第25話 シルフィとの時間
よく晴れて雲ひとつない青空の下、城の広い緑の放牧地をシルフィが楽しそうに駆け回っていた。
他の銀獣の幼獣たちも外に出してあげて、もっふもふの銀色の獣が、太陽の光を受けて輝きながら、じゃれあったり、お昼したり、自由に過ごしている。
太陽光を浴びさせて、たくさん走らせて、運動させる事によって足腰が鍛えられて、強い銀獣に育つ。
「シ、シルフィー!! おいで!! 」
私は遠くに走って行ったシルフィを呼び戻す。
どこにいても、何かに集中していても、呼び戻しの合図を受けたら戻ってくるように訓練をする。
銀獣との信頼関係を深めて、より良い相棒となれるように。
シルフィは私の声に反応して、耳をぴくぴく動かして、全力で走って胸の中に飛び込んでくる。
「わっ!? シルフィ!! いい子ね、よしよし」
その勢いでふらつきながらも、ふわふわで柔らかい毛並みに覆われた頭を撫でまわして、少し大袈裟に褒めてあげる。
「きゃうっ! きゃうんっ!! 」
シルフィも嬉しそうな鳴き声をあげて、興奮したように私の周りをぐるぐる回りだす。
シルフィを訓練しているのを見ていた、他の幼獣も集まって来て、足元がもふもふで埋め尽くされた。
ふわふわした毛が柔らかくて、足に触れる鼻先がひんやりと冷たい。
「君たちも遊んで欲しいの?」
「きゅー! きゃうっ!! きゃんっ!!!」
「誰が一番早く走れるかな? ――よーし。とってきて!!」
遊び道具のボールを遠くに投げてあげる。
それを追いかけて一斉に幼獣が走り出す姿はとても、可愛らしい。
「ふふっ。⋯⋯シルフィー! がんばれー」
ボールの取り合いをして、芝生に転がるシルフィの姿をみて、私は相棒のシルフィを応援する。
他の幼獣が強くて、ボールを奪われたシルフィが、その後ろを追いかける。
ボールを手に入れた幼獣の一匹が私の元に戻ってきて、ボールを足元に置く。
その顔は、青い瞳を輝かせて、褒めて、もう一回投げてと言っているようだった。
その後ろから何頭かも戻ってきて、シルフィも今度こそと、やる気に溢れた顔をしている。
私はボールを拾って、また投げる。
「きゅ、きゃうんっ!!」
シルフィが負けじと鳴き声をあげながら、ボールを追いかけて咥える。
そこに絡みつくように、他の幼獣が体当たりをする。
シルフィはボールを取り落として、他の子が拾う。
私の元にボールをくわえた子が勝ち誇った顔で走ってくる。
「シルフィ! 次は取れるよー!!」
私はまたボールを投げてあげる。
シルフィは負けず嫌いだ。
その一生懸命な姿を見ているだけで、胸が温かくなる。
何度もボールを追いかけては、負けて、ボールを取れるまで何度もボール遊びをする事になった。
「アリスティア様、そろそろ休憩されますか?」
幼獣たちが満足して休み始めた頃、クロエが声を掛けてきた。
「うん。休憩にする」
私はクロエと一緒に、放牧地の端に簡易的に置いてある木の椅子に腰掛けた。
「水分補給も大事ですので、こちらをどうぞ」
私はクロエから受け取った飲み物を口にした。
ほんのり酸味があって、レモンの香りが口に広がる。
さっぱりとしていて飲みやすい。
「おいしい」
「お口にあったようで良かったです。なにか軽食をお持ち致しましょうか?」
私が首を振るとクロエが驚いたように慌てて「どこかお加減が?」と心配された。
リオン様は三食+おやつを私に出してくれる。
そのうえ、お仕事で忙しいはずなのに、朝と夜は必ず一緒に食べてくれる。
お昼は一緒に食べられない代わりに、休憩時間にはおやつを持って私の所に来て、顔を見て、少し休んでから仕事に戻られる。
常になにかを食べさせられている私が、軽食はいらないと言っただけで、そこまで慌てられると困る。
「えーと。その、具合が悪いとかじゃなくて⋯⋯軽食⋯⋯持ってきてるの⋯⋯」
私が恥じらいながら、鞄から軽食用に持ってきた干し肉を取り出すと、クロエは納得した表情で頷いた。
「その干し肉は、アリスティア様がお作りになられたものですか?」
「うん。自分で仕留めた獲物で作ったの。シルフィと一緒に食べられたらいいなと思って⋯⋯クロエも食べる?」
「いただいても、よろしいのですか?」
「もちろんよ」
「ありがとうございます。いただきます」
クロエは私から干し肉を受け取り、嬉しそうに食べた。
「んっ、美味しいです。肉の旨みが濃縮されていて、食べ応えがありますね。干し肉初めて食べましたが、ハマりそうです」
「私にとって干し肉は非常食だったの。獲物を取れないときに食べるのと、狩りをしながら食べるのには丁度いいからね」
私も干し肉をかじり、食べやすい小ささにして、シルフィにも食べさせてあげる。
「シルフィもどうぞ。ちゃんと噛んで食べるんだよ」
「きゃんっ!」
しっぽを大袈裟に振りながら、シルフィも干し肉を夢中で食べる。
他の幼獣たちも集まり、鼻で鳴きながら、食べたいと騒ぎ出して皆で仲良くおやつの時間にした。
日が暮れて銀獣の世話当番の騎士たちが迎えに来て、一緒に幼獣舎に向かった。




