第3話 公爵との対面
フリューゲル公爵家からのお迎えの馬車が来た。
見送りにはお父様も出てきた。
「弓と剣⋯⋯大人しく微笑んでいればいいものを⋯⋯アリスティア、無能のお前を我が家から除籍する。帰る所はないと思え」
お父様は私がドレス姿で剣と弓を抱えているのをみて、心の底から嫌そうな表情を見せる。
(きっと顔を合わせるのはこれが最後ね)
「今まで育てて頂きありがとうございました」
十二歳になるまでは可愛がって貰ったし、無能なのは私に原因がある。
まあ、小屋に住まされるようになってからは食べる物も最低限しか貰えなくなったけど。
私には家族への恨みなんてこれっぽっちもない。
わざわざお迎えの馬車が来たぐらいだから、幸せになれるかも知れない。
少しの希望を胸に私は、フリューゲル公爵家の馬車に乗った。
馬車の扉が閉められて、ゆっくりと進み出した。
お父様とお兄様はすぐに屋敷に戻っていった。
お母様は結局、最後まで私と顔を合わせることはなかった。
☆☆☆
馬車が動き出してしばらくして、一緒に同乗した騎士に話しかけられた。
薄茶の長い髪が印象的な二十代後半の騎士だ。
「フリューゲル騎士団の副団長をしているシリルと申します。お嬢様をこれから王都の執務室にお連れします」
「アリスティアです。よろしくお願いします。王都ですか⋯⋯?」
「はい。騎士団長は現在王都に滞在中です。合流後、共に北部へ向かう予定です。何かご質問があればどうぞ」
「フリューゲル公爵様はどんな方ですか?」
そういえば、将来旦那様になる方について、私は何も知らない。
わざわざお迎えに副団長を送ってくれるぐらいだからいい人よね?
「良くない噂をお聞きになっているかもしれませんが、実際にお会いになれば分かりますよ。少なくとも、理不尽に人を傷つけるような方ではありません」
その言葉に私は少しだけ安心した。
馬車が王都の大きな建物に到着して、シリル副団長に導かれて執務室の前まで到着した。
シリル副団長がノックして扉を開けた所で中から怒声が響き渡った。
「お前のミス一つで、大勢の仲間が危険に晒されるんだぞ! しっかり反省して、反省文を提出しろ!!」
バン! と激しい音と共にテーブルを叩く音も響き渡った。
私は目を丸くして扉の前に立ち止まった。
シリル副団長が呆れたようにため息をつく。
「リオンドール騎士団長、婚約者のお嬢様をお連れしました」
部屋の中が、一瞬静まり返った。
長身の男がゆっくりと近づいてきた。
黄金色の柔らかい髪が、窓から差し込む光に輝いている。
スッと通った鼻筋、引き締まった体躯、そして青く美しい瞳。
先程まで部下を怒鳴りつけていたとは思えない、穏やかな表情で彼は私と視線を合わせてくれた。
「⋯⋯すまない⋯⋯驚かせてしまったようだ」
低く落ち着いた声。
怒りの余韻がまだ残っているのに、丁寧に頭を下げて謝罪してくる。
「アリスティア・ノワールです。よろしくお願いします。フリューゲル公爵様」
私も丁寧にお辞儀を返した。
「リオンドールだ。気軽にリオンと呼んでくれ。
来てくれてありがとう。アリスティア嬢」
「リオン様。私の事もどうぞ気軽にアリスとお呼びください」
(⋯⋯強そう。しかも、思ったより顔がいい)
私は思わず心の中で呟いた。
ご飯が食べられて、寝るところがある。
それでだけでいいと思っていたはずなのに、胸の奥が少しだけ、きゅんとした。
もしかしたら、この婚約意外と悪くないかもしれない。




