第21話 お見送り
弁当を持って行くと、フリューゲル騎士団は遠征前の最終確認をしていた。
リオン様がどこにいるのかはすぐにわかった。
陽光に輝く黄金色の髪、黒を基調に金をあしらった騎士団正装、そして風になびく長いマントが、リオン様をより格好よく見せていた。
その隣にはキリッとした表情で立派な佇まいの銀獣が神々しく控えている。
リオン様と銀獣の並びが美しいすぎて、思わず立ち止まり見蕩れてしまった。
(シルフィもいつか⋯⋯こんな風に立派な銀獣になるのかな?)
まん丸な青い瞳をキラキラさせながら、口周りをミルクでベタベタにして、甘えてくる姿を想像して、自然と笑みがこぼれた。
シルフィの成獣になった姿を想像しながら、リオン様に近づくと、私に気づいたリオン様が騎士たちに指示を出していた時とは違う柔らかな表情で、近づいてくる。
「どうした? アリス。朝食を一緒に食べれなくてすまない」
長いマントを翻して歩く姿に、私だけを映すアクアマリンの宝石のような瞳から目が離せなかった。
心臓はどきどきして、お弁当を渡して言おうとしていた言葉が、喉に詰まって出てこない。
「アリス? 顔が赤いが熱でもあるのか?」
甘い声で覗き込むように顔を見られて、さらに熱があがる。
耳まで真っ赤にして、なんとか声を出す。
「あ⋯⋯っ! あの⋯⋯」
「うん?」
「お、お弁当を作ってきたので⋯⋯皆さんで遠征中に食べてください」
勇気を出して私がお弁当を差し出すと、リオン様の目が大きく見開かれた。
「お弁当⋯⋯アリスの、手料理⋯⋯?」
「はい⋯⋯。ご、ご迷惑でしたか⋯⋯?」
声が震えてしまった。
「いや、迷惑なわけあるか。好きな相手から手作りの弁当もらえて、すごく嬉しい。⋯⋯正直、遠征なんか行きたくなくなる」
「⋯⋯っ!! それは⋯⋯」
「閣下、魔物討伐に行かなければ、この地の安全も守れませんよ」
遠征に行きたくないと言い出すリオン様にシリル副団長が苦笑しながら口を挟む。
「シリル、わかってはいるが、離れなくないと思ってしまうんだ。わかるだろ?」
「いいえ、分かりません」
「遠征前の大事な時間にお邪魔してしまい、すみません」
何やら喧嘩になりそうだったので私は謝った。
アリスは、アリスティア様は、悪くありませんとふたりの声が重なった。
「その、皆さんの分もありますので、遠征お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ありがとうございます。アリスティア様。大事に食べさせて頂きます」
シリル副団長はクロエから騎士団員分を一つにまとめた弁当を受け取り、準備をしている騎士たちの元に戻って行く。
「アリス」
「はい」
静かに名前を呼ばれて、私は背筋を伸ばす。
「遠征から戻ってきたら、一緒に街に出かけよう。まだ、フリューゲル公爵領の街をちゃんと案内出来ていなかったな」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
「ああ、それとこれを」
リオン様が私の手をそっと包み込み、手のひらにアクアマリンの宝石がついたペンダントを乗せた。
「これは⋯⋯?」
「私が傍に居られない間、アリスを守ってくれるように魔力が込めてある」
私は宝石を握りしめ、胸元にそっと当てた。
人からこんなに素敵なものを貰うのも、こんなに嬉しく感じるのも、初めてだった。
「無事のお帰りをお待ちしております」
「アリスを悲しませない為にも、無事に帰ってくるから、心配するな」
リオン様はそう言い残して、銀獣の背に跨り魔物討伐の遠征に向かった。
私はその背中を見送りながらリオン様の無事を、騎士団の皆が怪我なく帰ってきてくれることを静かに祈った。
胸に残る温かさと、少しの寂しさを抱きながら。




