第61話 ルシアンのいたずら
ルシアンと契約を交わした夜。
寝間着に着替えた私はベッドに横になった。
左右にはルシアンとシルフィが陣取っている。
二匹とも喧嘩をしていたが、クッキーをチラつかせると、少しだけ仲良くなった。
『おい、あの石、オレによこせ』
寝転がりながら、柔らかい毛を撫でていると、ルシアンが話しかけて来た。
「精霊石?」
私がベッドから身を起こすと、ルシアンはテーブルに置かれた、アメジストの宝石をじっと見つめていた。
『そうだ。その足に着けてるアンクレットも一緒に』
「精霊石はいいけど、これは駄目よ」
お祖父様の大事な形見は、いくら契約を結んだ神獣だとしても渡せない。
ルシアンは精霊石を咥えて、私の所に戻ってくると、アンクレットを鼻先で突っついた。
冷たい鼻先が、ひんやりとしてくすぐったい。
『風の精霊王の加護がかかっているだろ? これ』
「そうなの?」
『何も知らねえのかよ。精霊の祝福を受けておきながら⋯⋯まあ、いい』
ルシアンは咥えてきた、宝石を私のアンクレットをつけた足元においてそのままペロリと足を舐めた。
「ちょ、ちょっと!? っ⋯⋯い、嫌、んっ⋯⋯ば、ばか!!」
私が声をあげてもルシアンは舐めるのを辞めない。
ざらざらとした舌で舐められて、ぞわぞわとくすぐったさが、体を突き抜ける。
舐めながら、ルシアンが流し込んでくる強い魔力の様なものに、ぞくぞくと、全身が痺れた。
「んっ⋯⋯」
抑えきれない声が漏れた。
身体中を暴かれるように、駆け巡る魔力に力が入らなくなってどさっと、ベッドに倒れ込んだ。
『なんだ? 魔力を流されるのは初めてだったのか?』
「っ⋯⋯はぁ、⋯⋯な、何すんのよ!! ばか!!」
ルシアンに向かって私は叫んだ。
『風の精霊王の加護とオレの力を一つにしたんだ。足をみろ』
言われた通り足元を見ると、アンクレットの形状が変わっていた。
ジェダイトとアメジスト、二つの宝石が美しく輝いている。
ルシアンの首には銀のチェーンに通されたアメジストが、まるで首輪のように輝いていた。
「⋯⋯これは?」
『オレたちの契約をより強固なものにしただけだ。魔法使いになりたいんだろ?』
「え? 別になりたいわけじゃないけど? 使えたらいいなとは思ったけど⋯⋯今日出会ったばかりなのに、なんで知ってるの?」
魔法使えたらいいなとは、リオン様に話した事はあるけど、どうしてそれをルシアンは知っているの?
このフェンリルは一体何者?
そう考えた瞬間、得体の知れない恐ろしさを感じた。
『オイ! 契約したら全部共有されるんだよ! オレはオマエの過去を全部知ってるってことだ』
「え? ぜ、ぜんぶ⋯⋯」
『別に過去だろ? 今は不幸じゃないんだから、それでいいだろ?』
「そ、そうだね⋯⋯」
『ふんっ。悪かったよ、無理やり記憶を覗いて⋯⋯もう、寝ろ』
ルシアンのふさふさした尻尾が私の頰を優しく撫でた。
温かくて、気持ちいい。
抗う間もなく、瞼が重くなり、私は深い眠りに落ちていった。




