第47話 お肉料理!
私のリクエスト通りに、リオン様は私をお肉の美味しいお店に連れて来てくれた。
「ふふっ、ローストビーフ丼楽しみですっ!」
注文を済ませて料理を待つ間も楽しい。
魔導具の淡く優しい光に店内は照らされていて、個室のレストランとはまた違った賑やかな場所だ。
夕飯を楽しんでる家族、友人などの楽しそうな声も聞こえてくる。
「そうだな。今日は楽しかったか?」
「はい! すごく楽しかったです。街に連れてきてくれてありがとうございました」
「楽しんで貰えたなら、良かった。途中で姉さんの邪魔が入ったがな」
リオン様が少し遠い目をする。
「私は嬉しかったですよ。シャーロットお姉様にも認めて貰えましたし」
「姉さんが認めなくても、アリスは私の婚約者だ。アリス以外と結婚する気も、手放すつもりは無いからな。それに、公爵家の当主は私なんだ⋯⋯誰がなんと言おうが、私が欲しいのはアリスだけだからな」
面と向かってそんな事いわれたら、気恥しさで死んでしまいそうになる。
私は熱を冷ますように水を飲んだ。
「っ、でも、やっぱり、私はちゃんとリオン様の家族に認めて貰いたいです。今日、姉弟で仲良くしている姿をみて⋯⋯羨ましかったです」
そのまま私は少し俯いた。
「両親もアリスの事を気に入ってくれるだろうし、姉さんには気に入られているだろ?」
「⋯⋯はい、⋯⋯頭ではわかっているんです⋯⋯リオン様が私を大切にしてくれて、認めてくれていることも⋯⋯」
前を向こうと決意を固めても、たまに、家族と幸せだった頃と、急に家族に見捨てられた頃の悪夢を交互に見ることがある。
急に見捨てられたと思っていた記憶は偽物で、虐待の末に見放されたのだと思い出したけれど。
そんな夜は、自己嫌悪に陥り、恐ろしくなる。
ぽんと私の頭に大きな手が乗せられた。
「アリスの辛い過去はぜんぶ、私が楽しい記憶で塗り替えてやる。⋯⋯辛い夢をみたら私を起こしていい。ぜんぶ吐き出せば、心が軽くなる。アリスにはいつも笑顔でいて欲しいからな」
優しくて安心する手に髪を撫でられて、すぐ、嬉しいと思うのは単純なのかも知れない。
「⋯⋯⋯⋯その時は、甘えさせてもらいます」
「ああ、たくさん甘やかしてやる」
「それは⋯⋯心臓がもたないので、程々で、お願いします」
リオン様が、頭を撫でていた手を滑らせて、私の頬に触れたちょうどその時、店員が熱々のローストビーフ丼を運んできた。
テーブルの上に置かれた瞬間、肉とにんにく醤油の甘辛い香りが鼻腔をくすぐり、私は目を輝かせた。
薄くスライスされたローストビーフが美しく重なり合い、表面はロゼ色で、端には焼き色がついていて、真ん中に卵の黄身が乗せられている。
とても豪華な一品だ。
スプーンを片手にまずは、タレのついたローストビーフをひとくち口に運んだ。
「んんっ⋯⋯! おいしい⋯⋯っ! タレが染み込んでいて、お肉は濃厚で⋯⋯最高ですっ!」
噛めば噛むほど肉の旨味が染み出してくる。
黄身を崩して絡めるとそれが、また最高だった。
リオン様も自分のを食べながら、私の顔を見つめている。
「いつも美味しそうに食べてて、見ていると幸せな気分になるよ」
「美味しいものを食べてると、幸せな気分になるんですよ⋯⋯! す、好きな人と一緒だと⋯⋯もっと、特別で幸せです⋯⋯」
「ごほっ、⋯⋯っ! そ、そうか⋯⋯」
「だ、大丈夫ですか!? お水どうぞ」
「ああ、ありがとう」
むせたリオン様は私から水を受け取ると豪快に飲み干した。
「大丈夫だ。アリスが幸せなら、私も嬉しい」
「⋯⋯はいっ!」
残りのローストビーフ丼を食べ進めていると、ふと先ほどの話が頭をよぎった。
「辛い夢を見たら起こしていい」って⋯⋯。
リオン様の優しさに、本当に、全部吐き出していいんだろうか。
一緒にご飯を食べているリオン様の顔を私は、そーっと、盗み見た。
そして――
視線が絡み合い心臓がどくんと跳ねた。
胸の奥がむず痒くなる。
もっと、もっと、リオン様に甘えたいと、求めてしまう自分がいる。
言葉では言い表せない感情が⋯⋯静かに溢れた。
リオン様がそばにいてくれる。
――こんな時間がこの先もずっと続けばいいのに。




