第41話 街で食べる果物
「アリス、今日二人きりで街に出掛けないか?」
朝食のテーブルでリオン様が私を眺めながら微笑んだ。
「二人きりでおでかけですか? ⋯⋯お仕事は大丈夫なんですか?」
「ああ、アリスとデートがしたいのに、護衛なんか要らないだろ? 私が守るし、急ぎの執務はないから心配するな」
「⋯⋯デート」
「嫌か?」
「嫌じゃないです。すごく嬉しいです」
私は最後の一切れのリンゴを頬張りながら、わくわくする気持ちを抑えられなかった。
リオン様とのデート⋯⋯!
そもそも街に出かけるのだっていつぶりだろうか。
リオン様が「デート」だと言ってくれた事が何よりも嬉しい。
支度の為に部屋に戻った私は着替えて、鏡の前に立ち何度も似合っているかクロエに確認した。
「ねえ、クロエ。今日の服装おかしくない?」
「とてもよくお似合いですよ」
「本当に⋯⋯?」
「はい! 閣下の色ですし、普段と違う髪型で喜ばれますよ」
「そうだといいんだけど」
私はもう一度鏡の前に立つ。
淡い青色のフィッシュテールワンピース姿。
重ね着のように見えるシフォンの袖が柔らかく揺れ、ウエストで結んだ同じ生地のリボンが、さりげないワンポイントになっている。
髪型はいつもと違い、二つに分けた三つ編みを少し緩めて、青いリボンで結ぶ。
リオン様にもらったペンダントを付けるのも忘れない。
「完璧ですよ! アリスティア様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう。行ってくるね。シルフィのことお願いね」
最近のシルフィは、私といるよりもルカと一緒にいるのが楽しいみたいで、クロエの横でしっぽを揺らしていた。
私は部屋を出てリオン様が待つ玄関ホールに向かった。
「いつもと違う髪型もいいな。よく似合ってて可愛い」
「ありがとうございます! ⋯⋯リオン様に喜んでもらいたくて、気合いを入れました。リオン様も、すごく、素敵です」
「普段とあまり変わらないだろ」
「そんなことないです。その紫色の宝石、私の色ですよね?」
リオン様の胸元で、淡く輝くバイオレットのペンダントが、煌めいていた。
リオン様は一瞬、目を細めて自分の胸元を見下ろし、小さく笑った。
「アリスの色を身につけると約束しただろ」
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
頰が熱くなるのを自覚しながら、私は慌てて視線を逸らした。
「そ、そうでしたね⋯⋯嬉しいです⋯⋯」
リオン様が私の手を取って、馬車までエスコートしてくれて、一緒に乗り込んだ。
馬車の窓から見える景色を楽しんでいると、小一時間ほどで目的地の街に着いた。
とても、賑やかなところだった。
大通りの両側にはさまざまなお店が立ち並んでいて、目移りしそう。
色とりどりの果物、手作りのアクセサリーが並べられた露天などもあり、人々で賑わっていた。
「アリス。今日は一日、一緒に楽しもう」
「はい。ありがとうございます。リオン様」
目の前に差し出された手に、手を重ねると、優しく握り返してくれる。
リオン様とゆっくりと公爵領の街並みを楽しむように歩く。
「何か欲しいものはあるか?」
私は迷わず露天で売られている、果物の串刺しを指さした。
「あれ、食べたいです!」
「ははっ、着いて一番に食べ物か」
「そうです! 美味しいものいっぱい食べたいです」
「わかった。お腹いっぱい食べさせてやる約束だからな」
「ありがとうございます。リオン様大好きですっ!」
私は果物の露天の前に行き、どのフルーツにするか悩む。
イチゴ、ブドウ、パイナップル、メロンなどが並んでいる。
(どれも美味しそう⋯⋯!)
目の前のフルーツに夢中な私はリオン様が赤くなって、照れていた事には気がつかなかった。
私は迷った末にイチゴの串刺しを選んだ。
リオン様はブドウを選び、串刺しを買ってもらった。
イチゴをかじると、果汁が溢れて、優しい甘さが口いっぱいに広がった。
爽やかな酸味がジューシーで、後味はすっきりで、甘酸っぱい余韻が長く残る。
「アリス、こっちも食べるか?」
「食べます! 私のも一個どうぞ。交換です」
リオン様が私に差し出して来た串から、直接ブドウを食べる。
「んっ、まろやかで深みのある甘さです⋯⋯!」
「ああ、イチゴは甘酸っぱいな」
「ふふふ、どっちも美味しいです!」
「まだ、食べ足りないだろ? 次は何を食べたい?」
リオン様は私の手を指を絡めるように、握り直し歩き出す。
掌が熱く、いつもよりもずっと、ぎゅっと結ばれている気がした。




