第15話 銀獣との対面
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フリューゲル公爵家で目を覚ましてから三日が経った。
体はだいぶ回復したものの、頭の奥に時折鈍い痛みが残る。
一週間も眠り続けていたこと、そしてあの暗い夢の残滓が、時々胸をざわつかせる。
そんな暗い気分も気持ちのいい陽射しの中で、頭の奥底に追いやる。
そうするべきだと直感が告げている。
ぽかぽかする陽の光を浴びながらベッドでごろごろしながら、シルフィの柔らかい毛に顔を埋めたり、吸ったり、もふもふしたり⋯⋯非常にだらけた生活を送っていた。
伯爵家にいた時とは考えられないほどの贅沢な時間。
何もしなくても、ご飯が出てくるという最高の暮らしを満喫していた。
(このままダラダラと過ごすのは、さすがにいけないよね)
私はもぞもぞとベッドから起き上がり着替えた。
今日はドレスではなく、ズボンとシャツで動きやすい格好をする。
銀獣のお世話をしに行こうと思った。
リオン様は忙しい筈なのに、私と毎日一緒に過ごす時間を作ってくれる。
それが嬉しくて、リオン様と過ごせる時間を毎日心待ちにしている私がいる。
だからこそ、私にも出来ることで役に立ちたい。
「シルフィ、外に行こうか。銀獣のお世話をしに」
「きゃんっ!」
私が名前を呼ぶと嬉しそうにしっぽを振りながら、シルフィは飛んでくる。
その体を腕に抱き上げて、私は部屋を出た。
シルフィは会わない間に大きくなって、いまはまだ抱っこできるけど、そのうち持てなくなると考えると少しだけ寂しい。
もちろん、無事に成獣になって欲しいと思う気持ちの方が大きいけど。
「アリス! もう身体はなんともないのか?」
屋敷を歩いていると、背後から聞き慣れた声がした。
リオン様が私の方に足早で近づいてくる。
「はい、おかげさまで元気になりました。今日は銀獣のお世話をしたくて⋯⋯私も一緒にお世話手伝ってもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。獣舎に案内しよう。でも、無理はするなよ」
リオン様は優しく微笑んだ。
「はい! ありがとうございます」
私は元気よく頷いて、リオン様の隣を歩いた。
フリューゲル公爵家の屋敷は広いと言うか、立派な城だ。
獣舎に向かう道中、騎士たちの訓練の声や、遠くから聞こえる銀獣の遠吠えのような鳴き声が響い聞こえてきた。
私は無意識に、自分の弓のことを思い浮かべた。
寝込んでいた間に、きっと筋力も感覚も落ちてしまっただろう。
(ちゃんとご飯を食べさせてもらえるから、狩りには行かなくても良さそうだけど)
やがて、木造の立派な獣舎が見えてきた。
大きくて、広い。
当たり前だけど私が暮らしてた小屋よりも立派だった。
リオン様と獣舎に近くと「きゃんっ」「くぅん」「キャウ」などかわいい鳴き声が聞こえてくる。
私は早く会いたいくて目を輝かせながらリオン様の説明を聞いた。
「ここが銀獣の獣舎だ。ここには、親とその子どもたちが二十頭ほど生活している。親と子の健康管理、食事、記録⋯⋯すべてが大切な仕事だ」
早く中に入りたい私に「説明が先だ」と獣舎の入口でリオン様は足を止めた。
「アリスには銀獣のご飯のお世話から始めて欲しいができるか?」
「はい! 私、食べることも好きですが、料理することも好きです。狩ってきた獲物を自分で調理するのが、日常でしたから」
「⋯⋯料理するのも好きか⋯⋯機会があればアリスの手料理を食べてみたいな」
目を細めて微笑むリオン様の姿に胸が高鳴った。
(この気持ちは⋯⋯なに⋯⋯?)
「⋯⋯が、頑張ります。食べて貰えるなら嬉しいです」
照れを誤魔化すように、私は小さく頷いた。
「楽しみだ。獣舎に入ろう。わからないことはその都度聞いてくれ」
「はい」
リオン様が獣舎の扉を開けると一瞬、静寂に包まれた。
でも、すぐにしっぽを振る音や、木の柵をガリガリと引っかく音や、かわいい鳴き声が溢れ出した。
「みんなアリスのことを歓迎しているな」
親の銀獣は銀色の美しい毛並みが光り輝いていて、キリッとした目つきで、気品に溢れ、力強さも感じ取れた。
幼獣はシルフィを見ていたから、同じような感想になるけど、まとまっているのをみると、余計にかわいい。
「⋯⋯ここは、もふもふの⋯⋯天国ですか?」
ふわふわのもふもふ。
きゅるんとした、好奇心いっぱいの青い瞳に見つめられて、私は頬を綻ばせた。
こんなにかわいい子たちの世話をさせて貰えるなんて、フリューゲル公爵家にこれて本当に良かった。
シルフィを抱いたまま、胸が温かくなる。
この場所で、幸せに生きてもいいのだろうか?
一週間も寝込んで、皆に迷惑をかけてしまった。
――能力を使わなくても、リオン様の隣に立つのにふさわしい女性になりたい。
私はそっとシルフィの頭を撫でながら、静かに決意した。




