第24話 アリスティアの力 ② (リオンドール視点)
後方支援部隊のテントに着いた瞬間、重く張りつめた異様な空気が肌を刺した。
そして――圧倒的な魔力量にテント全体が包まれていた。
「閣下⋯⋯! これは⋯⋯」
シリルが慌てて私の隣に立ち、息を飲む。
負傷していたはずの騎士の一人が震える声で言った。
「す、すみません、閣下⋯⋯、お弁当を食べた直後から、体が熱くなり⋯⋯魔力が勝手に暴走し始めて⋯⋯傷が、治りました」
騎士の体が淡い金色の光に包まれていて、傷をすべて癒していた。
「それだけじゃありません! 魔力もすべて回復しました!」
他の騎士も興奮した声で続ける。
(一体何が起きたというんだ⋯⋯? )
「口にしたのは、アリスの作ったご飯だけか?
他に回復薬を口にしたとかではないのか?」
「⋯⋯口にしたのは、お嬢様に作って頂いた、料理だけです」
アリスは「治癒の力を使えない」と言っていたのに、料理をする事で魔力が混ざり、治癒の力を使えたのか?
それなのに、こんな素晴らしい力を持つアリスを、ノワール伯爵家は「無能」だと決めつけて、虐げ、剣で背中を斬りつけ、記憶を失うほど傷つけたのか?
どうしようもない怒りが、腹の底から煮えたぎるように湧き上がった。
それは、魔力と共に溢れ出しそうなほど、強い衝動だった。
「アリスの料理で傷が治ることや、今日の出来事は決して外部に漏らすな。アリス本人にも、だ」
「はいっ!! もちろんです!!」
騎士たちの即答を聞きながら、私は静かに拳を握りしめた。
この力をノワール伯爵家が知れば、縁を切る約束をした、誓約書など関係なく取り返そうとする可能性がある。
傷が治るだけでなく、魔力まで回復させる――それは相当に強力な治癒能力だ。
(私が必ず、アリスを守るんだ)
もう二度とアリスを傷つけるようなことがあってはならない。
「シリル⋯⋯確認したいことがあるから共に来い」
私はシリルを連れて、後方支援部隊のテントに残っていたアリスの弁当を持って、前足の骨を折った銀獣の元に向かった。
(確かめなければ。本当にアリスの治癒の力なのか)
銀獣が休んでるテントに入ると、銀獣の治癒師のエリーが静かに立ち上がり、胸元に手を当てて礼をした。
銀獣は伏せの姿勢で顔だけ動かしてこちらをみた。
「怪我が治るかもしれないから、これを食べてみろ」
私は銀獣の前に卵焼きを置いた。
匂いを嗅ぐように、鼻先で突っついてからぱくっと食べた。
もう一つ欲しいのか、銀獣はしっぽを激しめに振り回した。
二切れ目を与えたら大喜びで食べて、銀獣の持つ体内魔力量が一気に増えて、巨大な体が震え、しっかりと立ち上がった。
折れていた前足も淡い金色の光に包まれて、銀獣は驚いたように自分の足を何度も踏みならしていた。
「これは⋯⋯本当に、アリスティア様の治癒の力ですね」
シリルが感嘆の声を漏らした。
「ああ、間違いないだろう。アリスは、ちゃんと治癒の力を使えてたんだ」
目の当たりにした奇跡の力を疑うことなんて出来なかった。
アリスが「私は治癒の力を使えません」と、不安そうな声で言った日のことを思い浮かべた。
ノワール伯爵家がアリスに酷い仕打ちをしなければ、今頃アリスは治癒の力を自在に使い、誰もが認める治癒士になっていたのではないか。
それと同時に醜い感情が胸の中で渦巻く。
――アリスが治癒の力を使えることを知ったのが、私で良かったと。
アリスが治癒の力を自在に使えていたのなら、家族に愛されて、私の元には来なかっただろう。
その事実に安堵してしまった自分が、情けなくて許せなかった。
「アリスティア様には、この力のことどうお伝えしますか? 伝えれば過去の記憶を思い出すきっかけとなり、また、苦しまれるかもしれません」
「そうだな⋯⋯ひとまず、騎士たちの口止めを徹底してくれ。アリスには、私が様子を見ながら伝える」
アリスが作ってくれた温かい料理が、今、目の前で奇跡を起こしている。
そして私は、改めて誓った。
――アリスを、絶対に守る。
アリスが望むなら、この力のことも、過去のことも、全部受け止めて支える。
アリスの傍にいるのは私でありたい。




