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61 私、地下牢から脱獄します!!

「ゲヘヘ! グヘヘ! オレたち捕まっちゃったな!」


「ゲヘヘ! エヘヘへ! やったね! ……で、捕まるってなんだ?」


「バーカ。捕まるってのはあれだよ……捕まるってことだ!」


「ゲヘヘ! そっか! 捕まるって捕まるって事か! ありがとう兄ちゃん!」


 薄暗い地下牢に閉じ込められていたのは懐かしのゴブリン3バカトリオ・ゴブ、ガブ、ギブだった。

 それを見た私の口が開いたまま塞がらなかったのは皆さんご理解いただけることだろう。

 三兄弟は狭い檻の中に閉じ込められていても、相変わらず暗い雰囲気を感じさせない陽気なバカ笑いと軽快な小躍りを繰り返していた。

 ……ていうかなんだこいつらの行動力。

 よくこんなところまで忍び込んだな。そしてよく殺されずに地下牢に閉じ込められるだけで済んだな。

 原典版にはいなかったはずだぞ。この3バカトリオは。

 スルーしていこうとも考えたのだが、檻の向こうからどうやら私を発見したらしく、リーダー・ガブが大声で叫んだ。


「あっ! お前はえーと、あの、その……あの時のニンゲンだ! グヘヘ!」


「ゲヘヘ! ニンゲンってなんだっけ? ウマイもんだっけ!」


「バーカ! ゲヘヘ! …………合ってるぜゲヘヘ! バカはオレだったぜ!」


「あぁその節はどうも……じゃあ私はこれで……」


「おい待てよニンゲン! あの時はよくもと言ってやりてぇところだがな。今はそんな事便所の水に流してやるぜ!」


「ゲヘヘ! お水お水!」


「グヘヘ! そういうこった! 寛大な兄貴に感謝しな!」


「はぁどうも……」


 ずっとこの調子だと思うと、なんだか笑えるような頭が痛くなるような……なんというか、面倒くさいやつらだ。


「よぅよぅニンゲン。ここにいるってことは、お前も捕まった身だろう。だがどうやったかは知らないがダツゴクしてるみたいじゃねぇか。そこでどうだ? オレたちもダツゴクさせてみないか?」


「お断りします」


「ゲヘヘ! そうかそうか手伝ってくれるか! やはり持つべきものはニンゲンのマブダチだな!」


 くっ。また話をスルーされて変な方向に進まされてしまった……!

 また例によって1秒未満とかふざけた回答時間だったのだろうか。

 第一、脱獄だけでも罪が重いのにこの上他の囚人の解放に協力したとあっては後に言い逃れすることもできない。

 殺されたくなくて自分だけ逃げたならまだ情状酌量の余地もいくばくか生まれたかもしれないが。

 というかこいつらを解放しちゃったらなんか仲間と思われるじゃないか。

 冗談じゃないぞ。背負う罪は私の一つで十分だ。

 何やらかして捕まったのか知らないが、多分ろくでもないことだろう。

 ギブラルの王様の金貨盗んだのもこいつらだし、このまま牢屋に入っていてもらったほうがこの世界にとって安全かもしれない。

 うんそうしよう。

 私はくるりと後ろを振り返ってこいつらを無視しようとした。

 しかし先ほどまでどんちゃん騒ぎしてた彼らが、急に冷え切ったように黙りこくって、背中にとてつもない罪悪感をズキズキ受ける羽目になったので、もう仕方なく私の時のように檻をへし折った。


「ゲヘヘ! ありがとな相棒!」


 なんか勝手にマブダチから相棒に変わってるし。

 いやそもそもマブダチとも認定してないんだけど⁉︎


「よーしお前ら! オレたちゴブリンすりーまんせる、相棒についていって上の世界を目指すぞ!」


「へい!」


 ゴブリントリオが仲間になった!


「な、なんで……?」


 こいつら……敵専用NPCじゃなかったの?

 仲間になるイベントなんてあったっけ?

 ま、まぁ一時的だろう。うん。地下牢脱出までの同行者だろう。

 なんか装備品とか確認できる気がしたけど無視だ無視。

 再び珍妙な4人パーティとなった私は、かつての仲間と地下牢に隠されたアイテムを探しに出発した。

 壁にかけてある看板を見るに、ここは『ガルガンドラ城 地下牢B1F』。

 階段は二つあり、一つは上の階に、もう一つは更なる地下に続いている。


「ゲヘヘ! オイどっちに行くんだ?」


「とりあえずアイテム回収のために地下に行きますね」


「よし! おめーらついてこーい!」


「アイアイサー!」


 な、なんかすごく気が散る……!

 しかしパーティーメンバーになると、日頃のやかましさから一転して穏やかな連中になるな。

 後ろからゴブリンの圧を感じながら、B2Fへとそろりそろりと足を運んでいく。

 地下一階にはたまたまいなかった見張り兵が、ここではぞろぞろいる。

 しかも牢の前で止まっている者だけではなく、徘徊して見張りにあたっている迷惑なやつもいる。

 彼らに見つかると再投獄――ではないが、強制的に戦闘イベントとなる。

 しかも見つかってから時間が経てば経つほど、兵士が兵士を呼び集めて増量させていき、最終的にはフロア全土に敷き詰められてしまい一歩も動けなくなるという未曾有の災害になる。

 蹴散らせば蹴散らすほど増えていくとかどこのゾンビだ。

 というか、数に限りがあるんじゃないのか。

 なんとかしてあの動く鎧の兵士をなんとかしたいが、敵の注意を引きつける事もできないので、奴が目を離した隙を狙うしかない。

 大丈夫、落ち着け。必ずその機会はやってくる。

 奴が後ろを振り向けば――



「ゲヘヘ! おいオマエら! 相棒のいう『お宝』の在処は知ってるよな?」


「何やってんだぁああ! あんのバカ‼︎」


「え? 兄ちゃん今オレを呼んだ?」


「バーカ! オレはまだなんも喋ってねーよ!」


「何者だ貴様ら!」


 思い切り兵士の前に現れたガブのせいで、見張り兵のみならず他の兵士にも見つかってしまった。


 レッドソルジャーがおそってきた!

 マイティガードナーがおそってきた!


「グヘヘ! オレたちのコンビプレイ見せつけてやろうぜ相棒!」


「誰がだ! 誰が!」


 あんたらのせいでやり過ごせるものを台無しにしてしまったじゃないか。

 お陰で無駄な戦闘イベントをこなさなくてはならなくなってしまった。

 まずは開幕音速の速さで薙ぎ払いをし、1秒でも早く戦闘を終わらせこの場から離脱することにした。


「グヘヘ! 何が起きたかわかんねーけどオレたち勝った!」


「もう! お願いですから勝手な行動はしないでください! もし何かあったら――」


「ゲヘ! 兄ちゃん兄ちゃん。これ何? 『押したらダメ』って書いてあるけど!」


「バーカ! そいつはアレだよ! 『押せ』ってことだよ!」


 おバカゴブリンたちは壁にある赤いドクロマークの下部分にあるボタンを押した。


「言ったそばからーっ‼︎」


 直後、激しく何かが壁の向こうで爆発する音がした。

 それに合わせてドタドタと兵士たちが駆けつけてきた。


「何事だ!」


 まずいっ――


 咄嗟に目の前の鉄格子を開き、ゴブリンたちを抑え込んで中に入って扉を閉めた。

 兵士たちは周囲をキョロキョロ見回した。

 倒れている何名かの見張りに気付くと、大声を上げていた。


「脱走者だ! この牢から脱走者がいるぞ! すぐに警備を固めろ! 脱走者をひっ捕らえろー‼︎」


「さ、最悪の状況になってる……!」


 私は冷たい牢の影から、兵士たちが集められていくのを見つめていた。

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