第5話 美味しいご飯
「契約内容については書面に書いてアリス、君に渡しておく」
リオン様は用紙を取り出して書面にしてくれた。
全ての内容に目を通してから私はリオン様に視線を戻した。
「この内容で本当にいいのですか? あとからやっぱり無しとか言いませんか?」
私は驚きつつ聞いた。
私に有利すぎる内容にただ呆然としてしまった。
「ああ、アリス、私は君と婚約できるだけで嬉しいんだ。この先、君に気に入って貰える男になれるよう努力するからいいんだ」
美形すぎるリオン様に正面から見つめられるのは心臓に悪い。
生活の保証をされた安堵からかお腹がぐうーと小さな音を立てて鳴り、私は恥ずかしさで顔を覆った。
「ふっ、はは、ご飯食べに行こうかアリス。約束通り、飢えさせたりはしないからな」
口元を隠して笑うリオン様を見て、根は優しく温かい人なんだと思った。
(私も少しはリオン様を信じてもいいのかな?)
私を優しくエスコートしてご飯が食べられるレストランに連れて行ってくれた。
☆☆☆
レストランに入った瞬間、肉の焼ける香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
ごくりと唾を飲み込む。
案内されたのは静かな個室だった。
真っ白なテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルに、優雅に私を座らせてから向かいに側に腰を下ろした。
「アリスは何が食べたい? 好きな物を好きなだけ頼むといい」
「いいんですか!?」
私は前のめりで答えて、リオン様が渡してくれたメニューに目を通す。
どれも美味しそうで目移りする。
「この⋯⋯カルノタトルのステーキがいいです」
じっくり悩んで決めた。
カルノタトルが何なのかは知らないけど、ステーキって書いてあるから、お肉だよね?
「わかった。それだけでいいのか?」
「はい!」
不思議そうにリオン様は首を傾げるけど、私は大食いな訳じゃない。
普通の一食分が食べれれば満足だった。
料理を注文してしばらく待つと、給仕の人が料理を運んできた。
目の前に置かれた瞬間、黄金色に輝く脂が光っているように見えて、甘い肉の香りがふわりと広がる。
ナイフを入れるとジュワッと肉汁が溢れ、切った断面がうっすらとピンク色に染まっていた。
「いただきます」
フォークとナイフを持って食べやすいサイズに切って、一口大にして口に運ぶ。
「んっ⋯⋯!」
歯を立てた瞬間、柔らかな肉がとろけるように崩れ、熱々の甘い肉汁が口いっぱいに広がった。
にんにくと醤油のコクが絡み、噛むたびに旨味が染み出てくる。
夢中で咀嚼していると、肉の甘さと脂のまろやかさが舌の上で溶けていく。
「うまいか?」
リオン様が満足そうに私を見つめながら尋ねてきた。
「⋯⋯肉がとろけます。本当においしいです」
私は頬を赤らめながら答えた。
小屋で自分で作り、食べていた粗末な食事とはまるで別物だった。
こんなに美味しくて、温かいご飯を毎日食べられるなんて⋯⋯。
不安はまだ残っていたけど、こんなに美味しい物を食べさせてくれるリオン様となら、結婚するのも悪くないのかもしれない。
私はフォークを握る手に、少しだけ力を込めた。




