第18話 リオン様との夕飯
シルフィを連れて部屋に戻り、夕飯の前に湯浴みを済ませた。
シルフィが私の部屋にいるのは特別にリオン様が許可してくれたから。
本来なら銀獣は獣舎に入れなければいけないが、私の部屋は広いし、なによりシルフィがそばにいてくれると心が落ち着く。
「アリスティア様、夕飯の準備が整いました!」
シルフィの毛を根元から丁寧に、ブラッシングをして、ふさふさにしていると、メイドが呼びにきた。
「ありがとう。クロエ、すぐに行くわ」
クロエは正式に私の専属メイドになった。
私より一つ歳下の十五歳で、すみれ色の髪をハーフアップにした、好奇心旺盛な少女。
クロエの気さくな明るさにすぐにうちどけた。
(今日の夕飯も楽しみだな)
シルフィは部屋でお留守番をしてもらい、私は食堂に向かった。
食堂の扉を開ける前から、赤ワインの深みのある芳香な香りと、牛肉の旨味がしっかり溶け出したコク深い肉の匂いが、部屋中に広がっていた。
その香りに、食欲がじわじわと刺激される。
「今日はビーフシチューだ」
リオン様はすでに席に着いていて、私に軽く微笑みかける。
私も自然と頬を緩めながら、向かいの席にすわる。
給仕が運んできたのは、熱々のビーフシチューとふっくらとした丸いパンだった。
スプーンを手に取り、一口すくって口に運ぶ。
煮込まれた玉ねぎやにんじんの甘い野菜の香りが口いっぱいに広がった。
とろみがありつつも重すぎないソースに、赤ワインの酸味とコクがしっかり効いていて、牛肉の旨味が濃厚に染み出してる。
「んっ、おいしい」
「ああ、よく煮込まれているな」
牛肉はスプーンで簡単にほろほろ崩れるくらい柔らかくて、口に入れた瞬間、肉の繊維が溶けるように、崩れながらソースの味わいがジュワッと広がる。
甘いだけじゃなくて、酸味ととのかな苦味のバランスが絶妙だった。
「お肉が口にいれた瞬間とろけます⋯⋯」
「初めて一緒に食べたステーキと同じ肉を使っている。アリスが気に入ってたからな」
「⋯⋯ カルノタトルのお肉⋯⋯カルノタトルってなんですか?」
「知らなかったのか? 」
リオン様が少し驚いた表情で私を見つめた。
「⋯⋯はい」
「小型竜の名前だ」
「なるほど⋯⋯竜のお肉だったんですね」
「魔物の肉を食べるのは、あれが初めてだったか?」
「そうですね。魔物の肉も、こんなに美味しいんですね」
好奇心が湧いて、他の魔物のお肉も食べてみたいと思った。
「フリューゲル騎士団の任務は魔物討伐だから、魔物討伐に行ったら他の魔物の肉も食べさせてやる」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
まだ見ぬ魔物に少しわくわくする。
そんな気持ちを抱えたまま、柔らかいパンをちぎって、ビーフシチューに浸した。
パンのふんわりとした食感とソースのトロトロした舌触りが合わさり、口の中でとろける。
甘みのあるパンとシチューのコクが混ざり合って、とても優しい味わいになる。
最後はパンで器の底を拭うように、一滴残らず味わいながら食べ終えた。
お腹も心も満たされて、幸せな気持ちでいっぱいだった。
「満足してくれたようで良かった」
「はい。ごちそうさまでした」
リオン様の穏やかな声に私は微笑み返した。
「⋯⋯アリス、私は明日から数日、城を空けるが大丈夫か?」
リオン様は小さく息を吐いて、私をまっすぐ見つめた。
「お仕事ですか?」
「先ほど報告があって、近隣の村で魔物が出たそうだ。アリスのそばにもう少しいたかったが⋯⋯討伐に行ってくる」
(無事に帰ってきてくれるよね?)
そう思うと同時に、胸の奥に寂しさがじんわりと広がった。
「アリス⋯⋯心配しなくても、ちゃんと帰ってくるから、そんな顔しないでくれ。離れたくなくなる」
心の中を見透かされたようで、急に頬が熱くなった。
(遠征に行くリオン様のために、私にできること⋯⋯)
リオン様が「アリスの手料理を食べてみたい」と言っていたことを思い出した。
(⋯⋯そうだ。ご飯を作ろう)
私は心の中で、そっと決意した。




