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43 音を置き去りにした乙女

 ドーピングの過剰摂取によって四桁台の化け物ステータスを手に入れた私は、いよいよ第四層最新部――モンスターエリアにやってきた。

 ここでは多数のフロアから選出されたモンスターどもが、一歩歩くたび大量に襲いかかってくる。

 結構な稼ぎスポットとして有名だが、体力には気をつけておかないと無慈悲な集団リンチに遭って全滅してしまう。

 さきほど黄金竜の適正レベルが「26」だと断言したが、そのレベル帯だと相方にもよるが大分苦戦を強いられるのではないだろうか。

 特に魔法攻撃を頻繁に連発してくる「マジック・アンブレラ」を筆頭に、三層の「サンドニードル」に二層の「アイアンモール」など物理・魔法・状態異常と幅広いジャンルの攻撃バイキングがひっきりなしに押し寄せてくるのだ。

 さらに第四層からは竜モンスターが台頭してきて、ここに「ブレス攻撃」まで追加される。

 厄介なことに吹雪ではなく、完全耐性のない火炎の方が。

 とはいえ、ドラゴンとはいってもまだ黄金竜の方が強い。

 難敵に転じるのは集団で現れた時だ。

 ただでさえ幅広い攻撃にブレスが加わるとまともにカバーしきれなくなる。

 鈍重なマックスさんや魔法攻撃に耐性の薄いレイブンさんにもきつい連戦が続く。

 え? ミランダさん?

 通常ならお察しですよ。


 ところが今回のミランダさんは違うんだなこれが。


「さぁ――始めましょうか」


 一歩、モンスターのフィールドに足を踏み入れた瞬間、総勢8体ものモンスター陣が一斉に顔を出した。


 アイアンモールがあらわれた!

 サンドニードルがあらわれた!

 マジック・アンブレラAがあらわれた!

 マジック・アンブレラBがあらわれた!

 リトル・ワイバーンがあらわれた!

 ポイズンスネークがあらわれた!

 エビルファングがあらわれた!

 エビルクローがあらわれた!


 予想されていた通り、バラエティに富んだラインナップが所狭しと出現してきた。

 リトルワイバーンは小さいが、ドラゴンの仲間であり幼い口から立派な炎攻撃を吐きつけてくる敵だ。

 エビル兄弟はファングが牙に「麻痺」を、クローが爪に「毒」を備えた高攻撃力コンビである。


 このフロアで初登場となるマジック・アンブレラは多彩な属性魔法攻撃を放ってくるが、装甲は見ての通り傘なので紙耐久もいいところだ。

 しかし中々高い素早さを誇っており、適正レベルだとほぼ確実に先制を取られて魔法の雨嵐を食らう。


 そう全ては適正レベルでの話である。

 今の私は適正レベルを軽く凌駕する実力を持つのだ。


 さてどうするか。

 手っ取り早く全体攻撃で片をつけたいところだが、マジックアンブレラには一度だけ魔法を反射するシールドがデフォルトでかけられてるんじゃなかったっけな。


 「ブリザード」や「絶対零度」は厳禁か……?

 ならばミサイルでゴリ押すか。

 そうして私は彼らに無数のミサイル攻撃を浴びせていった。


 敵全体に爆撃の渦が巻き起こる。

 まず厄介なアンブレラ軍団が焼け落ち、残るモンスターも深手を負ったものが多かったのだが、爆発系に耐性を持つエビル兄弟はミサイルの雨を浴びてもぴんぴんしていた。


 やがて素早さ順に兄弟の爪と牙によるダブルアタックが繰り広げられた。


 ミス! ミランダはこうげきをかわした!

 ミス! ミランダはこうげきをかわした!

 ミス! ミランダはこうげきをかわした!


「えっ?」


 怒涛のミスコールと私自身の回避に、思わず驚いてしまった。

 なんだか私だけ時が動いているようだった。

 素早さに差があると回避率が上がるとかなんとか言っていたような気がするが……。


 兄弟は1ターンでなんと2回行動ができるので、もう一度今度は兄弟のコンビネーション抜群の連携技・『ブラザー・サイクロン』を解き放った。


 こちらは8回連続でターゲットを選ばず切り裂いてくる技で、全部被弾すると3桁あるHPでも割と危ない。

 ちなみに守備力関係なくダメージを与えてくる無属性技である。

 Oh……。なんと無慈悲な。


 ミス!

 ミス!

 ミス!

 ミス!

 ミス!

 ミス!

 ミス!

 ミス!


 対象を選ばないはずの斬撃は私に全弾飛んできたものの、一発たりとも掠ることなく全てすり抜けていった。

 全部見えるし全部かわせる。

 これはすごいぞ。

 音速移動だ。


 そして兄弟2回分の愛あるコンビネーションアタックに、風を切る速さでカウンターの嵐が飛んでくる。

 日本刀を構え、悠長に佇んでいるモグラの首を跳ね飛ばし、ワイバーンの翼と共に肉を裂いてポイズンスネークを真っ二つにした。

 そして爆撃から生き残った兄弟に残り7回全ての『反撃』を与えた。

 細切れにされ過ぎて繊維どころか跡形もなくエビル兄弟は粉になってしまった。


 この間僅か2秒未満。



「…………はっ?」


 既に私と20倍以上素早さに差のあるレイブンさんにとっては、何が起きたのか全く分からない現象だったことだろう。

 私は一応全部ちゃんと切ってはいるのだが、多分外からは突然攻撃をしていた兄弟とモンスターたちが消し飛んだように見えたことだろう。


 このミランダさんは――音を置き去りにした。

 誰にも私は止められんよ。

 このように編成が様々なモンスター軍団による襲撃が続いたが、所要時間にして合計1分30秒。


 ほぼ全てカウンターによる一撃必殺で彼らを消し炭にした。

 状態異常の中には「速度低下」もあったはずなので、それを使われていたら私の動きは見えたかもしれない。

 速度低下を促す魔法「スロウ」は素早さを1/4にされる危険な魔法だ。

 回避率が下がるだけでなく、常に先手を取られるため回復が間に合わなくなったりする。

 今の私にスロウを使われたら……約862か(小数点切り捨てで)。


 いやそれでも十分すぎるんだけれども。

 しかしスロウは重ねがけもできてしまうので、今後そういうモンスターは天敵になり得るかもしれない。


 幸いここには居ないというのが御の字だったが。

 しかしここまで回避率が高いなら、HPもそこそこ伸びたことだし、そろそろこのとてつもない防御を攻撃にシフトしてみるか。


 モンスター大道場の終着点にたどりついた私たちに、最後の試練というようにラスト・エンカウントが待っていた。

 試してみる絶好のチャンス。



 ビッグドラゴンがあらわれた!

 リトル・ワイバーンがあらわれた!


 なんだかもう狙っているようにしか見えないコンビだったが、実は第四層最後の戦闘はこの組み合わせで固定エンカウントとなる。


 ビッグドラゴンはその名の通り大きめなドラゴンで、リトルワイバーンの何十――いや何百体もの大きさにのぼるドラゴンだ。

 全長で40メートルほど、横幅120メートルはあるんじゃなかろうか。

 ふっくらとした橙色の鱗とお腹のちょっとおデブなドラゴンだ。

 その豊満な身体に蓄積されたHPは「600」とかなり高い。

 ただし、その重そうな肉体では空も飛べない地も舞えないで素早さたったの「4」。ワーストクラスである。

 気合を注入してきた後、燃え盛る火炎の息を吐いてくるのだがこれがまた痛い。

 おデブな肉体に惑わされ舐めてかかると危険だ。

 一撃で仕留めよう。


「『モードチェンジ』・『攻撃力重視』」


 私の刀に力がみなぎる。

 四桁の守備力が一気に攻撃力へと変化したのだ。

 ミランダさん・日本刀モードである。


 さぁおデブドラゴンさんよ。

 うぬを刀の錆にしてくれようぞ。


 ただでさえドラゴン特攻やらで威力が跳ね上がっているというのに、このオーバーキルっぷり。

 案の定ドラゴンさんは刀にほんの少しちょこんと角が触れかかった瞬間に一瞬で蒸発した。


 多分もうこうなると切るとか切らないとかの次元じゃなくなる。

 存在ごと消滅してしまったのだろうか。

 だとしたら本当に申し訳ない。心から反省している。


 デブドラゴンさんの仇を取るべく、リトルワイバーンさんは口にありったけの炎を集めて攻撃してきた。


「熱ちちちち!」


 ふぅー。いまのは多分「38」ダメージくらいだろうか。

 HPでいう1%くらいは削られたかもしれない。

 それでも痛いし熱い。

 というか、軽減あってこれなら割とダメージないか本来。


 その証拠に耐性の無いレイブンさんが割とダメージ受けてるご様子だし。

 よくも彼を焼いてくれたな、憎きドラゴンよ。

 これ以上レイブンさんがこんがり褐色肌になったらどうしてくれる!


 ゆるさん!(スラッシュ風)


 私の個人的な怒りを乗せた一撃が、ビッグドラゴンさんの時よりやばい消し去り方でリトルワイバーンさんの小さな肉体を消し飛ばした。

 魂ごと消えたか。

 来世はドラゴン以外に転生してもらいなさい。

 それかNPCに。


 傷ついたレイブンさんを回復させ、晴れてバトルバイキングを終了するとなにやらスキル取得のアナウンスが響いた。



【スキルを取得しました】


炎耐性(中)

効果:火属性ダメージを40%カットする


取得条件:上級炎属性攻撃を受ける。総戦闘回数20万回以上



 へー。やっぱりあれ上級炎攻撃だったのか。

 「リトル」ワイバーンとはいえ、やるな。

 ええとこれで累計68%もカットできるのか。ははっいいなぁ。

 灼熱なんてコンロに触った時の火傷みたいになるんだろうか。


 ……いやいや、やっぱり熱いのは嫌だ。

 炎も氷みたいに100%耐性にしたいなぁ。

 しかしそれには多分めちゃくちゃ火の中に入って火傷を負わないといけないだろうし……うぅ。


 そんなこんなでようやく第四層の旅路を終え、第五層へ侵入していった。


 ここからが「絶壁の登山道」の本番である。

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