第49話 帰り道の馬車の中で
馬車の中で私がテディベアを抱き抱えていると、リオン様が私の肩をそっと抱き寄せた。
「⋯⋯アリス」
「はい」
「テディベアを恋人に贈る意味を知っているか? 」
私が首を振ると、リオン様の声が甘く耳をくすぐった。
「大切な人に愛情を伝える為に贈るんだ。アリス⋯⋯ずっとそばにいたい⋯⋯愛してる」
「っ!? 」
驚きのあまり声も出せずに、私は一瞬で耳まで真っ赤になった。
耳元で聞かされた声に、頭の中が真っ白になり、心臓がどくん、と大きく跳ねて、その後は早鐘のように鳴り始めた。
「り、リオン様⋯⋯っ」
声が上ずって、言葉にならない。
抱きしめていたテディベアをぎゅっと胸に抱きしめなおしてリオン様を見上げた。
「⋯⋯わたしも、リオン様のことを⋯⋯愛しています」
今日の私は、リオン様にもらってばかりで何も返せていない。
だから、ほんの少しだけ勇気を出して、気持ちを伝えた。
そして。
ちゅ、と唇を重ねた。
触れるだけの軽いキス。
「っ――!? あ、アリス⋯⋯?」
初めて自分から口付けをした。
恥ずかしさのあまり、私はテディベアに顔を埋めて隠した。
(こ、こんなにも、勇気がいるものなんて⋯⋯知らなかった)
馬車の車輪が小石を踏む音と自分の心臓の音を聞きながら、どんな顔をしてリオン様を見ればいいのか分からない。
「アリス」
名前を呼ばれたと思った瞬間、軽々と抱き上げられ、リオン様の膝の上に包み込まれるように座らされた。
「あ⋯⋯」
顔を上げると、リオン様も頰を赤く染めていて、その瞳は熱を帯びて揺れていた。
「もう一度、いいか?」
頬に手を添えられて、リオン様の顔が近づく。
全てを委ねるように目を閉じ、体から力を抜いた。
「⋯⋯んっ」
ゆっくりと重なったリオン様の唇は、とても甘くて、ちょっとだけ離れたくなくなってしまった。
「ふふっ、照れてるリオン様もかわいいです」
「⋯⋯っ! あまり煽るな⋯⋯我慢できなくなる」
「恥ずかしいですけど⋯⋯我慢しなくてもいいです、よ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は? 意味わかって言っているのか?」
「いまみたいな⋯⋯キスはいやじゃ、ないです。その⋯⋯幸せだなって気持ちになります」
「っ⋯⋯そうだな。でも⋯⋯男は狼だってことも忘れるなよ」
「⋯⋯リオン様は猫では⋯⋯? ふ、ふたりきりの時は猫みたいに甘えてくれてもいいんです、よ。わたしもリオン様を甘やかしたいです」
リオン様は私の額に軽くキスを落として、強く抱きしめた。
「たまには、そういうのも悪くないな」
馬車の心地いい揺れと、リオン様に包まれている安心感から瞼が重たくなる。
ゆっくりと髪を撫でられて、うとうとする。
「疲れただろう⋯⋯寝てもいい」
その言葉に、私はゆっくりと意識を手放した。




