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44 第五層突入――龍人さんとの出会い

 第五層から本番と言ったが、ここから敵の攻撃が激しくなっていき無対策だとお陀仏になる可能性が高い。

 対策といっても強制分断の2人旅で何がどうできるのかと思うが、実は最短ルートでさえなければ橋を渡る前までに様々な装備品が手に入るのだ。


 このスラッシュくんはとてもせっかちなので、一番時間がかからず効率的なルートを選択したのだが、実際通常プレイではもっと色々寄るところがあり、累計するとまあまあの時間になる。

 経験者の私から見ても結構なスーパーショートカットなのだが、彼はどうやってこのルート選択に乗り切ったのだろうか。

 寄り道せずに突き抜けるだけといえばいかにも簡単そうに聞こえるが、地図上に街とかあれば寄ってみたくなるもの。

 ……まぁこの勇者パーティー、どこで鍛えたのか知らないけどめちゃくちゃレベル高かったし、装備も豊富だったから早く先進もうという思いが他のより強かったのかもしれないけど。


 そんな彼らを待ち受けているこの第五層は、小細工など一切無いシンプル・イズ・ベストな作りとなっている。

 基本的に広い一本道を通り抜けていくだけ。

 ただし、道中のモンスターは強敵揃いである。


 デス・クリーチャーがあらわれた!


 デス・クリーチャーはしんでしまった!


 いきなり『アンデッド系』モンスター、デス・クリーチャーさんに絡まれたが戦闘が開始と同時に消滅した。

 私のスキルでは、近づいてきただけで幽鬼――つまり『アンデット系』モンスターを蒸発させる効果があるのでエンカウントしても意にも介さないが本来はとてつもなく厄介な敵である。


 まず「デス」を冠する通り、こいつらは集団で即死攻撃を放ってくるという最悪な存在なのだ。

 的の少ない2人旅でこれは鬼畜極まる所業。

 幸いにというかスノーガイストさんほど素早さはないので、レベル次第ではこちらが先手を取れたり取れなかったりのラインなので、先手を取って全力で一掃できればまだ勝機はある。

 不意打ちされたら? お察しです。


 アンデット系共通の弱点として「聖水」を振りまけば大ダメージを確実に与えられるので、これを知っていれば割とサクサクと倒せる。

 ……即死攻撃してくるこいつらとまともに戦うか、開幕脳死で逃走を図るかどちらが生存率が高いかといえばどっこいである。

 今回この幽鬼撲滅スキルによってなんとか助かっている。

 もしこれが無かったらと思うと……うう怖気が走る。


 しかし敵はこのおぞましい幽鬼だけではない。

 むしろこいつを皮切りに続々と正統派ドラゴンどもが顔を出してくるのだ。


 高い攻撃力と炎攻撃が厄介な難敵、レッドドラゴン。

 ドラゴンといえばコレな要素を詰め込んだ真性ドラゴン。

 爪の攻撃は守備力関係なく60〜85までのダメージを与えてくる。普通に痛い。痛かった。

 代わりに通常の噛みつきは全て無効にしてやり、『反撃』で刀の錆にしてやった。

 本来は噛みつきの方がダメージ出る。

 実はレッドドラゴンさんからは火龍の加護というアイテムが入手できるのだが、これは炎属性ダメージ無効というトンデモ性能になっているのだ。

 ――が、ドロップ率は凄まじく低い。

 解析情報によると確か1/4000。

 0・025%だ。うん普通に断念するわ。


 しかし、実はドロップ率関係なくアイテムを入手できる方法があるのだが……それはこの少し先にあるアイテムが必要となるので、また後で取り直そう。


 イエロードラゴンは雷攻撃や麻痺のブレスを使ってくるが、両方とも耐性を備えてる私にはそよ風にもならない。

 やはり一番強いのは赤のドラゴンである。

 正統派はいいぞ。


 そうして強敵づくめのワンフロアを抜けると、遠方に何かが存在しているのが見えた。


「離せ! 離しやがれです!」


「べへへへ〜そんなにイヤがらないでよォ〜ホラホラホラ。オイラが熱いキスしてあげるからさぁ〜」


 手足の縛られた亜人の女の子らしき人物が、黒く醜い龍によって迫られていた。


「いけない! いたいけな少女がドラゴンに乱暴されそうになっています! その手を離せーケダモノー!」


「ぶべらっ!」


 あまりに看過できぬ光景を目の当たりにした私が、俊足を活かしてその場にたどり着き、黒いドラゴンの首元にドロップキックをお見舞いしてやった。

 今まさに何かされる寸前の間一髪だった。

 間に合ってよかった。


 龍人の女の子はきょとんとした表情でこちらを見つめていたが、すぐにキリッとした顔つきに戻った。


「今外しますからね……!」


 そうして彼女の四肢に付けられた鎖を刀で引きちぎり、囚われの少女を自由の身に解放した。

 むくりと少女は起き上がってこちらを見つめてきた。

 身長は人間の子供と同じくらいだろうか。

 特徴的な赤いツノにとんがった耳、先端が赤く染まった白髪に赤と青の双眸――オッドアイだろうか。

 縛り付けられていた肌の部分にはドラゴンの鱗らしきものが確認できた。

 そして何よりツノと相まってドラゴン感を表しているのが細くて長い尻尾だ。

 じっと私を見つめてきた少女は、ものすごい剣幕で声を上げた。


「誰が助けてくれって言ったですか。邪魔なのでそこをどきやがれです」


 おーっと……。意外とそういう系だった。

 可愛い顔しているけど、実はガッツリ戦闘タイプの男勝り少女でした。

 彼女のそうした振る舞いに物申すよう、妖精さんが顔を出した。


《ちょっとあんたね。せっかくマスターがわざわざ助けてあげたってのに『ありがとう』の一言もないわけ?》


「だから助けてくれなんて頼んでねぇです。第一、人間の助けなんか要らないんですよ。勝手にやってきやがったのはこいつで」


《なにこの失礼な子! マスター、こいつのツノへし折っちゃって!》


「ま、まぁまぁリーフルさん抑えて抑えて……」


 人間嫌いの不遜な少女とマスター大好きっ子の妖精さんではひたすらに平行線だ。

 なんかすごい女の喧嘩みたいになっちゃってるし、ここは私たちが退くべきだ。

 別に感謝されるために助けたわけでもない。

 ただ見過ごせなかった。それだけだ。


「ブヘェ! オイラを無視すんじゃねぇ〜! べへへへ! その子は今からオイラのお嫁さんになるんだからな!」


「それは公認なんですか?」


「んなわけねーです。こいつがいきなり絡んできやがったです」


「ベヘェ。そ、そんな冷たいコト言わないでよ〜ん! いくらオイラでも傷ついちゃうぜ」


「はっきり言ってやるです。メーワクなのでどっか行きやがれです」


 わ、わーお。言うなぁ〜この子。

 その龍人少女の余りにも歯に布着せぬボロクソな物言いに、流石のドラゴンさんもカチンときたのか、瞳を真っ赤にして身体を大きく固めて爪を大地に叩きつけた。


「このぉ〜‼︎ オイラが結婚してやるって言ってるのに! もういい! こうなったら力づくでも従わせてやるぅ!」


「最低です!」


《最低ね》


「ひぃ〜……非モテの発想だぁ……」


 私たち一同から(特にレイブンさん)大批判のブーイングを痛烈に浴びてますます黒いドラゴンさんは怒り狂って襲いかかってきた。

 勢いよく私に向かって牙を向けてくるも、今の私に守備力貫通以外で物理ダメージを与えられる手段などない。


「へ?」


 驚いたドラゴンさんにカウンターの日本刀一閃が突き刺さる。

 女の敵たる下劣で野蛮な黒竜に無慈悲な制裁を加えた。


「ぐぇえええっ‼︎」


 一発で存在が消えかねないほどのオーバーキルダメージだったはずだが、NPCキャラだからか戦闘が終わってもまだそこに居座っていた。

 楽勝である。

 許すまじ、力による強引なナンパ。


 私の圧倒的な勝利に、龍の少女はそれまでの鋭い目つきを変え今度は興味津々に私の方を見てきた。


「……お前、スゲー強いです! どうやったですか今の!」


「えっ? あっ、いや別にいつも通り……」


「人間技じゃねぇですよ! ジーカだってさっきアイツと戦ったけど、まともに戦えなかったですのに」


《どぉ? これが私のマスターよ》


「……アンタには言ってねぇですし、アンタの実力じゃねーのに偉そうにするなです」


《何ですってこのぉ‼︎》


「ふ、2人とも喧嘩はやめてください」


 再び女の喧嘩が始まろうとしていた横で、レイブンさんは楽しそうにゲラゲラと笑っていた。

 この人……他人事だと思って!


「ブヘェ……お、オイラはただ……幸せになりたくって……」


 私の強烈な制裁を受けてすっかり虫の息と化した黒竜さんが、ボロボロになって呻いていた。


「力で無理強いの結婚をさせても、そんなのは本当の幸せじゃありませんよ。幸せってのは気の合う2人で楽しく過ごしてるうちに、いつの間にかなっちゃうものなんですから」


「気の合う2人で……」


 やがて何かに納得したように、黒竜さんはその場をゆっくりと去って行った。

 いかにも強烈なキャラクターだったが、実はここもちゃんとしたイベントの一つである。

 龍人の少女が襲われそうになり、助けると一時的に仲間になるという。


 ちなみにこのイベントをスルーして通り過ぎることもできるが、後の進行イベントに関わってくるので、いずれにしても避けては通れない。

 大人しく助けてしまおう。


 龍人の少女は頭を下げて、先ほどとは打って変わってお礼を言ってきた。


「ワタシはジーカ言うです。上の『がるがんどら』から来たです。ここにある物を探しに降りてきたです」


「私はミランダです。こっちは仲間のレイブンさん、それに妖精のリーフルさんです」


 しかし妖精さんは一向にぷいと横を向いて拗ねていた。

 お、大人気ない……!


「お前ら人間なのにここに何しに来やがったですか」


「ええとですね……実は私たち『ガルガンドラ』に用事があって来たというか……」


「ジーカの国、今危ないです。人間なんて入り口で門前払いされやがりますです」


《どうかしら。こっちには勇者さまがいるのよ。それに彼は書状や手形も持っているのよ?》


「……多分無駄です。西と東で激しく対立してやがります。国の統制めちゃくちゃです。一歩でも入りやがったらミンチにされるです」


「そ、そんなにヤバい状況なの?」


 龍人に囲まれボコボコにされる姿でも想像したのか、レイブンさんは悲鳴を上げていた。

 そうだった。

 確か今ガルガンドラでは龍人同士で対立してるんだった。

 でまあ色々そこで揉め事に巻き込まれるのだが……。

 っとまぁ今はその前に勇者さんたちと合流しなくては。


「でもお前、強そうです。お前ならジーカの国なんとかできるかもです。付いてきやがれです。ある物を探すの手伝わせてやるのです」


《なによその言い方ぁ〜ねぇマスター。こんな奴の言うこと聞いてちゃだめ!》


「うーんでも放っておけないし……わかりました。お供しますよ」


《ま、マスター〜!》


「ジーカ、話わかる奴は好きですよ」


 こうして龍人の娘、ジーカさんが一緒についてくることになった。

 彼女には悪いけど、その前に私には色々やりたいことがある。

 ちょっとばかし付き合ってもらいますよ。ふふふ。

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