第64話 ホームパーティー ③
しばらくすると、リオン様が苺のホールケーキを持って戻ってきた。
そして私の前のテーブルにケーキをおいて小さく微笑んだ。
「アリス、改めて⋯⋯お誕生日おめでとう」
私は驚きのあまり固まってしまった。
喉の奥が詰まり言葉が出てこない。
「頑張って作ってみたんだが⋯⋯少し不格好だったか? い、いやちゃんと、味は保証する。厨房の料理人に手伝って貰ったからな」
リオン様は頬を赤く染め、照れくさそうに私の頭を撫でた。
「あ⋯⋯、っ、ず、ずるい、ですよ、こんなの⋯⋯わ、わたし、こんなにも、しあわせで、いいんです、か⋯⋯」
嬉しくて、胸がいっぱいになり、私は嗚咽混じりにでも、一生懸命に言葉を紡いだ。
「当たり前だろ。幸せになっていいし、私がアリスを幸せにする」
――私、生まれてきてよかった。
リオン様が大粒の涙を流しながら震える私の身体を抱きしめてくれる。
その優しささと温もりが、宝物のように撫でてくれる大きな手が、私の存在を認めてくれているみたいで、ここにいてもいいんだって――。
「⋯⋯わたし、リオン様と出逢えてよかったです。これからも、そばにいて、いいですか⋯⋯?」
「ああ、いてくれなきゃ困る」
「⋯⋯⋯⋯はい」
「ほら、アリス。ろうそくの火を溶ける前に消してくれ。みんな待っているぞ」
リオン様が、火を消すように言うと、部屋の灯りが落とされた。
仄かなろうそくの火だけが、揺らめいている。
私は涙を拭いながら、ろうそくの火に息を吹きかけた。
室内が一瞬にして暗闇に包まれた。
そして、部屋の灯りが再度つけられるとともに「お誕生日おめでとうございます」の言葉と拍手の音が響き渡った。
――この特別な日の記憶はきっと、一生忘れない。
☆☆☆
「アリス、食べてみてくれ。ほら、あーん」
リオン様は切り分けられたケーキを一口サイズでフォークに刺して、口元に持ってきた。
「い、いただきます」
ぱく、とリオン様が差し出したケーキを食べた。
スポンジはしっとりとふわふわで、クリームのまろやかな甘さと苺の爽やかな酸味が口の中に広がり、甘く溶けた。
恐る恐る聞くリオン様に頬を緩めながら答えた。
「⋯⋯とても、おいしい、です」
「よかった」
「リオン様も食べてください」
私もリオン様がしてくれたのと同じように一口サイズにして、ケーキを口元に運んだ。
「⋯⋯甘いな」
リオン様に甘く蕩けるような表情で微笑まれて、胸の奥が、じんわりと甘く疼いた。
「アリスちゃん。今日、あなたに会えてよかったわ」
ケーキを食べ終わった頃にクリスティーナ夫人が私に声をかけてきた。
「わ、わたしも、お会い出来て嬉しかったです」
「これは私からのお祝いよ。気に入ってくれると嬉しいのだけど」
クリスティーナ夫人の付き添いの侍女が、大きな長箱をテーブルの上に置いた。
「開けてみて」と言われて、箱を開けると中には立派な装飾が施された弓が入っていた。
私は驚きに満ちた目でクリスティーナ夫人を見上げた。
「アリスちゃん専用の魔導具よ」
「魔導具の弓ですか⋯⋯?」
「数日前に私の精霊を使って、アリスちゃんの魔力を少し頂いて作った物よ」
「あの時の蝶は精霊だったのですね」
「ええ、弓の使い方はリオンに聞いてちょうだいね」
「はい⋯⋯! ありがとうございます。大切にさせて頂きます」
私は箱に入れられた弓を手に取り抱えながら、お礼をした。
そして、言葉で言い表せないほどの祝福と幸せに包まれたパーティーは無事に終わった。




