第22話 気づいてしまった温かさ
魔物討伐に行ったリオン様とフリューゲル騎士団を見送ったあと、私はクロエと自室へと戻った。
「きゃうーん⋯⋯、くうーんっ⋯⋯」
部屋に近づくにつれて、中から鼻を鳴らすように、よく通る遠吠えのような鳴き声が響き渡っていた。
シルフィをお留守番させたままだったことを思い出した私は、急いで自室の扉を開ける。
「シルフィ、一人にしてごめんね。寂しかったよね」
「きゃうっ!!」
シルフィは全身で喜びを表現するかのように私の腕の中に飛び込んできた。
ふわっふわの柔らかい毛に覆われた身体を受け止めると、腕の中でシルフィはしっぽをぱたぱたと激しく振る。
「シルフィを置き去りになんてしないよ。リオン様をお見送りしてたの。今日は外で一緒に遊ぼうか」
その言葉にシルフィは腕から抜け出して、私の服の裾を咥えて優しく引っ張った。
早く外に遊びに行こうと誘うように。
そんなシルフィの姿に微笑み部屋を出た。
城の広い緑の放牧地に向かう道中、後ろから足音が追いかけてきた。
「アリスティア様、先ほどの声はシルフィでしたか?」
振り返ると、サラが明るい笑顔で立っていた。
「うん。シルフィはまだひとりでお留守番はできないみたい。サラは騎士団と一緒に遠征には行かなかったの?」
「はい! 私は閣下より『アリスティア様をお守りするように』と命じられました。護衛としてお傍にいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。サラは私の護衛に任命されて迷惑じゃない?」
リオン様が私に護衛をつけてくれるのは嬉しいし、公爵家に嫁ぐ令嬢に護衛が付くのは当たり前なのかもしれない。
だけど、私はこの好意に甘えてもいいの?
私の心には拭えない不安が残り、それが足枷のように私を縛る。
「迷惑じゃないですよ! 私はアリスティア様の護衛になれて嬉しいです。⋯⋯これは内緒ですよ? 私は魔物を倒すって、家を飛び出して騎士になったのに、実は魔物と戦うのが怖いんです」
「あ⋯⋯」
「やっぱり、こんな騎士じゃ不安ですか?」
私が言葉を詰まらせると、サラの琥珀色の瞳が不安そうに揺れた。
「そんなことない。私だって戦うのは怖い」
私だって生きる為とはいえ、一人で狩りに行くのは不安で怖かった。
(ああ⋯⋯私はここに来て人の温かさに触れて、心が弱くなってしまった)
ずっと一人で耐えてきたのに、優しさがこんなにも胸に染み渡るなんて。
声に出して、ようやく気づいてしまった。
――私は、ずっと誰かに助けてもらいたかったんだ。
そして、そんな私を連れ出してくれたのはリオン様だった。
私の中で蓋をしていた感情が抑えられなくなっていた。
「じゃあ⋯⋯一緒ですね! 魔物は怖いですが、しっかりと護衛として、アリスティア様をお守りしますので、お任せください!」
前を向いて明るく笑えるサラが羨ましかった。
「ありがとう」
「はい!」
サラの明るい笑顔を見て、私の胸の奥がじんわりと温かくなった。
サラにお礼を言いながら私はリオン様にもらったペンダントに触れた。
さっき見送ったばかりなのに、会いたいと思ってしまう。
この胸に広がるあたたかい気持ちを大切にしようと思った。




