プロローグ
痛い、どうして私をそんな目でみるの?
――――誰か、たすけて。
⋯⋯ごめんなさい⋯⋯ごめんなさい、期待に応えられなくて⋯⋯。
⋯⋯寒い⋯⋯おなかすいた⋯⋯痛い、痛いよ、もうやめて――。
――――誰か、助けて。
いっそのこと、殺してくれればいいのに――。
どうして⋯⋯誰も私を助けてくれないの?
痛いのはもう嫌だ⋯⋯。
――――最初から――――すればよかったんだ。
もう⋯⋯大丈夫。
私は一人でも生きていける。
☆☆☆
新鮮で美味しい空気を胸いっぱいに吸い込み、私アリスティアは今日の獲物を森の中で探していた。
ボロボロの狩猟着姿で、その細い身体のどこに狩りをする力があるのか、森に立ち入る私に疑念の視線を向ける者もいる。
服から覗く手足は痩せ細っていて、簡単にまとめられた、白くて長い髪は手入れされていないから艶がない。
それでも、目を引く美貌は隠しきれない。
それは私がノワール伯爵家の令嬢で、数年前までは大切に育てられていたから。
しかし、今の私はノワール伯爵家では無能と言われて、その存在はいないものとして、扱われている。
「今日こそは⋯⋯獲物を捕まえる!」
最後にお肉を食べれたのは三日前だったなと、考えながら私は静かな森を歩いた。
一日一食もらえればいい方⋯⋯硬いパンに残り物の汁と萎びた野菜。
それだけじゃ足りないから、狩りをするようになった。
狩りに失敗すれば、悲しいことに食べる物がない。
カサカサと葉が揺れる音が聞こえた。
――――見つけた。
今日はうさぎ肉のスープが食べれる。
私は嬉しさに、気持ちがはやるのを抑えながら、そーっと足音を消しながら近づいて――弓に矢を番えて射た。
――――命中!
射たうさぎに素早く近づき両手を合わせて、命を頂く事に感謝の気持ちで祈る。
すぐに血抜きをして、縄で縛る。
うさぎ一匹手に入ったから今日の狩りはおしまい。
私は久しぶりのお肉に、鼻歌を歌いながら機嫌良く屋敷に戻った。
立派な屋敷の鉄の門を押し開けて中に入ると、鋭い視線で私を睨みつけてくる――お兄様がいるが無視する。
私の獲物は誰にもあげない。
「⋯⋯おい! 無能! 」
なんか聞こえるけど無視して、私は自分の部屋に戻った。
部屋と言っても私の住処は立派な屋敷の裏手に、申し訳程度に作られた小さな小屋だけど。
「⋯⋯無視すんな! 聞こえてんだろ? おい! !」
聞こえてるけど、私を無能と呼ぶお兄様に返事なんかしたくない。
私はそのまま小屋に向かって歩いた。
(ほっといてよ! 私は忙しいいんだから)
それは貴族が十二歳で受ける洗礼式で稀に授かる力が使えないから。
何故か私は希少な治癒能力を授かった。
その力を授かった時、両親は手放しで大喜びした。
治癒の力を授かれるのは、世代で三人だけだから。
しかし、私は治癒の力を使えなかった。
同世代で授かった皆は使えて、人々の役に立っているのに、私は同じように祈っても、治療出来なかった。
そのせいで家族から見放された。
家族の関心がなくなり、追いやられたころに、私は自分の力の使い方を知った。
偶然だった。
狩りに慣れてないころ、手負いの狼が急に襲ってきた。
腕に噛みつかれて、私は怪我をした。
私に噛みつき、私の血を口にした手負いの狼は傷が治った。
呆然としている私の目の前で逃げていった。
そこで初めて、私は自分の能力の使い方に気づいた。
私の血に治癒の力があることに。
しかも、自分の怪我は治らない。
私を見捨てた家族の為に今更、力が使えると教えたくなかった。
体を傷つけ血を与えなければ能力は使えない。
そして、何より、痛いのは嫌だから。
――そのまま、私は能力を使えないフリを続けることにした。
まだ、お兄様の声が聞こえる。
もうここは私の小屋の中で、私はこれからうさぎの調理があるんだけどな⋯⋯。
「耳まで聞こえなくなったのか!? アリスティア・ノワール!!」
痺れを切らした、お兄様が私の名前を呼んだ。
しょうがない。
私はその声にゆっくりと振り返った。
「なにか、ご用ですか? お兄様」
「ちっ。 大事な話があるからついてこい」
「えーと。嫌ですが?」
新鮮なうちにうさぎ肉捌かないと鮮度が落ちる。
わかってて言っているのかな?
私は自分で食べる物を調達しなきゃ生きていけないのに。
「拒否権はない。お父様がお呼びなんだ。さっさと来い」
お兄様に無理やり腕を掴まれて、三年ぶりに屋敷の本館へと連れ込まれた。
最悪な一日の始まりになってしまった。
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