第40話 もふもふと過ごす日常
リオン様と想いを確かめ合い、自分の本当の能力について、実際に試して知ることができた私は、自信を取り戻しつつあった。
「シルフィー! こっちだよ!」
今日もよく晴れて青空が広がっている。
城の庭は広く、外で遊ぶのにはちょうど良かった。
ここでは私に何かを強要する人はいない。
外で走り回るなんて、貴族令嬢がすることじゃ無いと、わかってはいるけど、シルフィが放牧地を他の銀獣の幼獣たちと駆け回っている姿を見て、私も一緒になって走っていた。
楽しい。
私は自由を満喫していた。
私が走れば「きゃん!」「きゃうっ!」とかわいい鳴き声をあげて銀色の小さいもふもふが、ふさふさのしっぽを回すように振りながら追いかけてくる。
その姿がものすごくかわいい。
「みんなで、あの木まで競走ね」
私は少し先にある一本の木を指さして、幼獣たちを見て走り出す。
足元でもつれるように、走る子たちを踏まないように気をつけながら走った。
木の下にたどり着くと幼獣に囲まれた。
そのまま幼獣たちとドサッと芝生に寝転がる。
ふかふかで少しひんやりして、青草と土の混ざった自然の匂い。
雲がゆっくり流れていくのが見え、時折、柔らかい毛並みを風にそよがせながら、好奇心いっぱいの青い瞳が覗き込む。
「ふふふ、くすぐったいよ。シルフィ」
シルフィが体を寄せてきて、頭や顔を押しつけてくる。
負けじと他の幼獣もぺろぺろと顔中を舐め回し、夢中で体をくすぐられる。
幼獣とシルフィにもみくちゃにされながら、私は幼獣のもふもふを堪能した。
(温かくて、柔らかいもふもふに囲まれて⋯⋯幸せ⋯⋯)
ふわふわな幼獣たちが触れているところから、じんわりと熱が伝わってきて、ぽかぽかと温かい。
体の上に乗る幼獣の重さもちょうどよくて、眠気が襲う。
ああ、このまま眠るのも悪くない⋯⋯。
そのままゆっくり目を閉じたとき、不意に聞き慣れた声が耳に入った。
「――アリス、君はいつも外で寝ているな」
「わわっ!? リオン様? 騎士団のお仕事は?」
私は目を開けて視線だけリオン様に向ける。
お腹の上で幼獣が気持ちよさそうに眠ってたから、体を起こせなかった。
「今日は部屋で仕事していたんだが、窓からアリスが走り回ってるのをみて気になって、出てきた」
「み、見てたんですか⋯⋯ど、どこから⋯⋯?」
(まさか⋯⋯芝生の上を転がってたのも見られてた!?)
全部見られていたとしたら恥ずかしい。
私は両手で自分の顔を覆う。
恥ずかしくて、顔を見せられない。
「楽しそうに、芝生の上で幼獣に追い回されていたところ辺りから、目が離せなかった」
「⋯⋯っ! わ、忘れてください」
「何故だ? 可愛かったぞ」
そう言いながら、リオン様も私と同じように芝生に寝転がる。
「かっ、かわいい!?」
「そうだ。可愛かった。いや、私には勿体ないぐらい美しいな」
リオン様は私の髪に宝物のように触れる。
「幼獣たちに囲まれて、笑いながら転がってる姿が⋯⋯子犬のように無邪気で、守りたくなる」
その視線が優しすぎて、胸がどきどきと鳴る。
「っ⋯⋯! か、からかわないでください⋯⋯」
私は耳まで熱くなっているのを感じながら、身をよじる。
リオン様はくすりと笑って、私に体を寄せてきた。
芝生の上で、私たちの距離はぐっと縮まる。
珍しく、シルフィが「きゃんっ!」と嬉しそうな声をあげて、リオン様の胸に飛びついた。
「あっ、シルフィだめだよ」
「私はアリスのものだと、シルフィに嫉妬か?」
「なっ!? シルフィに嫉妬なんてしません!」
「私は⋯⋯幼獣たちに嫉妬しているんだかな。アリスにかわいがってもらって羨ましい」
リオン様はシルフィを撫でながら、私の肩の辺りにさらに頭を寄せる。
頬をくすぐるリオン様の髪がくすぐったい。
「⋯⋯っ!」
そんな様子をみていた他の幼獣たちも、リオン様の方に移動し始める。
あっという間に、もふもふの群れがリオン様を囲む。
「リ、リオン様だって、幼獣たちに好かれてるじゃないですか」
「そうだな⋯⋯嫉妬するか⋯⋯?」
リオン様は苦笑しながらも、大きな手で幼獣たちの頭を優しく撫でていく。
「しません。 私の方が大事にされていると思っているので」
「っ⋯⋯!? アリス!?」
「ふふっ。顔真っ赤ですよ?」
今度はリオン様が両手で顔を覆った。
その姿が可愛らしくて、自然と笑い声が溢れた。
風がそよぎ、青い空の下で、私たちは並んで芝生に寝転がっている。
幼獣たちの柔らかい体温が、私とリオン様の間を埋めるように広がる。
こんな風にこの先も笑い合いながら過ごせたら、すごく、すごく、幸せだと思った。
「⋯⋯アリス」
リオン様に低い、甘い声で名前を呼ばれた。
「⋯⋯はい」
「最近、アリスの笑顔が増えて私も嬉しい。自分の力を受け入れて、自信がついたようだな」
リオン様の手が幼獣から離れて、私の指先に触れる。
温かい、大きな手が私の指をそっと包み込む。
「⋯⋯はい。リオン様がそばにいてくれるから⋯⋯私を認めてくれるから、私⋯⋯自由になれた気がします」
リオン様はゆっくりと体を起こして、私の顔を覗き込む。
黄金色の髪が風に揺れて、サファイアの瞳が真っ直ぐに私を捉える。
「これからは外でたくさん遊ぼう。私もこうして、一緒にいる時間を増やしたい」
「⋯⋯ありがとうございます。嬉しいです」
幼獣たちが「きゃん。きゃうんっ!」と甘えた声を上げながら、私たちの間に割り込んでくる。
私は笑って、シルフィを抱き上げて、胸に抱きしめた。
ふかふかのもふもふたちに囲まれ、好きな人の温もりがすぐ隣にある。
こんな幸せが、これから毎日続くなんて夢のようだった。
ご覧いただきありがとうございます。
楽しそう、続きが気になると思ってくださったら、下にある☆☆☆☆☆を押しての評価、ブクマをして頂けると、嬉しいです。
励みにますので……応援お願いいたします!




