第2話 着飾り
仕方なく荷造りをした翌朝――。
持ち物と言っても、豪華なドレスや宝石類を私は持っていない。
鞄一つにまとめた僅かな着替えの入った鞄を抱えて小屋を出ると腕を組んで仁王立ちするお兄様の姿があった。
私を見てずかずかとこちらに歩いて来るから、思わず後ずさった。
「お、お前、まさか⋯⋯その格好で行くつもりか!!」
目を見開き、信じられないと、お兄様は変な顔をしている。
これでも昨日はちゃんと冷たいから嫌だったけど、水を浴びて、髪も身体も洗ったし、獣臭さだって取れてるはず。
「はい。これが私の普段着なんで。今更なんの用ですか? まさか、妹が嫁ぐのが急で寂しくなっちゃったんですか?」
「んなわけあるか!! 仮にも公爵家に嫁ぐ伯爵家の令嬢がどうして、狩りに行く姿なんだ!! 我が家名に泥を塗る気か? 」
それもいいかも知れない。
最後に最高の嫌がらせをするのも悪くない。
「はぁ、来い」
呆れ顔で大きくため息をついたお兄様は私をまた本邸に連れて行った。
☆☆☆
本邸に入ってすぐにメイドたちに取り囲まれた。
狩猟着を容赦なく剥ぎ取られ、冷たい指先が肌を滑る。
湯舟に沈められて、体を擦られて、髪を洗われた。
久しぶりのお湯は気持ちが良かった。
その後、淡いラベンダー色のドレスを着せられて、腰まで伸びた白い髪は丁寧に梳かれ、薄く化粧を施されれた。
鏡に映る姿に思わず見蕩れてしまった。
自分で言うのもなんだけど、鏡に人形のような少女が映っている。
透明感のある艶やかな白い髪に、薄い紫の瞳はどこか儚げ。
それでも私の芯の強さは隠しきれていない。
控えめに色づけられた唇が、ふっくらと艶めいていた。
あとなんか美味しそうなフルーツの香りがする。
「ふん、悪くないな。野良犬が少しはマシになった。これも持っていけ」
お兄様は満足そうに頷き、トランクケースを一つ渡してきた。
「ありがとうございます⋯⋯?」
「なんで疑問形なんだ」
「いやー、なんか変な感じがして」
(お兄様が急に優しくなるなんて、気持ち悪すぎる⋯⋯!)
「餞別だ。伯爵家が薄情だと思われない為にな」
「それと⋯⋯私の弓と剣も返して貰えますか?」
着飾って貰えたのは有難いけど、大事な武器は置いてはいけない。
もしも、フリューゲル公爵家でも放置されたら私のご飯はどうなっちゃうの?
「必要ないだろ!!」
「あります! 返してください!!」
大声をあげるお兄様に張り合うように私も叫んだ。
「ちっ。 弓なんか教えるんじゃなかった」
吐き捨てるように舌打ちをして、渋々返して貰えた。
ほんとに良かった。
弓と剣は私が生きる為に必要なもの。
一人で生きて行くことになっても、弓と剣があれば狩りをして、食べる物を確保できる。
私は私の人生をしっかりと生きたい。




