シジマの悲鳴は、次元の彼方へと吸い込まれていった。


 地上。冷たい秋雨が降りしきる、薄暗い路地裏。水たまりの中に、ドサリと何かが落ちてきた。


「うぅ……腰が……いや、腰はあるのか?」


 泥水にまみれた黒い豆柴が、よろよろと立ち上がる。シジマだ。全身が濡れそぼり、寒さが骨身に染みる。冥府では感じることのなかった空腹と悪寒が、容赦なく体力を奪っていく。


「あのクソ上司め、覚えていろ……」


 心の中で悪態をつくが、口から出るのは「キャン……クゥン……」という情けない声だけだ。

 これから、どうすればいい。護衛対象の双子を探さねばならないが、手掛かりは何もない。それに、この姿だ。野犬狩りにでも遭えば一巻の終わりだ。シジマは途方に暮れ、軒下の乾いた場所を探してうずくまった。孤独だ。千年間、倉庫で一人だった時とは違う、物理的な孤独と心細さが、彼を襲った。

 その時だった。雨音に混じって、パチャパチャという足音が聞こえてきた。


「あ、カイ、見て。わんちゃんだ……」


 頭上から、少女の声が降ってきた。見上げると、一つの赤い傘の下に、少年と少女が立っていた。間違いない。魂の気配でわかる。あの、千年の男と、ソトだ。彼らが、今回の護衛対象だ。

 少女――ソラが、シジマの前にそっとしゃがみこんだ。その瞳には、警戒心よりも、純粋な哀れみが浮かんでいる。最近、彼女の周囲から向けられることのなかった、暖かい眼差しだった。


「可哀想に……びしょ濡れじゃない。お腹も空いてるのかな」


 彼女の心は、死神たちの陰湿な攻撃によってささくれ立ち、疲れ切っているはずだった。親からも、友達からも冷たくされ、世界中が敵に回ったような孤独の中にいるはずだ。だのに、目の前の、自分よりもか弱く見える存在に、彼女の魂の芯にある優しさが、自然と反応したのだ。

 隣に立つ少年――カイは、ただ静かにシジマを見つめていた。その瞳は、全てを見通すかのように深く、シジマは思わずたじろいだ。


(……普通の子供ではない。この少年……魂の格が違う。俺の中身が人間ではないことを見抜いているのか?)


 千年の地獄を耐え抜いた魂の輝きを、シジマは垣間見た気がした。

 ソラは、泥だらけのシジマを、何の躊躇もなくそっと抱き上げた。少女の体温が、冷え切ったシジマの体を包み込む。


「……っ!」


 シジマは、息を飲んだ。温かい。数千年ぶりに触れる、他者の温もり。それは、遺失物倉庫で触れていた「記憶の中の温もり」とは違う、生きた命の熱だった。


「うちに連れて帰ろうよ。お父さんとお母さん、怒るかな……」


 不安げな姉に、カイは力強く頷いた。


「大丈夫だよ。僕が説得する。それに……この子は、ただの犬じゃない気がする」


 カイが、シジマの頭をそっと撫でた。


「僕たちと、同じ匂いがするんだ。……独りぼっちの匂いが」


 その言葉に、シジマの胸が締め付けられた。独りぼっち。そうだ、俺たちは皆、孤独だった。地獄を知る男、感情を殺した女、そして落ちこぼれの死神。はぐれ者たちが、今、雨の中で出会ったのだ。


(……まあ、これも任務だ。仕方ない)


 シジマは、照れ隠しのように心の中で呟き、ソラの腕の中で小さく「ワン(よろしくな)」と鳴いた。不本意な姿と役目ではあったが、この温もりの中にいられるのなら、悪くはないかもしれない。

 孤立し、凍てついていた双子の小さな世界に、その日、一匹の黒い豆柴がやってきた。後に「クロ」と名付けられることになるその犬が、冥府から(つか)わされた、不本意ながらも心優しい護衛だということを、彼らが知るのはまだ先の話だ。だが、雨上がりの空に、雲の切れ間から微かな光が差し始めたように、彼らの運命もまた、ここから静かに変わり始めていた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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