第46話 気まずさ
買物を終えて魔導具店から出ると、空は黄金色に染まっていた。
「あら? ⋯⋯もう、こんな時間なのね」
「姉さんがなかなか買うものを決めないからだろ?」
「そんな事言って、リオンだって、アリスちゃんとイチャイチャしてた癖に⋯⋯ねぇ?」
シャーロットお姉様がそっと私に視線を滑らせた。
私はリオン様にされた事を思い出して、一瞬で頬を熱くした。
(き、気まずすぎる⋯⋯恥ずかしくて、リオン様とも視線を合わせられないよ⋯⋯)
「姉さんには関係ないだろ! 自分の婚約者を可愛がって何が悪い」
「そうね⋯⋯婚約者だもんね。魔導具も沢山買えたし、せっかくの、デートをこれ以上邪魔するのもねえ⋯⋯邪魔者は先に帰るわ」
「『買えた』じゃなくて、買わせただろ?」
「あ、あの⋯⋯私は、シャーロットお姉様と買物できて、楽しかったです!」
姉弟の話に口を挟むように、私も伝えたかった事を伝えた。
もちろん、リオン様と二人きりで遊んだ前半も楽しかったけど、こうやって、誰かと話をしながら買物をするのも、初めてで、今日のすべてが特別だった。
「あー、もう! アリスちゃん可愛すぎる!! 私が持ち帰りたいぐらいよ」
ぎゅーっと、私の腕に抱きついてくるシャーロットお姉様の優しさを感じながら。
「わ、わたしは、リオン様がいいです」
「わかっているわ! アリスちゃんなら、安心してリオンを任せられるもの! これはお姉さんからのプレゼントよ」
ふわっと、体をすっぽり覆うような黒い魔術師のローブを羽織らされた。
袖口には金糸で刺繍が施され、フードには猫耳が付いた可愛らしいデザインだった。
「かわいいわ! とても良く似合ってる。やっぱり、リオンじゃなくて、アリスちゃんが猫になるべきだと思うのよ!! 夜はまだ、冷えるからちゃんと、温かい格好をして、リオンとはぐれないようにね!」
「ありがとうございます⋯⋯!」
「あとは二人っきりで続きを楽しんでね! アリスちゃん、また後で城でお話しようね」
明るく手を振りながら、シャーロットお姉様は去っていった。
「⋯⋯アリス」
「は、はい!」
まだ、どんな顔をして、リオン様を見ればいいのか分からなくて、ローブのフードを深く被る。
「さ、さっきのは、忘れてくれ⋯⋯アリスが可愛くて、つい、無理矢理してしまった⋯⋯」
「っ⋯⋯!! わ、わ、わ⋯⋯む、蒸し返さないでください!」
「私だって、緊張したんだぞ?」
「わ、わかりましたからっ!! もう、忘れましょう⋯⋯! 」
あたふたしながら、私は手をパタパタする。
リオン様の熱い吐息が、唇を奪われた時の感覚が蘇り、顔の中心に熱が集まるのを感じる。
「⋯⋯⋯⋯」
私はフードを深く被ったまま、チラリと、リオン様の横顔を盗みみた。
リオン様も夕焼けに負けないくらい、赤くなっていた。
私は唇の感覚がまだ残っている気がして、自分の唇に指で触れた。
「⋯⋯アリス、さっきの、嫌だったか⋯⋯?」
リオン様がそっと私のフードをめくった。
黄金色の夕焼けに照らされるリオン様の髪が美しくて、見惚れてしまう。
「⋯⋯っ! 嫌じゃ、なかったです⋯⋯でも⋯⋯まだ、ああゆうのは早いですっ」
心臓がばくばくして、息が苦しい。
嫌じゃなかった。
でも、恥ずかしくて、初めての感覚で頭がいっぱいだった。
「つまり、キスはしていいと?」
「⋯⋯!!」
(わ、忘れようとしているのに⋯⋯また、さらっとそういう事を言う)
私が言葉を詰まらせると、リオン様はそれを肯定と受け取ったのか、そっと私の頬をリオン様の手が包み込む。
「っ⋯⋯! り、リオン様こそ⋯⋯、照れてたくせにっ⋯⋯」
リオン様の表情が驚いたように固まった。
「なっ⋯⋯! 煽ってるのか!? まだアリスには余裕があるようだな?」
そう言って、リオン様が顔を近づけてくる。
「ま、待ってくだ、さ⋯⋯あっ⋯⋯んっ⋯⋯」
軽く啄むようなキス。
「可愛いな、アリスは本当に⋯⋯」
耳元をくすぐる声に慌てて、私は両手でリオン様の胸を押し返した。
「っ⋯⋯!! ばか⋯⋯」
口の中で小さく呟くように言いながら、歩き出す。
余裕なんてないし、揶揄われているのもわかってる。
でも、嫌じゃなくて⋯⋯。
もっと、欲しい、離れたくないと思ってしまう。
心臓を落ち着かせるように、胸に手を当てて、大きく深呼吸して、後ろを振り返った。
「⋯⋯まだ、帰りたくないです。美味しいご飯食べに行きましょう」
私はそっと手を差し出した。
リオン様は微笑み指を絡めるように、手を繋いでくれた。
溶けそうなほど、熱くて、気まずさは残るものの、その気持ちすら、特別なものに感じる。
「ふっ、はは、そうだな。ご飯何が食べたい?」
「お肉、⋯⋯お肉が食べたいです!」




