第44話 魔導具店 ①
突然、声を掛けてきたシャーロット様に連れられて来たのは魔導具店だった。
店内に入るとガラスケースの中には、宝石がはめ込まれたアクセサリーが並び、棚には古びた本や不思議な薬瓶がずらりと並んでいる。
先程はだらしない姿を見られてしまった私は、今度こそしっかりしようと、思っていたのに、初めて見る魔導具に心を奪われていた。
「はわわわっ⋯⋯!」
目をキラキラさせながら、魅入ってしまった。
「アリスティア嬢は魔導具店に来るのははじめて?」
「⋯⋯あ、す、すみません⋯⋯みっともない姿をお見せしてしまい」
(リオン様のお姉様なのに、私、失態ばかりだ⋯⋯)
「うふふ。いいのよ? そんなに畏まらなくても。だって、リオンがあそこまで、甘えて心を許してる姿を見ることになるなんてね?」
揶揄うように、言いながらシャーロット様はリオン様に視線を滑らせた。
「⋯⋯さっきのは、忘れろって言っただろ? 姉さん」
「記録用の魔法石持ってくるべきだったわ。お父様とお母様にも見せてあげたかったわ」
「⋯⋯っ! そんな事をして、何が楽しいんだ?」
「楽しいに決まってるわ! あの無愛想で、ただひたすら魔物狩りをしていた弟が、こんなに可愛らしい、お嬢さんを捕まえてくるなんて⋯⋯ねぇ?」
シャーロット様は笑いながら私の肩に手を置いた。
「アリスちゃんって呼んでもいい? 私の事はお姉様って呼んで欲しいかな⋯⋯心配しなくても、私はアリスちゃんの味方だよ」
「⋯⋯はい! もちろんです。ありがとうございます。シャーロットお姉様」
味方だと言って、私を認めてくれるシャーロットお姉様の言葉が、私の不安に思う心を軽くしてくれる。
「ほんと、いい子ね。社交界で流れている良くない噂なんて、あてにならないわね。私がその場にいたら魔法でぶっ飛ばしてあげるのに」
ぽんぽんとリオン様がよく私の頭を撫でてくれるように、シャーロットお姉様が撫でてくれる。
その優しさに目元に涙が浮かぶ。
「魔法でぶっ飛ばすのはやり過ぎだろ」
「これでも一応、私も公爵家の令嬢よ? 逆らえる人なんていないと思うけど?」
「姉さんがよくても、アリスが困るだろ?」
「アリスちゃんだって、もう公爵家の一員なんだから、手出しできる人なんていないわ」
「当たり前だ! 私が守り、幸せにするんだから」
「アリスちゃん⋯⋯顔が真っ赤よ?」
「ううっ⋯⋯さらっとそう言うこと言わないでください」
姉弟の言い合いで、出た言葉に私は頬を染めた。
「さて、魔導具選ぼうか! もちろん、リオンの奢りでね」
シャーロットお姉様は楽しそうに魔導具を選んでいく。
「アリスちゃんもこっちにおいで! 」
「あ、あの⋯⋯わたし、魔導具はよくわからないので⋯⋯」
「大丈夫よ! 魔導具は誰でも使えるから、遠慮しないで⋯⋯普通のアクセサリーとしても使えるから、気に入ったものがあれば買ってもらいましょう」
「え、で、でも⋯⋯」
私が戸惑いながら後ろを振り返ると、リオン様が近づいてきた。
「姉さんはともかく、アリスが欲しいと思った物ならプレゼントしたい」
「⋯⋯! さっきもドレスとか沢山買ってもらったのに、これ以上は頂けません」
「私はアリスの喜ぶ顔が見たいんだ。遠慮せずに、私の好意を受け取ってくれないか? 」
そのままリオン様は私の耳元に顔を寄せて囁いた。
「食べ物は遠慮なく好きなものをねだってくれるんだから、同じようにもっと、欲張っていいんだよ? アリスを誰よりも幸せにしたいし、誰よりも幸せであるべきなんだから」
「っ⋯⋯! ずるいです⋯⋯こういう時だけ⋯⋯」
「こういう時だからこそだ」
リオン様に耳元で甘く囁かれて、私はもう顔が熱くて、視線を合わせられなくなっていた。
ここまで言われて、否定し続けるのは、リオン様から与えられる気持ちを否定するようで、私もこの好意を受入れようと思った。
「⋯⋯わ、わかりました。少しだけ⋯⋯欲張りになります」
「ああ、私にだけは遠慮するな」
「はい⋯⋯!」
「アリスちゃん⋯⋯これなんてどうかな? アリスちゃんの白い髪にも映えるし、とてもよく似合うわよ!」
シャーロットお姉様が見せてくれたのは、三日月と猫をモチーフにした、小さいアクアマリンの宝石の付けられたバレッタだった。
「⋯⋯これ、かわいいです!」
「でしょ? アリスちゃんが今、身に付けているペンダントとも、相性のいい魔導具よ」
「そうなんですか?」
「え? まさか⋯⋯! リオン、何も説明しないで、このペンダントをアリスちゃんに渡したの!?」
驚いた表情でシャーロットお姉様はリオン様に詰め寄った。
リオン様は無言で目を逸らした。
「⋯⋯⋯⋯」
「あ⋯⋯そんなに大事な物だったんですか⋯⋯?」
「んー、まぁ、そのペンダント⋯⋯中に精霊が入っているのよ」
「精霊?」
「そうよ。リオンが契約している精霊で、公爵家当主に引き継がれていく大事な精霊が中にいるわ」
「っ!? そんな大切な物⋯⋯わたし、お返しします」
「返さなくていい。私は二種の精霊と契約しているから、問題なく魔法が使えるし、何よりも⋯⋯アリスが大事だからな」
その言葉に私はそっと胸元のペンダントに触れた。
リオン様と同じ瞳の色のこのペンダントに触れると、リオン様がいつも傍にいてくれるような気がして、安心する。
先程、リオン様の好意を受けいれようと、決めたのだから⋯⋯言うべき言葉はひとつだけだ。
「⋯⋯ありがとうございます。リオン様から頂くすべてが⋯⋯私の宝物です」




