第62話 ホームパーティ ①
婚約発表の記念にパーティーを開く為に、今日は朝から忙しかった。
湯浴みをして、メイドたちに丁寧に髪や体を洗われて、全身に香油などを塗りこまれて、髪も肌も艶々になった。
鏡台の前で、化粧を施されながら、数日前のやり取りをぼんやりと思い出していた。
『婚約発表で盛大なパーティーは開かなくても、フリューゲル公爵家の身内だけで、パーティーをするのはどう?』
『それは悪くないな』
『でしょ? お母様からも手紙が来ていたのよ! アリスちゃんとリオンの婚約をお祝いしたいって』
『わたし、リオン様のお母様にお会いした事ないですよ?』
『庭で蝶に触れたでしょ? あれ、お母様の飛ばした精霊で、アリスちゃんがどんな子か確かめたらしいよ。それで「気に入った」って』
そんなやり取りの後、婚約発表のパーティーを開くことになった。(身内だけで)
今日はリオン様のお母様にもご挨拶をする。
「アリスティア様! とてもよくお似合いです」
クロエやメイドたちはやりきったと言う顔で頷き合っていた。
普段はストレートにしている髪は巻かれて、側面の髪は編み込まれて、青いリボンでまとめられている。
化粧は派手すぎず控えめで薄く。
それでも、普段よりも大人っぽく見える。
メイドたちの腕がいいからだろう。
紺碧のふんわりとスカートの裾が広がるパーティードレスを着付けされた。
腰周りに結んだ大きなリボンがお気に入りのポイントだ。
アクセサリー類はリオン様のアクアマリンのペンダントとお揃いのピアスだけを身に付けた。
準備が終わる頃には夕方になっていた。
(そろそろ、ホームパーティーが始まるのね)
軽く息を吐いて、緊張して震える手を握りしめた。
コンコンと控えめなノックが響いて、クロエが扉を開けると、リオン様が部屋に入ってきた。
「アリス、緊張してる⋯⋯?」
「⋯⋯はい」
「今日のアリスは普段も素敵だけど、今日は特に綺麗だ。心配しなくても、お母様は既にアリスを気に入っているぞ」
「あ、ありがとうございます。リオン様も格好いいです」
緊張が少し和らいで私は、目を細めた。
リオン様も私と合わせて紺碧の色の服装で、所々に施された金の刺繍が髪色に引けをとらないくらいで眩しい。
リオン様の腕に手を添えて、フリューゲル公爵家にあるパーティー会場に向かった。
☆☆☆
緊張しながらもリオン様と一緒に、扉を開けてホームパーティーの会場に足を踏み入れた瞬間――。
「「お誕生日、おめでとうございます!! アリスティア様!!」」
大きな拍手と共に祝福の言葉が投げかけられた。
私には聞かされていない内容で、その場で固まってしまった。
婚約発表をお祝いして、リオン様のお母様にご挨拶をするのではなかったのか?
「アリス、十七歳のお誕生日おめでとう。驚いてくれた?」
「っ⋯⋯! え、わ、わたしのたん、じょう、び⋯⋯?」
頭の中が真っ白になって、呆然とリオン様を見上げた。
「誕生日とはお祝いする為にあるだろ? アリスの記念に残る日にしたかったんだ。嫌だったか?」
「嫌、じゃ、ないです⋯⋯ただ、びっくりして⋯⋯」
誰かに誕生日を祝われたのなんて、いつぶりだろう。
誕生日が祝われる為にあることすら忘れていた。
驚きと、戸惑いと、祝われる事への嬉しさが、ぐちゃぐちゃになり、視界がぼやける。
「アリスが生まれてきてくれた事をお祝いしたかったんだ。だから――泣くな。泣かせるつもりはなかったんだ」
「⋯⋯う、うっ⋯⋯嬉しくて、涙が、止まらない、んです⋯⋯祝わっ、てもらえ、るなんて⋯⋯おもっても、いなかったので⋯⋯」
リオン様の手がそっと私が流す涙を拭う。
「これからは、毎年お祝いしてやる。アリスが生まれてきてくれた事に感謝しているんだ」
いつもよりも、柔らかく微笑んだリオン様は私の手を引いて、会場内に足を踏み入れた。




