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虐げられた無能令嬢ですが、公爵様に甘やかされて溺愛されています。~もふもふと美味しいご飯付きで~  作者: 桜ましろ


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第32話 決意 (リオンドール視点)



 ☆☆☆


 私は泣き疲れて眠ってしまったアリスを、自分の寝室のベッドにそっと寝かせた。


 そばを離れたくなかった。


 アリスは「ここにいたい」と言い、私も「そばにいて欲しい」とお願いした。


 視界に入れておかないと不安になるのは、私のわがままかもしれない。


 それでも今日だけは、傍に置いておきたかった。


 アリスの穏やかな寝顔をみながら髪を撫でた。


 私の指に絡まる白い髪が、陽光を受けて銀色に輝いている。


 私はベッドの端に腰を下ろし、静かにその髪を撫で続けた。


 ☆☆☆

 

 遠征中アリスが私のことを呼ぶ声を聞いた気がした。


 胸騒ぎがして、急いで魔物討伐を終わらせて、帰って来た。


 アリスの手料理のおかげで、騎士たちもいつもよりも、力が湧いて、魔物討伐は早く終わった。


 私もアリスに早く会いたくて、普段よりも魔力を使い過ぎてしまったが。


 屋敷に戻り、すぐにアリスの部屋に向かったが、部屋にはいなかった。


「閣下!?  ⋯⋯アリスティア様は銀獣の放牧地にいますよ」


 アリスの部屋で掃除をしていたメイドのクロエが、驚いた顔をしつつも、教えてくれた。


 私は急いで放牧地に向かった。


 アリスの姿はすぐにわかった。


 銀獣たちに囲まれて、その中で眠っていた。


 無事な姿に安堵したが、すぐに心配に変わった。


 目元に涙の跡があり、遠征に行く前に会った時よりも、やつれている姿を見て、胸が締め付けられた。


 私はそっとアリスを抱き上げ、膝の上に乗せ、髪を撫で続けた。


 アリスが私の元にいる愛おしさから、ただ、触れたかった。


 指通りのいい、柔らかな髪に触れていたらアリスが目を開けた。


 その瞳は不安と安堵に揺れていた。


 ――私はアリスの心が壊れてしまうのではないかと不安がよぎった。


 私はどうしていいのか、わからずにただ、アリスに触れた。


 アリスは安心したのか、必死に耐えてきたものを吐き出すかのように、私に「好きです」と言った。


 静かに涙を流しながら。


 想いを伝えることすら、許されないと思っているのか、アリスは謝り続けた。


 アリスが震える声で「好きです」と言った瞬間、私の胸の内で何かが熱く溶けた。


 これほどまでに激しい鼓動は、魔物討伐ですら感じたことがなかった。


 私はこれまで誰かをここまで想ったことなど一度もなかった。


 アリスの言葉は私の、胸の奥深くに突き刺さり、熱い塊となって広がっていく。


 声を震わせて泣くアリスを抱きしめていた。


 (私が守り、幸せに⋯⋯いや、絶対に幸せにする)


 アリスに能力があろうが、なかろうが、関係ない。


 ――私はただ、アリスティアという一人の女性を、深く愛している。


 そして、アリスが望むなら、なんだって与えたい。


 アリスが眠るベッドの端に腰掛けながら、私は静かに誓った。


「アリス⋯⋯君がずっと一人で抱えてきた傷や痛みを、これからは私が一緒に背負う。だから、もう、苦しまないでいい」


 決意を込めて、そっとアリスの額に唇を落とした。


 ☆☆☆


「閣下、アリスティア様は大丈夫でしたか?」


 静かに部屋に入って来たシリルに目線だけて、隣の部屋に行くように促し、向かい合って椅子に座った。


「ああ、ずっと抱え込んでいたものを吐き出して、落ち着いたように思える」


「それは⋯⋯よかったです。間に合ってよかったですね」


「⋯⋯本当に、よかった。ただ⋯⋯」


 私は心を落ち着かせるように、息を吐く。


 そうでもしなければ、怒りで腸が煮えくり返りそうだった。


「アリスは自分の血に傷を癒す力があると思い込んでいた」


「⋯⋯血、ですか? 」


「そうだ。アリスがそう言った。もしも、アリスが家族に打ち明けていたら、本当に殺されていたかもしれない」


 静かに震える手で拳を握る。


「記憶を失っても⋯⋯心の奥深くに、与えられた痛みの恐怖が残っていて、話せなかったのだろう。⋯⋯アリスを痛め付けなければ、ノワール家は治癒の力を手にしていたかもしれなのに⋯⋯」


「むしろ⋯⋯結果としては良かったのかもしれませんね。ノワール家の所業は到底許されるものではありません。しかし、アリスティア様は今、閣下の傍で幸せになれるのですから」


「そうだな⋯⋯私が幸せにするし、これ以上、アリスを傷つける者など、誰一人として許さない」

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