第1話 突然の縁談
「お父様、無能を連れて来ました」
「ああ、相変わらず、薄汚いな、部屋が汚れるから、そこに立ったまま聞きなさい」
汚れ物を見るかのような視線にイラッとした。
狩猟帰りに無理やり連れてこられて、着替える時間が無かっただけ。
いや、あってもまともな服を持ってないから変わらないか。
「アリスティア、お前には嫁いで貰う」
お父様は静かにでも、威厳ある声でそう言い放った。
私はぽかんとしてしまった。
まさか、縁談の話が私に来るとは思ってもいなかったから。
「フリューゲル公爵だ。お前でも名前ぐらいは聞いた事があるだろ?」
「⋯⋯⋯⋯はい」
ないけど? フリューゲル公爵様って誰?
私はとりあえず頷いた。
「無能のお前をこれまで育ててやったんだ。ただ家を追い出すのも可哀想だから、最後に縁談を持ってきてやった。有難いと思え」
(そのまま追い出してくれればよかったのに、どうして縁談なんか持ってきちゃうのよ)
私は心の中でそう思った。
「良かったな。野垂れ死にしないで済みそうで。お前も容姿だけはいいからな、公爵もその容姿で選んだんだろう」
私の艶のない白い髪と薄い紫の瞳を見てお兄様がにやりと口の端を持ち上げた。
私も自分の容姿が着飾ればいいとは思っている。
欠点はただ一つ。
無能だと思われていることだけ。
「お話はそれだけでしょうか?」
「ああ、明日には迎えの馬車が来る。それまでに、荷造りを済ませろ」
今更、家族に情なんてない。
いままで情けで家に置いて貰えただけよかったのかも知れない。
放置はされたけど、暴力は振るわれなかったし、自由に狩りをさせて貰えてた。
私は静かに頭を下げて部屋をあとにした。
私の頭はどうでもいい婚姻の話はさっさと忘れて、狩ってきたうさぎのことでいっぱいだった。
そう。愛のない結婚なんてどうでも良かった。
小屋に戻り、うさぎの肉を料理しながら少しだけ、婚姻について考えた。
――政略結婚、か。
伯爵家より遥かに格上の公爵家が、なぜ私のような「無能」に縁談を持ってきたのか。
でも、今の私にはどうでもいいことだった。
私は寝るところがあり、ご飯が食べられればそれでいい。
私は静かに荷造りをするのだった。




