第48話 デザートとおもいで
お腹も心も満たされて、魔導具のランタンがキラキラと輝く夜の街を一緒に手を繋ぎ歩く。
昼間とは違った街並みに私は、感嘆の声を漏らしながら、はしゃいでいた。
夜の街を出歩くのは、本当に初めてだった。
なんとも言えない好奇心に突き動かされる。
(すごく、楽しい!!)
「リオン様! あっちのお店すごく賑わってます! なんですか?」
「ん? ああ、あそこは酒場だな」
「酒場⋯⋯?」
リオン様の言葉に私は首を傾げる。
「一日の疲れを癒したり、仲間内で大騒ぎしたり⋯⋯お酒を飲みながら、料理を食べる所だ。お酒と一緒に食べるおつまみは、絶品だったりするが⋯⋯酔っ払った奴が暴れ出したり、ガラの悪い奴らがいるから危険だ」
私は「おつまみ」と言う言葉に、リオン様を見上げた。
後半に暴れるとか何とか言ってた気がするが、ちゃんと聞いていなかった。
リオン様の手をそっと引っ張ってみたが、リオン様は私を別の方向に連れて行った。
「さっき、お腹いっぱいだって、言ってただろ?」
「もう少し食べれます」
「わかった。酒場はまた今度連れて行ってやるから、今日はこれで我慢してくれ」
リオン様は本日、二度目の果物の串刺しが売ってるお店の前で立ち止まった。
昼間とは違い、串刺しの果物の表面が薄く飴でコーティングされていた。
「いちごの宝石みたいですっ!」
「どうぞ。私の可愛いお姫様」
「ぴゃっ!?」
リオン様がいたずらっぽく揶揄ってくるから、思わず変な声を上げてしまった。
店員さんにも「可愛いお嬢さんですね」と微笑まれた。
「ん? ああ、ほら、あーん」
リオン様はいちごの飴でコーティングされた串刺しを私の口元に持ってくる。
私はぷるぷる震えながら⋯⋯かぷっと、かじりついた。
パリッと飴の割れる楽しい食感と甘さ。いちごの酸味の混じり合いが絶妙だった。
「んっ、⋯⋯甘くて、ちょっと酸っぱくて、美味しいです」
「気に入ったか?」
「はい! ありがとうございます」
私は二口目を頬張りながらこくこくと頷いた。
その後もしばらく街を歩きふと、目に入ったお店の前でで足を止めた。
「どうした? 気になるのか?」
「いえ、懐かしいなと思ったんです」
「懐かしい? せっかくだ。見て行こう」
「えっ? いや、大丈夫ですっ」
「アリスが食べ物以外で興味を持つのも珍しいからな」
リオン様に手を引かれてお店に入った。
「いらっしゃいま⋯⋯こっ、公爵様!? あわわっ。し、失礼いたしました。 いらっしゃいませ。 ごゆっくりご覧ください」
中にいた店員が驚いた声をあげて、慌てて頭を下げた。
リオン様に連れられて入ったお店はぬいぐるみを売っているお店だった。
ふわふわの犬、猫、鳥、きつね、くま、などの動物を型どったぬいぐるみが並べられていた。
「どれが懐かしいんだ? アリス」
手を繋ぎながら穏やかにリオン様が聞いてきた。
「テディベアのぬいぐるみ⋯⋯お祖父様から最後にもらった大切なものだったんです。いまはもうありませんが⋯⋯」
「すまん。辛い記憶だったか?」
リオン様が申し訳無さそうな顔をした。
「あ⋯⋯」
辛い記憶かと言われたらそうなのかも知れない。
私ひとりだけ、治癒の能力を使えなくて、辛かったときにお祖父様に、もらったぬいぐるみを抱きしめて心の支えにしていた。
「私が治癒の力を使えなくて⋯⋯無能だって期待に応えられなかったから⋯⋯燃やされてしまったんです」
握った手に力が込められ、その手が僅かに震えているのがわかった。
いつもは優しいリオン様の鋭く冷たい表情を見るのは初めてだった。
店内の柔らかい照明の下でも、瞳の奥に宿る冷たい怒りがはっきりと見て取れた。
「燃やされた、だと⋯⋯母親にか?」
「お母様ではなく、私の弟とグレイス伯爵家の令嬢にです。お母様もその場にいましたが⋯⋯」
「⋯⋯弟と、グレイス伯爵家の令嬢か」
いつも私に向けられる優しい声とは違う。
低く、押し殺したような声でリオン様は呟いた。
「も、もう、過去の事ですので。それに、ぬいぐるみの瞳に使われていた宝石だけは私の手元に⋯⋯アンクレットとしていつも身に付けているんです。全部失った訳じゃないので」
私は慌てて首を振った。
リオン様は深く息を吐くと、ゆっくりと私の頭を自分の胸に引き寄せた。
「それでも、大事なものを目の前で壊されたのは辛かったはずだ。それに、今のアリスは無能なんかじゃないだろ?」
「⋯⋯はい。でも、わたし⋯⋯お祖父様の形見はずっと、このアンクレットだと思っていたので、酷い⋯⋯ですよね」
アンクレットに付けられたジェダイトの小さな宝石が、幼い頃私をかわいがってくれた、お祖父様の瞳の色に似ていたから、そう思っていた。
だから、ぬいぐるみを外から見た時に懐かしい気持ちになった。
「酷いわけない。酷いのは奪った奴で、アリスは形が変わっても大切にしていたんだろ? 今でもずっと身に付けているんだから、アリスのお祖父様も喜んでいるはずだ」
「⋯⋯⋯⋯」
また泣きそうになり、リオン様の服をぎゅっと、掴んだ。
リオン様は私の頭を優しく撫でて「泣いてもいい」と言ってくれた。
その言葉に胸が熱くなり、肩を震わせて泣いてしまった。
しばらくそうして、落ち着いた私がリオン様から離れると、リオン様が優しく微笑んだ。
「代わりにはならないが、テディベアをプレゼントしてもいいか?」
私は目を見開いて、リオン様を見つめて小さく頷いた。
さっきの「甘えてもいい」と言ってくれた言葉を思い出したから。
私は抱き心地のいいふわふわなテディベアを一つ選んで、抱きしめた。
「この子にします。リオン様に似ている気がするので」
「私に似ている⋯⋯?」
「はい。さすがに金色のは無かったですが、この青い目がリオン様に似ています」
「アリスがその子を気に入ったのなら、それにしよう。それと、今度は誰にも奪われないように保護魔法をかけよう」
「そ、そこまではしなくても大丈夫です」
リオン様はくすりと笑い私の頭を撫でて、支払いを済ませた。
私はテディベアを片腕で抱き、もう片方の手でリオン様と手を繋いだまま、ゆっくりと馬車に向かって歩いた。




