第26話 認めてくれる
幼獣たちの手足をタオルで拭いて、毛に絡まった汚れや草を取って綺麗にしてあげる。
膝の上に乗せて、一頭ずつブラッシングをしていく。
「⋯⋯ふわふわで、きれいになった」
私はやり切った満足感に声を漏らす。
「お疲れ様です。お嬢様、助かりました」
「お役に立てたようで、良かったです」
私は微笑みながら、幼獣たちのご飯の準備に取り掛かる。
私にも役に立てることがあり、認めて貰えるのが嬉しかった。
世話係の騎士たちと手分けして、幼獣たちにご飯を食べさせて、顔まわりを拭いてあげる。
健康状態を記録に残し、この日の幼獣のお世話は無事に終わった。
そして私は心の底から「認めてもらえた」という実感がわいた。
☆☆☆
私はシルフィを連れて部屋に戻り、湯浴みを済ませた。
部屋でくつろいでると、クロエが夕飯を載せたお盆を持って来てくれた。
普段はリオン様と一緒に食堂で食べるが、遠征で不在だからシルフィのいる自室で食べることにした。
「今日の夕飯はボロネーゼとサラダです。デザートは食後にお持ちいたします」
一人で食べる寂しさもあったけど、ご飯の美味しそうな、煮込んだトマトの甘酸っぱい香りと、牛肉の匂いに私はわくわくしながら、席についた。
「ありがとう。今日のご飯も美味しそう!」
私はいただきますと手を合わせて、フォークを片手にまずはサラダを食べた。
「レタスとキュウリが採れたての新鮮な味がして、ドレッシングもさっぱりしてて食べやすいわ」
噛むとシャキシャキといい音がする。
「野菜は屋敷の外にある畑で育てていて、採れたですよ!」
「畑? ⋯⋯畑があるの?」
自家製の野菜⋯⋯私も野菜育てたかったけど、畑は作らせて貰えなかったんだよね。
「はい、明日行かれますか?」
「私が行ってもいいなら⋯⋯行ってみたい」
「もちろんですよ! 屋敷の中でアリスティア様が行ってはいけない所なんて、ありませんよ。遠慮せずに行きたい所に行って、やりたい事も何でも好きにしていいんですよ」
クロエは嬉しそうに微笑みながら、私に優しい言葉をかけてくれる。
「アリスティア様はもっと、欲張りになって、望んでいいんです。その方が閣下もお喜びになられます!」
「⋯⋯⋯⋯そうだといいな」
私に優しく微笑みかけてくれるリオン様の顔が頭に浮かんだ。
(リオン様はご無事かしら⋯⋯)
無事に帰って来て欲しい。
公爵家の人たちは私を認めてくれて、無条件で大事にしてくれる。
それがすごく嬉しい。
けれど、これは夢で目が覚めたら、冷たくて、暗くて、誰もいないひとりぼっちの世界に私だけ取り残されるのではないか、時々不安が襲う。
そして誰が、私に語りかける。
――お前なんか⋯⋯なんの価値もない、消えてしまえ、役たたず⋯⋯無能のくせに、幸せになるなんて許さないと。
「⋯⋯⋯⋯さま、⋯⋯アリスティア様⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯あっ」
「大丈夫ですか? ご飯食べないと、冷めてしまいますよ?」
「⋯⋯そうね⋯⋯温かいうちに頂かないと失礼だよね」
私がフォークを片手に考え込んでいると、心配したクロエが声をかけてくれる。
美味しいご飯が目の前にあるのに、嫌なことは考えたくない。
私はかぶりをふり、フォークを握り直した。
ボロネーゼは、深みのある赤茶色のソースがたっぷり絡まって、挽肉の粒やにんじん、玉ねぎがツヤツヤと光ってる。
パスタにソースを絡めて口に運ぶ。
ソースが舌全体に広がって、トマトの酸味と甘み、肉と玉ねぎの旨味が複雑に絡み合い食が進む。
パスタのもちもち感と挽肉の少しザラッとした、食感が美味しく、楽しい。
サラダと交互に食べると、油っぽさをリセットしてくれて、あっという間に完食した。
デザートに出されたレモンのシャーベットも爽やかな口当たりで、満足感の高い夕飯だった。
夕飯後、寂しさはあるものの、リオン様に頂いたネックレスに触れると、そばにいてくれるような気がした。
私はペンダントを枕元に置いて、シルフィを抱きしめながら眠った。
――リオン様に恋しさを感じながら。




