第13話 目が覚めたら公爵家にいた?
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暗闇で誰かが、叫んでいる。
私は暗闇の中で両手で耳を塞ぎ、聞きたくない言葉を遮断する。
この記憶はいらない。
私を壊す、怖いもの。
だから鍵をかけて、深く深く封じ込める。
そうすれば――痛くも、怖くもない。
――大丈夫、私は一人でも生きられる。
柔らかい感触が私の髪を撫でる。
その優しい感触に導かれるように、私はゆっくりと意識を浮上させた。
重い瞼を押し上げると、頭の奥がずきずきと痛んだ。
金色の髪が心配そうに私を覗き込み、青い瞳が揺れる。
「⋯⋯アリス、大丈夫か?」
リオン様の声が、ひどく安堵に満ちている。
心地よい安心する声に私は微笑んだ。
嫌な夢を見ていた気がするのに思い出せない⋯⋯頭に激しい痛みが走った。
「っ⋯⋯!」
こめかみの辺りを片手で抑える。
「アリス⋯⋯! まだ寝ていろ」
そっと肩の辺りを抑えられて、ベッドに寝かされる。
リオン様の声に不安と疲れが見られる。
よく見るとその顔は明らかに疲れていた。
目の下に薄い影ができ、少しやつれている。
(どうして?)
少し意識がはっきりとしてきた私はぼんやりと辺りを見回した。
見知らぬ高い天井、豪華なシャンデリア、広すぎる部屋。
大きな窓から差し込む柔らかな陽射しが、ベッドを優しく照らしている。
「⋯⋯ここは、どこですか?」
「ここは、フリューゲル公爵家だ。アリスがこれから使う部屋だよ」
フリューゲル公爵家⋯⋯?
私の記憶は、宿の湯浴み後にシルフィと一緒に眠ってしまったところで途切れている。
それ以降のことが思い出せない。
⋯⋯何も覚えてない、なんで?
私がぐるぐる考え込んでいると、優しく教えてくれた。
「アリスは一週間、目を覚まさなかった。その間に馬車でここまで運ばせてもらった」
「⋯⋯一週間!?」
私はびっくりして動揺を声に出し、同時に背筋が凍った。
一週間も、ずっと眠り続けた上に運んでもらって⋯⋯。
どれだけ私は心配と迷惑をかけているのよ。
顔の血の気が引いた。
「ごめんなさい⋯⋯本当に、すごく迷惑と手間をかけさせてしまって」
「謝らなくていい、目覚めてくれただけで良かった」
「っ⋯⋯!」
私に向けられる優しさに涙がこぼれそうだった。
「どうしても、気になるなら⋯⋯その、触れてもいいか?」
「⋯⋯⋯⋯はい」
リオン様は私の頭を優しく撫でながら微笑んだ。
でも、その笑顔の裏に隠れた疲労と不安がはっきりと感じ取れた。
(私ももらってばかりじゃなくて、リオン様にお返しがしたい⋯⋯でも、私にそんな価値あるの?)
「食欲はあるか? 食べれそうなら、なにか用意するが」
失態を重ねたことに落ち込んでいる私を気遣うように、声がけしてくれる。
「⋯⋯食べたいです」
私は小さく頷いた。
「食欲があるようでよかった。少し待っていてくれ」
リオン様は立ち上がり、部屋を出た。
しばらくして、戻ってきたリオン様はお盆に五分粥を乗せて持ってきてくれた。
「ずっと眠っていたから、胃に負担をかけないよう薄めにしている。物足りないかもしれないが、我慢してくれ」
「いえ、お気遣い頂き、ありがとうございます」
リオン様がベッドの横にある小さいテーブルに置いて、小さい器に手際よくよそってくれる。
私はベッドから体を起こして、取り分けてもらった器を受け取った。
「ゆっくり食べなさい」
湯気はたっていないが、ほんのりとした温かさが伝わってくる。
「はい。いただきます」
舌にとろみのついた粥の味が広がる。
米の甘さと、控えめな塩味が、疲れた体にじんわりと染み込んでいく。
リオン様はベッドの横に椅子を持ってきて座り、私が食べるのを静かに見守ってくれた。
ただの米と水と塩だけなのに、今まで食べたどんなご飯よりも、温かく感じた。
でも、心の奥で小さな違和感を感じていた。
耳に残る誰かの声と、なぜ一週間も目覚めることが出来なかったのか。
いままで、一週間も寝込んだことなんてなかった筈なのに。




