60 まだ見ぬ未来と収束の歴史
「そうか――貴様だったのだなグレイズ。この男に闇の力を与えたのは」
「そうだスラッシュ。かつてのお前と同じように究極の力を探してな」
「……抜かせ!」
勇者は聖なる力を剣に宿し、闇の力の根源であるグレイズに立ち向かっていった。
グレイズは腕に闇を纏い、黒い剣に変化させて迎え撃った。
剣と剣による衝突がすさまじい衝撃波となって周囲に巻き起こる。
「旧友との再会だというのに、随分な挨拶だな。過去は捨てたか」
「黙れ! 今の貴様など最早友ではない!」
予定よりも大分早い両者の再会は、イベントの前倒しのようにセリフが先々進行していった。
そう。スラッシュくんとグレイズは旧知の仲であり、彼らは互いを親友として認め合い、高め合って強くなり共に勇者を目指した者たちなのだ。
しかし――とある事件が原因で、グレイズは人間に絶望し力を追い求めるようになった。
その為に彼は人としての生を閉じ、闇の力を受け入れて魔の者に成り下がった。
それが彼の異名、魔に堕ちたる者の由来だ。
……これらはもうちょっと後で明かされるはずの新事実だったのだが、よかったのだろうか。
イベントをねじ曲げたことでストーリーに歪みが生じてしまったのだろうか。
いやいやそんな事はないはずだ。
倒した後の展開は悲しくも何一つ変わらないはずだからだ。
ラインハルト戦のデータがいじられてないなら、過程はどうあれ結果は一つに過ぎない。
しかしこれで彼の暗躍を私は垣間見たことになる。
単なるスノーエイプであったガリングに力を与え、そして次は龍人の王族である彼に。
彼は今実験をしている最中なのだ。
自身の求める究極の力――それに収まる器を作り出すための。
もっといえばその理想となるのが、聖なる力を持つ勇者スラッシュくんだったのだ。
聖なる力と闇の力。
性質の異なる相反する属性が混ざり合った時、世界は混沌の渦に包み込まれる。
これこそが真の彼の狙いであり、それらを全属性と共に取り込んで世界全てと一つになろうというのが最終計画だ。
あまねく生命に平等な死を――されどそこから永遠の生命を。
終わりなき生命を持つ全知全能の神グレイズ・ヘスフォードという一つの個体に吸収、昇華されていくこと。
それが全ての生命にとっての幸せであると考えているのだ。
全くもってタチが悪い。
勇者と分かり合えなかった彼は、スラッシュくんを新たに作り出そうと――あるいはそれに匹敵するほどの力を生み出そうと各地で暴れ回っているのだ。
力を与えられたものは、それがどんな意図であれ喜んで行使するだろう。
心の隙間につけ込むのがうまいやつだ。
そんな勇者と旧友の再会を遮るように、倒されたはずのログレスが起き上がって現れた。
「邪魔しないでいただけますかねグレイズさん――この者たちは私が殺します。貴方はそこで見ていてください」
「ほぅ……そんな身体になってもか」
ログレスさんの身体は闇の力で修復されていっているものの、相当私の一撃が効いていたのか、再生が追いつかず歪な肉体のままとなっていた。
顔半分を闇で覆い失っており、修羅の如き形相で私たちを睨み付けていた。
「私は王――いや神でありますから。あらゆる事態に備えは尽くしているものなのですよ」
彼が合図すると、私たちを囲むように道中は姿形も見えなかった龍人の兵士たちが一斉に顔を出した。
「くそっ卑怯な!」
今の私たちはこの負けイベントに付き合ったお陰で、この数相手に抵抗する気力や体力も残されていなかった。
グレイズは歪な右腕を大きく開くと、私たちの足元に魔法陣を展開させた。
「貴方たちには国王に刃向かった罰として、地下牢にて永久幽閉を――そして私に最も屈辱を与えたそこな人間の娘を、明日の朝公開処刑とする。精々夜が明けるのを楽しみに怯えて眠るといい」
そして私たちはその地下は通ずる道へと叩き落とされていった。
ここまでが一応、きちんとした負けイベントの結末だった。
ルートによっては国民裁判にも発展するが、当然結果は龍人側の圧倒的有利で私たちには『死刑』が宣告される。
一見すると死別エンドだが、ここではまだちゃんと生き残れる事が保証されている。
薄暗い穴の底に落ちていく中で、唯一人私はこの先をどうやって攻略するのか、どう生き残るのが正解なのかを考えていた。
魔法陣は完全に消滅し、私たち全員地下牢に投獄されていった。
もちろん長老さんも例外なく。
「…………勝手な真似を!」
「貴方にとっても彼らは――特に勇者とあの女はいずれ厄介な存在になります。ならばここで倒しておくのがお互いのためにも得策かと」
本来なら自身の獲物であったはずの勇者を奪われ、グレイズは怒りに声を振るわせていた。
やがて不満をぶちまけるように、闇の彼方に一言も言わず消えていった。
再び兵士以外に人の消えた王宮で、ようやくログレスは玉座に落ち着いて腰を下ろした。
◇ ◇ ◇
「さて……ここからどうしましょうか」
国王ログレスの魔法によって、私たち4人の仲間たちは散り散りになってこのガルガンドラ地下牢に突き落とされてしまった。
ここは一縷の光も差し込まない暗黒の世界。
あるのは壁にかけられた松明の火のみ。
天井から雨漏れでもしてるのか、ピチョンピチョンとしきりに水が滴り落ちる音がする。
硬くて黒い鉄格子に閉じ込められ、ただずっと死が訪れるのを待つばかり――
「えいや」
ではない。
私はとりあえず持てる力の全てを発揮して、地下牢からの脱獄を試みた。
このまま公開処刑される日まで待っていてもいずれ仲間たちが助けてくれるのでよかったのだが、それだと地下牢に隠されたアイテム群が拾えない。拾う時間がなくなってしまう。
鉄格子をまるでちょっと分厚い紙のようにへし折って、檻の外へ抜けていった。
すると向こう側の鉄格子から、なにかが啜り泣いたり笑ったりするような声が聞こえてくる。
「な、なんでしょう……まさか地下の独房で死んだ幽霊さん……?」
なんだか薄暗い景色も相まって気味の悪い空間が続き、走り出す足を止めたくなる感覚がしたが、仲間である可能性も捨てがたいので、とにかく迎えに行ってみることにした。




