第33話 一緒に前を向く
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私はまた暗闇に閉ざされた夢の中にいた。
でも、今までずっと感じていた重苦しさはなかった。
私は苦しんでいた⋯⋯五年前の私と静かに向き合っていた。
『⋯⋯痛い、どうして、わたしはここにいる?』
――うん。痛いね。私は役に立てないからここにいるの。
『ごめんなさい、ごめんなさい、期待に応えられなくて⋯⋯』
――そうだね⋯⋯期待に応えたかった。
『寒い⋯⋯痛い⋯⋯、おなかすいた⋯⋯』
――痛くて、寒くて、辛かったね。
『⋯⋯どうして、誰も助けてくれないの?』
――ごめん、助けて欲しかったね。
過去の私は、震える声で呟いた。
『⋯⋯痛いのは、もう嫌だ⋯⋯、死にたい』
――私も痛いのは嫌だ。死んでしまいたかったよ。
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
「でもね⋯⋯わたし、頑張って生きててよかった。諦めなくてよかったんだよ」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
「ずっと、ずっと、助けを求めていた。私は諦めたくなかった。そうだよね?」
『⋯⋯⋯⋯助けてくれるの⋯⋯?』
「うん、助けに来てくれる人がいた。私を必要としてくれる人がいるの。――だから、一緒に行こう」
『一緒に⋯⋯? わたしも、幸せになれる? もう痛いのも、寒いのも、ひとりぼっちなのも、いや、だよ』
「私も嫌だ⋯⋯。いままで私の壊れそうな心を守ってくれてありがとう。でも、もう大丈夫――共に生きたいと思える人に出逢えたから」
私は目の前にいる過去の私の体を抱きしめた。
もう逃げ出したりしない。
封じてしまった記憶と共に、私は前に進む。
――どんなに辛いことがあっても、もう大丈夫。
「私は愛する人と一緒に幸せになるんだから、もう過去の苦しみに囚われたりしないよ」
『うん! もう何も怖くない。幸せになってね』
過去の私は笑顔で光に包まれるように消えた。
そこにはもう暗闇はなかった。
代わりに、黄金色の光が広がっていた。
私はその光に手を伸ばして、そっと触れた。
目を覚ますと、ぽろりと涙がこぼれた。
その頬に優しい手が触れた。
胸の奥に抱いていた悲しみが薄れて、あたたかいものがじんわりと広がる。
私は震える指で、その手に自分の手を重ねた。
「おはようございます。⋯⋯リオン様」
私は目の前にいる、私を救ってくれた人の名前を口にする。
「ああ、おはよう。アリス⋯⋯怖い夢でも見ていたか?」
「⋯⋯⋯⋯過去の、私の夢を見ていました⋯⋯、でも、怖い夢じゃないです」
私は小さく首を振った。
「そうか」
リオン様は安心したように微笑み、私の髪を優しく撫でてくれた。
「はい。わたし、リオン様のそばにいても、いいですか?」
「いてくれなきゃ困る。いや、私がアリスのそばにいたいんだ。許してくれるか?」
優しく微笑むリオン様と視線を交わし、私も微笑み返した。
「もちろんです。わたしのこと、離さないでください。⋯⋯頑張ります。リオン様が私を必要としてくれるなら、怖いものはもうありません」
まだ、心の奥底に深い傷を負った私がいる。
この先、何度もその痛みに飲み込まれるかもしれない。
それでも、リオン様が私を捕まえてくれていたら、大丈夫。
私を優しく抱きしめてくれた、リオン様の腕の中で誓った。
今度は私の意思で、フリューゲル公爵領の役に立てることをしよう。
私は、ようやく過去を受け入れて、一緒に前を向くことを決めた。




