第63話 ホームパーティ ②
会場内は季節の花で綺麗に彩られていて、天井から吊るされたシャンデリアが、煌びやかな光を落としている。
壁際に並べられた長いテーブルには、美味しそうなご馳走が並べられていた。
シャーロットお姉様の隣に並び立っていた、貴婦人が優雅な所作で私たちの方に歩み寄ってきた。
リオン様のお母様にご挨拶する前に、嬉しさの余りに泣いてしまい、公爵家の婚約者としてふさわしくないと言われたら、どうしようと言う思いが、頭の中をぐるぐると駆け巡った。
そんな私の心配とは裏腹に、私の前に立った貴婦人は破顔した。
「あなたがアリスちゃんね! 会いたかったわ!! シャーロットから聞いていた通り、美しい娘ね!」
「初めまして、アリスティアと申します。この度はリオンドール様との婚約を認めて頂き、ありがとうございます」
快活な勢いに気圧されながらも、ドレスの裾をつまみ、ゆっくりカーテシーをする。
「もうっ。社交の場ではないのだから、肩苦しい振る舞いはなしよ」
「⋯⋯母上、まずは名乗ってくれ。アリスが困惑してるだろ」
「そうね。アリスちゃん、私はクリスティーナよ。いやぁー息子もついに結婚かー! 嬉しいわ」
クリスティーナ夫人はニコニコしながら私の手を握って言った。
「これから、ゆっくりと、家族になりましょうね」
⋯⋯家族。
私は実の家族には捨てられた。
でも、リオン様が婚約を申し込んでくれて、私を家から連れ出してくれた。
おかげで、私は安心できる居場所を手に入れることが出来た。
それがどんなに幸せなことか。
「⋯⋯はい、よろしくお願いいたします」
私が微笑むと、クリスティーナ夫人は頷きながら「肩苦しい挨拶はこの辺にして、楽しみましょう」とパンパンと手を叩いた。
給仕の使用人が、シャンパングラス配り始めた。
今日は、屋敷中の使用人が集められていた。
騎士たちは全員集めたら、会場内に入り切らない為、彼らは別の場所で宴会を開いている。
シャンパングラスが全員に受け渡った所で、リオン様がシャンパングラスを掲げた。
「アリスと正式に婚約を結べた事、彼女が生まれてきてくれた事を祝って、乾杯!」
リオン様の声が会場内に響き渡った。
「「「乾杯!!」」」
リオン様の合図に、グラスが触れ合う音が響く。
「アリス、乾杯だ」
「はい! リオン様」
リオン様のグラスと軽く触れ合わせてから口に含んだ。
シュワシュワと弾けて、果実の甘みと香りが口に広がった。
「どうだ? アルコールは大丈夫そうか?」
「はい! 大丈夫そうです」
私はグラスに口を付けながら答えた。
「初めてなんだから、飲みすぎるなよ」
「もちろんです。気をつけます」
「料理を取りに行こう。今日の料理は料理長が、いつもよりも腕をかけて作ったんだ」
リオン様は空になったシャンパングラスを私から取り上げると、給仕のお盆に載せて、私を連れて、壁際の豪華な料理が置かれたテーブルに移動した。
「わぁ! どれも美味しそうです」
お皿を片手にどれから食べるか迷ってしまう。
「気に入ったものを好きなだけ食べるといい」
「はい⋯⋯! これって、リオン様が作ったものですよね?」
私は並べられていた料理の中にサンドイッチを見つけて、リオン様に声を掛けた。
「バレたか?」
「ふふっ、わかりますよ⋯⋯リオン様が作るのは具が多いいので!」
「そうか⋯⋯具の量でバレたのか」
「サンドイッチからいただきますね」
私はサンドイッチを取り、お皿に載せた。
「他にもご馳走があるのにか?」
「リオン様が私の為に作ってくれたんですよね? ⋯⋯違うんですか⋯⋯?」
「⋯⋯違わないが」
「リオン様の手作りが一番のご馳走です!」
楽しく、リオン様と笑い合いながら、他の料理も選んでお皿に盛り付けて、席に移動し椅子に腰を下ろす。
リオン様の作った野菜サンドイッチから食べた。
ふわふわの白いパンは柔らかく、トマトの酸味とレタスの爽やかさが絡み合い、からしマヨネーズのピリッとした辛味が、口の中いっぱいに広がる。
「美味しいです⋯⋯!」
「普段と変わらないだろ」
「慣れ親しんだ味ってことですよ」
サンドイッチを食べきり、フォークを手に取りキッシュに手を伸ばした。
フォークを入れるとサクッと優しい音がする。
口に運ぶと、パイが崩れて濃厚なチーズと卵のまろやかさが広がった。
ベーコンの燻製の塩味と甘み野菜の苦味が加わり、複雑な味わいになる。
後味にバターの風味がふわっと残った。
「んっ、これも、美味しい⋯⋯」
口の中に残る余韻に浸っていると、シャーロットお姉様がシャンパングラスを片手にふらっと、近寄ってきた。
「アリスちゃん!! 楽しんでる?」
「はい! 料理も美味しいですし、皆さんがお祝いしてくれて、嬉しいです」
皆から、あたたかい言葉をかけてもらい、その度に胸の奥がじんわりと温かくなる。
――この溢れる気持ちを言葉にするなら、幸福。と
「ほら、アリスちゃんも飲みましょー」
シャーロットお姉様は顔をほんのり赤くして上機嫌だ。
「⋯⋯酔っ払いの姉さんは、アリスに絡むな」
「いいじゃなぁい⋯⋯私の妹になるんだからぁ」
「しつこいぞ! ⋯⋯アリス、ここにいてくれ。姉さんを別の部屋に置いてくる」
「はい、リオン様」
「まったく、酔うと毎回これだ⋯⋯」
呆れつつため息をこぼしたリオン様は、シャーロットお姉様の腕を支えて連れて行く。
「ちょっとぉ、リオンー? まだ、アリスちゃんと遊ぶの」と不満の声があがるが、会場の喧騒にかき消された。




