62 思いがけぬ棚ぼた
「どんどん兵士さん、集まってきてません……?」
「ゲヘヘ。やったな相棒。オレたち人気者だぜ」
「全ての元凶が喜ばないでください! あれに見つかったら私たちまた牢獄にブチこまれるんですよ」
「そん時はまたこじ開けにきてくれるよな? 流石だぜ相棒! 頼もしいぜ!」
「まだ何も言ってないし!」
迂闊だった。
兵隊さんの動きに気を取られ過ぎて、こいつらの事をすっかり見失ってしまっていた。
とにかくもう次からはこの緑色の怪物から目を離さないようにしなくては。
またいつどんなことをされるかわかったもんじゃない。
「いいですか。何が何でも私の合図があるまでは自由に動いたりしないでくださいね。頼みますよ」
「ゲヘヘ! オレたち頼りにされてる?」
そんなもの微塵も感じなかったが、今は頷いて答えるしかなかった。
言う通りにしてくれるならなんでもしてやる。
頼むから動かないでくれ。
動いてもいいけど何もしないでくれ。
せめてもの救済措置か、RPGでいうこの手のNPC警備はよくあるザルになっているので、牢屋の中を一回一回調べてくるような事はなかった。
そしてしばらく時間をおいて静かにすると、集まっていた兵士たちは上の階に去っていく。
物音一つしなくなったこの時がチャンスだ。
大丈夫。今度はゴブリン馬鹿たちは全員背後に確認できる。
「よし……ここからもなるべく静かに、音も立てずにお願いします。いいですね?」
律儀にも3人が口元に手を当てて頷いていた。
なんだ意外に物分かりが良いやつらじゃないか。
これなら連れ歩いても問題はない……かもしれない。
けどマックスさんと合流した時これどうするんだ。
3匹まとめて寂しそうな目で去らせることになるのか。
やめてよ。そんなとてつもない罪悪感には耐えられないぞ。
だからって今後ゴブリンと過ごすのは御免だ。
まぁそれらの問題は無事にここを脱出してからにするか。
「相棒。なんかここでっけー穴が空いてるぞ」
「穴?」
一通りB2Fの牢内でポーションや細々とした回復アイテム類を漁っていると、リーダーのゴブが右端の牢からひそひそ声をかけてきた。
たしかにそこは他の部屋と違い、壁が木っ端微塵に崩れており、人が通れそうな巨大な空洞が存在していた。
「まさかさっきのって……」
好奇心旺盛なギブがついポチッとしていた見るからに危険そうなボタン。
あれは壁に仕掛けられた起爆装置か何かだったのか。
しかも何やら向こう側には土壁以外にも空間みたいなのがあるし。
「世紀の大発見だな! グヘヘ! 相棒、入ってみようぜ」
「ま、待ってください。なんか怪しいですよ。ここは慎重にいきますよ」
先行されて何かまたやらかされる前に、私は先頭に立って彼らを指揮する形で穴の先へ進んだ。
細く狭く、入り組んだ洞窟道だったが明らかに何者かが掘り進めた跡が散見された。
隠し部屋だろうか。たしかにこの地下牢にはそういうスペースがあった気がするけども、それはここだっただろうか。
毎度細かいところの記憶がポンコツである。
やばかったら引き返したいが、そういう時って大体遅いような気がする。
鬼が出るか蛇が出るか――
たどり着いた先はそのどちらでもない信じられない光景だった。
「うおおおお! 見ろよおめぇら! 金銀財宝宝の山だぜ!」
ゴブリントリオが興奮するように、そこはまさしく宝石や純金で溢れかえる宝物庫だった。
狭い空間を抜けた先には、それは大きな空洞が開けており、そのスペースを埋め尽くすように財宝がひしめいていた。
金の目をした3兄弟は早速宝玉の海へ飛び込んでいった。
「あ、こら! 何かの罠かもしれませんし」
「ゲヘヘ! 兄ちゃんこれすげーよ!」
「グヘヘ! 相棒、探してたお宝ってこのことだったんだな!」
「……あーもう聞いちゃいないし……」
ふと壁に設置された張り紙が目についた。
『国王の許可を受けし者以外、何人たりとも宝物庫に入るべからず ーガルガンドラ王国ー』
……すみません。がっつり入っちゃってます。
入っちゃってるし、なんなら奪っちゃってます。
ということはここは先代ないしはログレスの隠し持っていた財宝か何かだろうか。
あの性格悪そうな王がへそくりをこんな穴蔵に隠していると考えるとちょっとシュールで面白かったが。
こんなところで時間を潰している場合でもないのだが、物のついでだ。ちょっとだけ見ていこう。
既に金策はできているため、宝を換金する意味も目的もないので正直回復アイテムより価値を見出せなかったが、それでも目移りしそうな程のお宝ばかりだ。
真っ赤な宝石が目立つ『ルビーの腕輪』(売値25000G)。
青白い金属が美しく輝く『トワイライトナイフ』(攻撃力0、売値45000G)。
なんか凄い効果もってそうな綺麗なだけのガラクタ『巨人のガントレット』(売値50000G)。
ゲーム内でもコレクター以外には見向きもされないような趣味品だが、こうして本物を目にするとなんだか本当にお宝を手にしているみたいだ。
まぁ耐性がついていない時点で装備品としては戦力外もいいところだ。
しかしその高額なガラクタの中にあって、燦然と光り輝くものがそこにはあった。
「こ、これは――!」
私はすぐさまそれをガラクタの山から救出し、『商人の鑑定』で真偽を確かめた。
【八尺瓊の勾玉】
種別:防具・【盾】
ぼうぎょ力+100
効果:光属性ダメージ無効。装備時8回に1度程度の割合で魔法反射。
とっ……とんでもないお宝見つけちゃったぁあああ‼︎
な、なんでこんなラストダンジョンクラスの秘宝がこんな中盤の城の地下にあるんだ!
お、おちけつ。とにかくこれをどこか安全なところへ装備しないと……。
この【八尺瓊の勾玉】は和風神話の神器シリーズの一品なのだが、シリーズの入手はやや困難で、ひとつはラストダンジョンかエンディング後の世界で、その他も複雑かつ難解な試練を乗り越えた先に設置されている宝箱入手しかない。
その分チートもいいところな特性をそれぞれ持っているのだ。
何度考えてもなぜここにあるのかわからない。
他のシリーズもあるかもしれないと、逸る気持ちを抑えながら必死で血眼になって探したが、この勾玉一個しかなかった。
勾玉という名前だが、外見上は丸い大きなお盆みたいなものだ。
美しく白金に輝き、全てを弾いてくれそうな素晴らしい盾だ。
光属性なんか使う敵滅多にいないけど、魔法反射があるのはとても助かる。
ちなみにファンタジアシリーズは初心者にも優しいRPG作品なので、仲間からの回復魔法まで反射してしまうような融通の効かなさはない。
なによりこの神器シリーズは誰でも装備できるのが最大の利点だ。
しかし、1データにつき1個しか手に入らないので取り合いになるのは必死。
そんな神アイテムをまさか自分、ミランダさんがいる時に回収できるなんて……。
この際バグでもなんでもいい。
これで当分盾を買わなくて済むぞ。
早速お宝をありがたく頂戴し、装備して先へ進もうとする。
が、困ったことが発生してしまった。
【盾】装備を装備できるのは通例右手か左手かのどちらか。
今私は両手に華といえるほどの人気者。
右手には耐性装備のはめこまれたマジックバングル。
利き手の左手には武器の日本刀。
盾を装備するなら必然的にこれらのうちどちらかを外さなくてはならないという究極の二択を迫られるのだ。
まぁ命綱となってる耐性防具のマジックバングルは絶対外せないてして――
ならば日本刀か?
うーむ……。これもこれであったら得はするんだけど……。
しかし今の私には刀を使わずとも攻撃手段がそれなりに豊富なのも事実。
くっ仕方ない。ここは断腸の思いで日本刀には一線を退いてもらうか。
ありがとう私の日本刀。
また抜刀する日は必ずくる。今はこの神器を装備しよう。
こうして私は左手に【八尺瓊の勾玉】を装備して新たな状態となって夢の宝物庫を後にした。
早くこの地下牢から脱出せねば。仲間たちが待っている。




