84 私、カジノで遊びまーす!!!
私はどこより行くのを楽しみにしている施設がある。
魔法都市のお洒落な街並みをくぐり抜け、一番大きな宮殿に入っていった。
それはカジノだ。
白と黒のシンメトリーブロックの床、スロットマシーンのジャラジャラとコインが鳴り響く音。
フロアにはバニーガールがジュースを片手に周囲を練り歩いていた。
夢と欲望のカジノ――『ビッグ・ドリーム777』。
大都会たるマギアージュが発祥の地となるこのカジノという施設は、お金をコインに替えて人々を遊戯と熱狂の渦に陥れる場所である。
世界に数あるカジノの中でも、ここビッグ・ドリーム777は最大級の規模を誇り、なんと城内1フロア丸々全てがカジノとなっているのだ。
マギアージュの国王は主にこのカジノで莫大な資産を築き上げており、今日も今日とて欲望にまみれて金に目が眩んだ旅人たちが夢敗れて破産の末路を辿っている。
「ま、待ってくれ。俺はまだやれる! やれるんだーっ!」
「頼む助けてくれ! 今度こそストレート、いやストレートフラッシュを出してやるから!」
「離せぇえええ! 俺はこんなところで終わる男じゃねぇぞ!」
それを裏付けるようにピンボールゲームの玉が飛び交うリズムに合わせて次から次へと人生の敗者たちが黒服に楽園から追放されていく。
「…………なんだここは」
「カジノです」
多分スラッシュくんが聞きたかったのはそういう事じゃないのだろう。
生まれてこのかた、こういった遊びにはわき目もふらず己が使命に身を投じてきた16歳の勇者くんには、ここはあまりにも刺激が強い世界だろう。
ちなみにここもちゃんとストーリー進行には必ず訪れなければならないスポットだ。
別に私が楽しみにしていただけではない。
ここである程度コインを稼がなければ、この先にある『VIPフロア』に立ち入ることができないのだ。
となると必然この先にある王宮への訪問も閉ざされてしまうのだ。
よってここで遊ぶのは仕方のないことなのだ。
早速受付のバニーガールさん(ロングカール)に話しかけてコインを100枚ほど購入する。
「世界最大のカジノ『ビッグ・ドリーム777』へようこそいらっしゃいました〜ご利用は計画的に〜」
計画的なやつはカジノみたいな賭博施設なんか利用しないだろうというツッコミは誰もが通る道だ。
ここでは所持金をカジノゲームで使えるコインに変換できるのだ。
それ以外ではスロット台を叩いているおじさんの席の下から拾い上げるしか入手法はない。
換金所の隣にいるバニーガールさん(ショートボブ)が所持コインを景品アイテムにしてくれる。
目を引くのは金でも名誉でもなくその景品だ。
☆5級のレア装備『オーロラレインボー』(女性用防具)と『プリズムメイル』(男性用防具)だ。
それはこの中盤では反則すぎる性能を誇り、あらゆる状態異常に耐性を持つことができ、さらに防御力が120もプラスされる。
だが、それ相応に代償も高く、7000万メダルという馬鹿げた数のメダルを勝ち取らないといけないのだ。
1メダル5000ゴールドなので、単純に金だけで買うならば3500億Gも支払わないといけないのだ。二つ買うなら7000億Gにも上る。
どこの世界にそんな世界何周も救ってニューゲームを繰り返して手に入れるような酔狂な狂人がいる。
余程奇特なプレイをしていない限り、通常はお目にかかることなくエンディングを迎える代物だが、今の私にとっては喉から手が出るほど欲しい逸品だ。
ここ以外で即死耐性装備は憎らしいことに中盤、特にミランダさんが死別するまでは手に入らないのだ。
というわけで、しばらくここで遊んで粘るぞ。
みんなもなんか楽しそうにしてるみたいだし。
「なーなーあれなんていうですか?」
物珍しそうにジーカちゃんがスロットに指をさす。
「あれはスロットと言ってですね、コインを入れて回すと絵柄が回転するので、それをここのボタンを押して止めて三つの絵柄を揃えるゲームなんです」
「面白そーです! やりてーですこれ!」
「……なんか詳しいんだなミランダ」
こんな娯楽施設とは無縁そうな田舎娘である(と思われている)ミランダさんは早速マックスさんからちょっとアレな目で見られたが気にするのはよそう。
まずはコインを50枚ほどジーカちゃんにお渡しして、彼女のゲーム進行を見守った。
「うひゃぁーっ! こりゃ面白ぇです‼︎」
全然役は揃っていなかったけど、ジーカちゃんは絵が回ってるのが面白かったのか手をぱんぱんと叩いて興奮していた。
まあ楽しそうだしいっか。
私は私で稼がなければ。
ここからは各々が好きな遊戯に乗じていった。
未だカジノを周ったことのない勇者くんだけが、1人ぽつんと取り残されていた。
「こんなことをしていていいのか? 俺たちはオーブを集めにきたんだろう」
彼は私の返事も待たずに一直線に上の階へと向かおうとした。
「お客様! ここから先はVIP専用のフロアにございます。まずカジノカードとVIP会員証の提示を願います!」
「…………」
無言になり追い返された勇者くんに、私は一抹の哀愁を感じざるを得なかった。
すまんな。そこは力とか魔法とかそういうのでは突破できないのだよ。
それにしても何でこんなファンタジーな世界にカジノなんて現代的な娯楽施設があるのかという話が、しばしば議題に上がるのだが、ここマギアージュには魔法を金属器に込めて特殊なアイテムを作り出す技術があり、それを応用して作られたのがスロットマシーンといった機材だった。
たとえばリールの回転には風魔法『スピン』が用いられてるとか。
魔法も無消費で使うわけにはいかないので、金属の硬貨――つまりはコインを投与してそれを燃料代わりに魔力に変換することでマシーンを動かしている……らしい。
要するに金を食い散らして魔法でさらにまた金を搾り取る永久機関となっている。
全く変態に技術を与えた結果がこれだ。
各地も真似して設置してみるのだが、やはり本場魔法の地であるマギアージュよりは質の劣る粗悪品が多い。
この世界初のカジノたるここが本物なのである。
それに賭博自体は昔からある一般的な娯楽である。
ここにはいろんな遊びがある。
ポーカーだとかモンスター同士を戦わせて勝つ方を競うやつとか。
どれが一番稼ぎやすいのか、やはりここは知識と経験がものをいうポーカーだろう。
実はここのディーラーはある行為をすると決まった手札を配るようになる。
これを暗記していればその後のダブルアップで楽々コインを増やし続けることができる。
その方法というのがこれだ。
「な、何をしているんだミランダ」
「ら、乱数調整……」
私はひたすら壁に向かって頭を打ちつけた。
なんかこれを頭がめり込むくらい良い感じにやれば役が固定されるようになる。
おんなじようになるのか不明だったが、今はやってみるしかない――!
「お客様。他のお客様のご迷惑になられますのでお控え願います」
普通に怒られた。ごめんなさい。
仕方ない。ここは地道にスロットで稼ぐか。
1コインスロットに座らせていたジーカちゃんが、イライラとスロットマシーンを叩いていた。
「おい! これゼンゼン当たりがでねーですよ! 詐欺です壊れてやがります!」
見た目はもう完全に迷惑なクレーマーそのものだった。
きみもついにその闇に落ちたか……。
彼女は早くも渡した50コインを使い切る勢いだった。
軽く50回は回したと思われるが、はっきりいってそれで絵柄の一つでも揃えば御の字だ。
というか、めちゃくちゃ運が良い。
ここのスロットは1コインでも100コインでも実はものすごく当たりが渋い。
2つ揃うことはそれなりにあるのだが、惜しいねボーナスも天井システムも存在しないので、それはいかに惜しくても、どれだけ限りなく当たりに近い並びだとしても「ハズレ」なのである。
3つ揃うのは大体一番当たりやすいスイカの役で1/1025。
……うん。まず当たらせる気がない。
運の良さが影響してるのかと以前カンストのキャラでやらせたけど結果は全く変わらなかった。
こればっかりは純粋に運なのである。
……ごく稀に己の動体視力のみで目押しできるとかなんとか言われてるが、比較的目も良さそうなジーカちゃんでこれなので都市伝説に近い眉唾ものの噂に過ぎないだろう。
代わりにやってくれと泣きつくジーカちゃんの席に座り、私はスロットを回していった。




