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虐げられた無能令嬢ですが、公爵様に甘やかされて溺愛されています。~もふもふと美味しいご飯付きで~  作者: 桜ましろ


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第33話 一緒に前を向く



 ☆☆☆


 私はまた暗闇に閉ざされた夢の中にいた。


 でも、今までずっと感じていた重苦しさはなかった。


 私は苦しんでいた⋯⋯五年前の私と静かに向き合っていた。



『⋯⋯痛い、どうして、わたしはここにいる?』


 ――うん。痛いね。私は役に立てないからここにいるの。



『ごめんなさい、ごめんなさい、期待に応えられなくて⋯⋯』


 ――そうだね⋯⋯期待に応えたかった。



『寒い⋯⋯痛い⋯⋯、おなかすいた⋯⋯』


 ――痛くて、寒くて、辛かったね。



『⋯⋯どうして、誰も助けてくれないの?』


 ――ごめん、助けて欲しかったね。



 過去の私は、震える声で呟いた。



『⋯⋯痛いのは、もう嫌だ⋯⋯、死にたい』


 ――私も痛いのは嫌だ。死んでしまいたかったよ。


『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』


「でもね⋯⋯わたし、頑張って生きててよかった。諦めなくてよかったんだよ」


『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』


「ずっと、ずっと、助けを求めていた。私は諦めたくなかった。そうだよね?」


『⋯⋯⋯⋯助けてくれるの⋯⋯?』


「うん、助けに来てくれる人がいた。私を必要としてくれる人がいるの。――だから、一緒に行こう」


『一緒に⋯⋯? わたしも、幸せになれる? もう痛いのも、寒いのも、ひとりぼっちなのも、いや、だよ』


「私も嫌だ⋯⋯。いままで私の壊れそうな心を守ってくれてありがとう。でも、もう大丈夫――共に生きたいと思える人に出逢えたから」


 私は目の前にいる過去の私の体を抱きしめた。


 もう逃げ出したりしない。


 封じてしまった記憶と共に、私は前に進む。


 ――どんなに辛いことがあっても、もう大丈夫。


「私は愛する人と一緒に幸せになるんだから、もう過去の苦しみに囚われたりしないよ」


『うん! もう何も怖くない。幸せになってね』


 過去の私は笑顔で光に包まれるように消えた。


 そこにはもう暗闇はなかった。


 代わりに、黄金色の光が広がっていた。


 私はその光に手を伸ばして、そっと触れた。





 目を覚ますと、ぽろりと涙がこぼれた。


 その頬に優しい手が触れた。


 胸の奥に抱いていた悲しみが薄れて、あたたかいものがじんわりと広がる。


 私は震える指で、その手に自分の手を重ねた。


「おはようございます。⋯⋯リオン様」


 私は目の前にいる、私を救ってくれた人の名前を口にする。


「ああ、おはよう。アリス⋯⋯怖い夢でも見ていたか?」


「⋯⋯⋯⋯過去の、私の夢を見ていました⋯⋯、でも、怖い夢じゃないです」


 私は小さく首を振った。


「そうか」


 リオン様は安心したように微笑み、私の髪を優しく撫でてくれた。


「はい。わたし、リオン様のそばにいても、いいですか?」


「いてくれなきゃ困る。いや、私がアリスのそばにいたいんだ。許してくれるか?」


 優しく微笑むリオン様と視線を交わし、私も微笑み返した。


「もちろんです。わたしのこと、離さないでください。⋯⋯頑張ります。リオン様が私を必要としてくれるなら、怖いものはもうありません」


 まだ、心の奥底に深い傷を負った私がいる。


 この先、何度もその痛みに飲み込まれるかもしれない。


 それでも、リオン様が私を捕まえてくれていたら、大丈夫。


 私を優しく抱きしめてくれた、リオン様の腕の中で誓った。


 今度は私の意思で、フリューゲル公爵領の役に立てることをしよう。


 私は、ようやく過去を受け入れて、一緒に前を向くことを決めた。

 

 

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