第43話 猫⋯⋯からの?
その後もリオン様と街を歩きながら、クリームたっぷりのドーナツを食べて、噴水のある広場でアイスを食べた。
冷たいアイスが火照った体を冷ますのにちょうど良かった。
気持ちよさそうに、日向で眠る猫を見つけて思わず膝の上に乗せた。
撫でてたら、ごろごろと喉を鳴らしながら頬ずりしてくる。
「リ、リオン様⋯⋯! ね、ねこ! かっ、かわいいですよっ! なんですか? このかわいい生きものは⋯⋯!!」
「私には猫よりもアリスの方がかわいいが?」
「わ、わたしより、ねこちゃんの方がかわいいです! このぷにぷにの柔らかい肉球とか、身体も柔らかい⋯⋯みよーんって伸びます! 」
私はすっかり猫に夢中になっていた。
「アリスには私もシルフィもいるだろ? 浮気か⋯⋯?」
「う、浮気じゃないですっ! 銀獣には無い魅力があります! お日様のいい匂いもします。このまま連れて帰りたいぐらいです」
「⋯⋯猫じゃなくて、私を構ってくれ」
「⋯⋯えっ?」
猫を全力で満喫していたら、リオン様が猫みたいに頭を擦り寄せてきた。
「⋯⋯⋯⋯構って欲しい⋯⋯にゃん⋯⋯?」
「⋯⋯っ!? はわわっ!?」
突然の猫語!?
びっくりして、リオン様の方に視線を向けたら、リオン様の顔が、私の胸元にすうっと埋められて、心臓が跳ね上がった。
見える首筋が赤く染っていて、雰囲気からも、ものすごく照れているのを感じ取った。
熱い吐息が服越しに伝わってきて、私にも緊張が走る。
「リ、リオン様⋯⋯!? い、ぁ、今、にゃ⋯⋯にゃんって⋯⋯言いました!?」
(こ、声が裏返ってた⋯⋯いま⋯⋯リオン様の声、完全に裏返ってたよね⋯⋯)
私も内心パニックになっていた。
心を落ちつかせて、猫を撫でてた手を止めて、代わりに、抱きついてきたリオン様の金色の髪に指をそっと絡めた。
猫とは違うふわふわで温かい。
リオン様は耳まで真っ赤にして、顔を上げようとはしない。
むしろもっと深く押し付けてきた。
「⋯⋯アリスが猫ばっかり構うから、私も猫になれば構ってくれると思った⋯⋯」
⋯⋯可愛い⋯⋯可愛いすぎる。
あれ⋯⋯? でも、私『無愛想な閣下』と言われていた姿見たことないし、怒ってる姿を見たのだって、はじめて会った日の少しだけ。
逆にいつも通りなのでは?
そう思うと、愛おしさが込み上げてくる。
「猫ちゃんより、リオン様の方がかわいいです!」
私は意を決して、リオン様の耳元に顔を寄せて、耳元で囁く。
「⋯⋯リオン様、も、もう一度「にゃん」って言ってください。今のは反則すぎます。もっと、聞きたいです」
すると、リオン様の肩がびくっと震えて、さらに顔を埋めてきた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯にゃん」
胸元に顔を埋めたまま、小さい声でリオン様が呟いた。
「っ⋯⋯!!」
私の理性は吹き飛んだ。
広場の噴水の音が遠くに聞こえる中、私はリオン様をぎゅっと抱きしめて、しばらく猫を撫でるみたいに頭を撫で続けた。
そんな甘い時間は、突然投げかけられた声によって、現実に引き戻された。
「えーと、そこにいるのって⋯⋯うちの弟のリオンドールで合ってるよね?」
突然の声掛けに、私もリオン様もその場に凍りついた。
リオン様は私の胸元に顔を埋めたまま、耳まで真っ赤にした状態で固まっている。
「あ、あの、え、えーと⋯⋯」
どうしていいのか分からなくて、リオン様に抱きつかれていて、立ち上がることも出来ずに、声を掛けてきた人に視線を向けた。
そこには、長いローブを風に揺らし、驚いたような表情をした美しい女性がいた。
空色の長い髪を緩くリボンでまとめていて、私と目が合うと、女性は目を細めて、柔らかく微笑んだ。
「アリスティア嬢で合っているわよね? 私は魔法使いシャーロット・フリューゲルよ。よろしくね。⋯⋯ところで、リオンはいつまでそうしているつもり?」
シャーロットさんはため息をついて言った。
「はあ、まさかフリューゲル公爵が人前で、女の子の胸に顔を埋めて「にゃん」とか言ってる現場を目撃するなんて⋯⋯リオン。はやく顔を上げて立ちなさい」
「っ⋯⋯! 姉さん、どうしてここに」
ゆっくりと顔を上げて立ち上がったリオン様の顔は真っ赤で、目は泳いでいた。
公爵としての威厳は感じられなかった。
「どうしてって、急に婚約したって聞いたから、びっくりして飛んできたのよ! 女っ気がなくて、一生結婚しないのかと思ってたのに、こんなにかわいい子どこで見つけて来たのよ!! 私にちょうだい?」
「やるわけ無いだろ! アリスは私のだ」
冷静を取り戻しつつあるリオン様は私を背中に隠す。
「ふーん。 それで猫みたいに甘えてたんだ」
「⋯⋯っ!? それは、忘れてくれ、姉さん」
「どうしようかな⋯⋯。さっきの「にゃん」って、姉さんにも聞かせて? そしたら忘れてあげる」
「それは⋯⋯勘弁してくれ」
「してくれ⋯⋯?」
「勘弁してください⋯⋯」
「まあ、いいわ! 私にもやっとかわいい妹ができるのね! 代わりに、買い物に付き合いなさい!」
シャーロットさんは私の腕に腕を絡めて、立ち並ぶ建物に向かって歩き出した。




