第45話 魔導具店 ②
「⋯⋯⋯⋯はぁ⋯⋯可愛すぎるたろ⋯⋯」
リオン様はため息をこぼしながら両手で顔を覆う。
その手の隙間から見える顔が紅潮しており、シャーロットお姉様にはまた「リオンは本気でアリスちゃんに惚れているのね」と揶揄われていた。
私は体温が上がるのを誤魔化すように、ガラスケースの中の魔導具に視線を戻した。
魔導具としてのアクセサリーには髪飾りの他にも、ネックレスやイヤリング、指輪、ブレスレットなどが置いてあり、どれも、目を引くような輝きを放っている。
その中でも私は、淡い青と紫の星型の宝石が輝くピアスに目が留まった。
二色の宝石が寄り添うように輝いていて、とても綺麗だった。
「それが、気に入ったのか?」
眺めていたら、後ろからリオン様が耳元で優しく囁いた。
「はい⋯⋯! わたし、これ、リオン様とお揃いで付けたいです」
「もちろんだ。⋯⋯ただ、ピアスだからつける時に少し、痛むかもしれないぞ⋯⋯?」
リオン様の手が私の耳たぶにそっと触れる。
その感触に思わず体が固まった。
「⋯⋯だ、大丈夫⋯⋯です⋯⋯我慢できます⋯⋯」
痛いのは怖い。
でも、それがリオン様から与えられるものなら⋯⋯大丈夫。
殴られたり、叩かれたりする訳じゃないんだから、このくらいは我慢できる。
「わかった。私が優しくつけてやる」
「⋯⋯はい」
私は小さく頷いた。
店員が個室と器具を用意してくれた。
私はリオン様の膝の上に座らされた。
「⋯⋯アリス。目を閉じて⋯⋯大丈夫だから、私に体を預けろ」
私は素直に目を閉じ、体の力を抜こうとしたが、冷たい金属の先端が、耳たぶにぴたりと当てられた瞬間、私は思わず息を止めた。
過去の痛みが一瞬で蘇り、体が恐怖に震える。
その時、唇に柔らかいものが触れた。
「んっ⋯⋯!?」
優しく、深く、包み込むような口付け。
リオン様の舌がそっと入り、私の舌を優しく絡め取り、甘く、ねっとりと溶け合うように。
甘い唾液が混ざり合い、頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。
わけがわからず、目に涙が浮かび、くったりと体の力が抜けた。
瞬間――。
ちくっ、と耳たぶを刺す鋭い痛みを感じた。
「んっ⋯⋯! ふ⋯⋯あっ⋯⋯っ」
痛みは一瞬で無くなり、私は喉の奥で小さく甘い声を漏らした。
リオン様の唇が離れて、力の抜けた私の体はリオン様に支えられる。
「⋯⋯アリス、大丈夫か? つけ終わったぞ」
「っ⋯⋯あっ⋯⋯り、リオンさ、ま⋯⋯」
「痛くなかっただろ?」
リオン様の大きな手が私の髪を優しく撫でる。
「⋯⋯っ、はぁ⋯⋯っ、そ、それ、どころ、じゃ⋯⋯ないです」
息を乱しながら、リオン様の胸に寄りかかり何とか答える。
過去に与えられた恐怖が、痛みが、甘く溶かされるように、リオン様に上書きされていく。
「怖くなかっただろ? ⋯⋯よく頑張ったなアリス」
「っ⋯⋯!! いじわる⋯⋯」
しばらくリオン様に抱きしめられて、ようやく落ち着きを取り戻した私は、リオン様と一緒に部屋をでた。
「遅かったわね。リオン、アリスちゃん⋯⋯って、二人とも顔真っ赤だけど、ピアスつけるだけだったよね!?」
店内に戻ると、シャーロットお姉様が近づいてきた。
「⋯⋯⋯⋯な、なんでもないです⋯⋯」
私は直視できずに視線を泳がした。
「本当に?」
「⋯⋯はい」
「無事に付けられたみたいね。リオンとお揃いで」
シャーロットお姉様が鏡を私たちに渡してくれた。
鏡の中では、リオン様と片方ずつ、お揃いの星型ピアスが耳元で輝いていた。
「⋯⋯リオン様と、お揃い⋯⋯すごく、嬉しいです」
「ああ、よく似合っている」
リオン様も嬉しそうに笑った。
結局、私は追加で、三日月猫のバレッタと複数の魔法が付与されたブレスレットを買ってもらった。
そして、シャーロットお姉様が選んだ魔導具もいくつか。
私はリオン様とお揃いだという事実が、ただ嬉しかった。
ほんの少しだけ、過去の傷を優しく受け入れられたような気がした。
リオン様から頂く物は、全部大切にして、宝物にしよう。
私はそっと、ピアスを指でなぞった。




