第23話 アリスティアの力 ① (リオンドール視点)
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『グギャアアァァァァァァァァァァッ!!』
耳を裂く咆哮が、山全体を震わせた。
赤い鱗が陽光を弾き、巨大な翼が風を切り裂いて急降下してくる。
「ルカ、一直線だ」
相棒の銀獣ルカの背で身を低くし、私は叫んだ。
「私が引き付ける! 第一部隊は右翼、第二部隊は左翼から、弓で狙え! 残りは後方から一斉攻撃だ!! 絶対に地面に落とすぞ!!」
「「「はっ!!」」」
ルカを走らせて引き付ける。
風圧が顔を叩き、ルカの銀色の毛が逆立つ中、私は剣を抜き魔法を放った。
「――くらえっ!」
青白い魔力の斬撃を放つ。
竜がその攻撃に怯み、一瞬、首を引いた。
「放てぇぇ!!」
魔力を込めた矢が光のように竜に降り注ぐ。
閃光と爆ぜる音が山中に鳴り響く。
鱗が弾けて、焼ける臭いが広がる。
竜が苦痛に吠えて、山が揺れるほどの咆哮をあげる。
次の瞬間――。
巨大な尾が、木々ごと薙ぎ払いながら横殴りに振るわれた。
「避けろ!!」
悲鳴があがった。
竜の尾を交わしきれなかった騎士数名と彼らが乗る銀獣が吹き飛ばされる。
ルカも風圧に耐えきれず前脚を滑らせる。
手網を引きなんとかバランスをとり、持ちこたえた。
翼に無数の穴を開けられた竜が、平衡を失いながらも牙をむき出しにして突っ込んでくる。
私はルカを跳ねさせ、落ちてくる巨体に向かって全力で剣を振り下ろした。
青白い光が爆ぜ、竜の首を深く斬り裂く。
血飛沫が顔にかかり、鉄の味が口に広がる。
「次が来るぞ! 支援部隊は怪我人の治癒を最優先! 絶対に死なせるな!!」
「「「はいっ!!」」」
横を走るシリルが、蒼白な顔で叫んだ。
「閣下、この二十メートル先、巨大な魔力反応! 複数です!!」
私は剣を握り直し、血で濡れた頰を拭った。
「全員、気を抜くな!! 生きて帰るぞ!!」
騎士たちを鼓舞するように声を張り上げる。
心配そうに見送ってくれたアリスの顔が脳裏に浮かぶ。
――絶対に生きて、無事に帰る。
手に握る剣を強く握りしめ魔力を込める。
私は次の咆哮が響く山に向かって、再びルカを駆った。
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魔物を討伐しながら山中を進み、周辺から魔力反応が無くなった頃、休憩と被害状況の報告を受けることにした。
騎士たちもひと息つけると、先ほどの緊迫感など嘘のように、ご飯の準備をしている。
今回の遠征は特別だ。
――私の愛する婚約者アリスティアが手料理を持たせてくれたのだから。
普段の遠征では、食糧は現地調達で討伐した魔物の肉を焼いてその場で食べることが多い。
「閣下」
「シリルか。被害状況の報告をしてくれ。食べながらでいい」
川で返り血を洗い流し、騎士たちを見渡せる場所にある岩に腰掛けた。
アリスからもらったお弁当を食べようとしている所だった。
「では、お隣に失礼いたします。状況報告をさせて頂きます」
シリルも隣に腰を下ろして、お弁当を食べ始める。
私も包みを開いて一口、卵焼きを頬張る。
優しい甘さとふわふわの食感が疲れた体に染み渡る。
鶏のからあげはサクサクで中はジューシーでにんにく醤油の風味が最高だった。
この後の討伐も頑張ろと思えた。
「遠征中に手作りのお弁当を食べれるのはいいな」
アリスが一生懸命作ってくれたのだと思うと、胸が熱くなる。
――早く無事に帰って、ちゃんと「美味しい」と言いたい。
「そうですね。アリスティア様は料理もお上手ですね」
シリルもお弁当を褒めて、騎士たちの被害状況を淡々と報告する。
「大きな怪我をしたのは二名で、脚の骨を折った者と竜の尾に弾かれた際に、木の枝が脇腹あたりに刺さり負傷した者がおります。出血はありましたが、止血は済んでおり、両名共に命に別状はございません」
私は皆が無事なことに安堵に息を吐く。
怪我をしない事が一番だが、討伐に出る以上、怪我人は出る。
「それと、銀獣も一頭前足の骨を折っています。その他の騎士、銀獣共にかすり傷や打撲などで済んでいます」
「負傷した者で戦えない者と銀獣は、後方支援部隊に移動させて、怪我の治癒を優先させてくれ」
「了解しました」
ご飯も食べ終わり、シリルの報告も受けて移動の指示を出そうとした時だった。
「閣下、大変です!!」
慌てたように、後方支援部隊の隊員が駆け寄ってきた。
「その、け、怪我していた、人が⋯⋯ご、ご飯食べたら⋯⋯とっ、とにかく、見てもらった方が、早いので、来てください」
息を切らしながら、途切れ途切れに話ながら、私について来るように促す。
何があった? 怪我した騎士が急変したのか?
心臓が早鐘のように鳴る。
落ちつかせるように、胸に手を当てて、後方支援部隊員の背を追いかけた。




