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虐げられた無能令嬢ですが、公爵様に甘やかされて溺愛されています。~もふもふと美味しいご飯付きで~  作者: 桜ましろ


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第51話 婚約発表と決意 ①

 ☆☆☆


(⋯⋯⋯⋯ふわふわしてる)


「んぅ⋯⋯っ、し、シルフィ⋯⋯?」


 まどろみの中で意識がゆっくり浮上する。


 腕の中にあるふわふわした感触がシルフィかと思った瞬間、別の方向からぺろぺろと頬をくすぐる柔らかい感触がした。


「⋯⋯あれ? シルフィおはよう」


「きゃうっ!」


 シルフィがしっぽを振ってベッド全体が微かに揺れる。


 腕の中のふわふわがシルフィじゃないことに気づき、昨日リオン様にプレゼントされたテディベアを抱えていたことを思い出した。


 ⋯⋯リオン様に昨日「愛してる」って言って貰えたんだ。


 ふわふわする幸せな気持ちに包まれながら私はテディベアをぎゅっと抱きしめ、頬が緩むのを抑えられなかった。


「ふふっ。幸せだなぁ」


「そうか。幸せか?  アリス」


「ひゃっ!?」


 ベッドの上でシルフィに顔を舐められ、テディベアを抱きしめたまま、ごろごろしていた私に横から投げかけられた、リオン様の声に私は奇声を上げて飛び起きた。


「っ⋯⋯、くっ、⋯⋯くふっ⋯⋯」


 リオン様が堪えきれずに漏らす低い笑い声に、私は一瞬で頬を真っ赤にした。


「な、なんで、わたしの部屋にいるんですか!」


「扉をノックしたが、聞こえなかったのか? クロエが許可してくれたから入ったんだが、ダメだったか?」


「っ⋯⋯! だめじゃ、ない、です⋯⋯おはようございます」


「ああ。おはよう」


 リオン様はいつもみたいに頭を撫でながら「もう、お昼だけど」と付け加えた。


 よく見ると、リオン様は騎士団の制服に身を包んでいて、その耳には私とお揃いで買ったピアスが輝いていた。


 お揃いのものを身に付けていることに、むず痒い幸せを感じる。


「あ⋯⋯、朝のお見送りできなくてすみません⋯⋯リオン様からバターのいい匂いがします」


 朝のお見送りを出来なかった残念さに謝りながらも、リオン様から仄かに漂う甘いバターの匂いが気になった。


「気づかれてしまったか。焼き菓子を買って来たんだ。後でゆっくり一緒に食べよう」


「焼き菓子! 嬉しいです」


 私はテディベアを抱いたまま、ベッドに座りなおした。


 リオン様もベッドの端に腰を下ろし、私の乱れた髪を指で優しく梳いてくれた。


 ☆☆☆


 仕事から帰ってきたリオン様に呼ばれて、執務室に向かい扉をノックすると、中からは何故かシャーロットお姉様の返事が返ってきた。


「入っていいわよ」


 少し緊張しながらも扉を開けると、バターと紅茶の甘く溶け合ったような香りがふんわりと部屋に広がっていた。


「おいで、アリス」


 リオン様が座るソファの隣に来るように私を呼び、私はその隣にそっと腰をかけた。


「急に呼び出してごめんね。食べながらでいいから、聞いて欲しい話があるの」


 背中に緊張が走り、私はぴんと背筋を伸ばした。


「緊張しなくても大丈夫だ。ほら、食べて」


 リオン様は微笑みながら、テーブルにあった焼き菓子を口元に近づけてきて、私は反射的に口を開けて食べた。


 濃厚なバターのコクとアーモンドの深みが一気に広がり、噛めば噛むほどに風味がじわじわと染み出てくる。


 緊張は一瞬で溶かされて、私はリオン様に差し出された焼き菓子を食べきった。


「小動物みたいね。リオンが甘やかしたくなるのもわかるわ。ほら、アリスちゃんこれも食べて」


「⋯⋯え? あ、ありがとうございます」


 シャーロットお姉様から差し出された焼き菓子を手で受け取ろうとしたら「ほら、あーんして?」と食べさせられてしまった。


「おい! 姉さん、アリスに食べさせるのは私の特権だ」


「あらあら?  嫉妬? リオンも姉さんに食べさせて欲しかったのね?  しょうがないわね。ほら、あーん」


「からかうな」


「ふふ、冗談はこの辺にして、本題に入るわね」


 シャーロットお姉様は笑いながら、リオン様に食べさせようとしていた焼き菓子を食べた。


「アリスちゃんはリオンの婚約者⋯⋯いずれはリオンと結婚するでいいのよね?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は、はい」


 緊張で声が震えてしまった。


 シャーロットお姉様は目を細めて、本当に嬉しそうに微笑んだ。


「アリスちゃんがリオンと結婚してくれるなら安心ね。意思の確認も出来たし、私は二人の婚約を歓迎するわ」


「ありがとうございます。シャーロットお姉様」


 お礼を伝えると、リオン様がぽんと、私の頭に手を乗せた。


 その手が優しく私の頭を撫でる。


「アリス、私たちの婚約を正式に発表したいと考えているんだが、いいか?」


「はい。もちろんです」


「よかった」


 リオン様は大きく息を吐いて続けた。


「婚約を発表したら、アリスは正式にフリューゲル公爵家の婚約者になる。そしたら、社交界に出なければいけなくなるが、大丈夫か?」


 社交界。


 その言葉に私の体が小刻みに震える。


 最後に社交界に顔を出した日に、無能と嘲笑された苦い記憶が頭の中を駆け巡ったからだ。

 

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