↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた無能令嬢ですが、公爵様に甘やかされて溺愛されています。~もふもふと美味しいご飯付きで~  作者: 桜ましろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/56

第30話 過去の傷と優しさ


 今日も私の気持ちとは裏腹によく晴れて、あたたかい陽気だった。


 リオン様が遠征に行ってから私は毎晩、悪夢にうなされては飛び起きていた。


 部屋にいると暗いことばかり考えてしまうから、平気なフリをして微笑みながら、外に出てきた。


 銀獣たちが遊び回っている放牧地で、私は一人、空をぼんやりと眺めていた。


 夢の内容は思い出したくないけど、このままじゃだめな気がして思い起こしていた。


 考えるたびに、頭にズキッと痛みが走り、胸の奥がざわざわとして、苦しくて、動悸が早くなり、体が震える。


 耳の奥に残る声――思い出すのを体が拒絶している。


 叩かれたような痛みが、ナイフのように鋭い言葉に心が抉られる感覚。


 ふと思った。


 ――これは全部、私が、経験したことだ。


 私は何をしても治癒の能力が使えなかった。


 同じ力を授かった周りの人は皆、使いこなして人の役に立っているのに。


 そして、母が壊れた。


『どうして、あなただけ、できないのよ!!』


 私は「ごめんなさい」と謝り続ける。


『本気を出していないから使えないんでしょ!』


 頬に冷たい痛みが走った。


 叩かれたのは初めてだった。


 その日から母は毎日のように、私に手をあげるようになった。


 棒のようなもので叩かれて、身体中に痛みが走る。


 氷のように冷たい水をかけられて、ご飯も貰えない。


 限界まで追い込まれる。

 

 

 

「──────っ!!」



 背中に鋭い痛みが走った気がした。


 これ以上思い出すのはだめだと、体が、心が、拒絶している。


「⋯⋯夢、じゃない⋯⋯、私は、お母さまに、暴力を⋯⋯受けて、いた⋯⋯」


 声に出してみて、実感がわいた。


 ずっと、私は⋯⋯思い違いをしていた。


 小屋に隔離されて、存在しないものとして扱われて、誰も私に関心が無く、ただ、放置されているだけだと思っていたのに。


 心の奥深くに刻まれた傷や痛みは本物で、暴力は振るわれていないと、信じていた過去が崩れ去った。


 私は家族に恨みを抱かず、育ててくれた恩すら感じていた。


 心のどこかでは、家族の愛を⋯⋯もしかしたら、昔のような幸せを望んでいたのかもしれない。


 その絶望を受け止めきれなくて、とめどなく涙が溢れだす。


 涙など、とうに枯れ果ててしまったと⋯⋯一人隔離された小屋でも泣くことはなかったのに、溢れでる涙をどう止めたらいいのか分からない。


 遊んでいた、銀獣たちが⋯⋯シルフィが心配するように私の周りに集まって、温もりをくれる。


 慰めるように、顔を舐めたり、体に頭や顔を押し付けて、ふさふさのしっぽで優しく撫でて、寄り添ってくれた。


 



 ふわり。

 誰かがそっと私の髪に触れた。

 

「──────アリス」



 安心する優しい声が、私の名前を愛おしそうに呼ぶ。


 私は泣き疲れて、いつの間にか、その場で眠っていたのだろう。


 ずっと、聞きたかった声を聞いて私はゆっくりと、目を開けた。


 私はリオン様の膝に頭を預け、頭を優しく撫でられていた。


 見上げるように映る、黄金色にキラキラと輝く眩しい髪に、サファイアのような青い瞳が、私の凍てついた心を優しく溶かしていく⋯⋯。


 リオン様は目を細めて優しく微笑み、何も言わずに、私の頬にそっと手を添えた。


 私は⋯⋯リオン様が好き。


 誰かを愛することが⋯⋯ひとりぼっちになるのが、怖かった。


 でも、ずっと助けてもらいたくて、この人になら私のすべてを捧げてもいいと思える。


 心に鍵をかけて、望まないように、気が付かないようにしていたのに。


 もう、自分の気持ちに気づかないふりをすることは出来なかった。


「⋯⋯リオン様、⋯⋯わ、わたしは⋯⋯リオン様のことが⋯⋯好き、です⋯⋯ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯」


 この気持ちを伝える前に、嘘をついて、能力を隠していたこと、全部謝りたかった。


 それから⋯⋯許されるなら、傍にいたいと、どんな事でもするから、捨てないで欲しいと。


 言わなきゃいけなかった言葉は、なにひとつ出てこなくて、ただ、想いを伝えていた。


「っ⋯⋯! なぜ、謝る。 謝らなくていい、初めて会った日に、私は言ったはずだ⋯⋯」


 涙を流す私を、リオン様は優しく⋯⋯もう手放さないと、強く私の体を抱き寄せた。


「私はアリスに一目惚れしたと。ずっと待つつもりだった、アリスが私を好きになってくれるまで」


 リオン様は私を抱き寄せる腕を緩めた。


 私だけを映す瞳と目が合う。


「愛してる。アリス」


 蕩けるように甘い言葉とともに、唇に柔らかいものが触れた。


 そばにいてもいい。


 もうひとりじゃない。


 リオン様から伝わる熱が、凍てついてしまった私の心を溶かすように、包み込んだ。


 胸に顔を埋めて、嗚咽を堪えるように泣き出した私を、リオン様は何も言わずに、ただ、優しく抱きしめてくれた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。