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45 私、盗んじゃいますよ!

 新たに龍人の少女ジーカを仲間に加え、再び第五層での探索を続けていた。

 彼女には探すべき物があるらしく、ここまで降りてきたとのことだが何なのだろうか。

 私と同じものを探しているというわけでもなさそうだが。

 ちなみに私が探しているものはこの近辺にある宝箱だ。

 再登場となるバリア地帯を越えた先にあったような、何としてでも回収しておきたい品だった気がする。


 さて龍人のジーカちゃんだが、上の住民であるにも関わらずモンスター共は問答無用で彼女にも襲いかかってくる。

 別に『侵入者』ではないのに。

 その辺がまあ頑固というか、融通の利かなさというかそんな物を感じる。

 しかし彼女も彼女で、襲い来るものは全て『敵』と判断しているため、同じようなドラゴン相手でさえ容赦しない。

 爪を立て、肉を裂き、鱗を剥いだ。

 ジーカも戦闘中は闘争本能を刺激されるのか、いつにも増して怖い顔つきで狂喜乱舞に満ちていた。

 竜の返り血で彼女の髪は白い部分まで真っ赤に染まっている。


「ジーカの邪魔するヤローは全員敵ですよ。1匹残らずぶち殺してやるです」


 頬を立派な爪の生えた手で拭って彼女はそう言った。

 つくづく敵にならなくてよかったと思っている。

 彼女どうやら自分より強い相手には興味というか、尊敬の眼差しを向けるような傾向があり、他の『弱い』と見做された者にはやたらめったら冷たく扱っていた。

 なんだろう。そういう本能なのだろうか。

 尤も彼女曰く尊敬の基準は「強いだけじゃない」らしいのだが。


 私はそんな彼女の目的よりも、ちょっとだけ自分の都合を優先して何度かルートを変えて進んでしまっている。

 てっきり「こっちじゃねーですよ人間」とか逐一アナウンスされるのかと思ってたら、こんなところまでゲームそっくりだった。

 ゲームでも彼女を一時的に仲間にした後連れ回しても、この登山道を一層まで降りて出ようとしない限りは何も言われないのだ。


 従うと決めた者が進む道についていくと決めているんだろう。

 自分の信念にまっすぐな子だ。

 彼女の邪魔をしないように一刻も早く例のお宝を見つけねば。


 とそうこうしているとそのバリア地帯までたどり着いた。


「きた……じゃちょっと皆さん待っててくださいね」


「おい人間。目の前のバリアが見えてやがらねーのですか? 触れたらバチバチィてなるですよ」


「あ、大丈夫ですよジーカちゃん。それ私には効かないですから」


「何言ってやがるですか。頭おかしくなったですか。というか気安く『ちゃん』付けするなです」


 他にも色々言いたいことはあったろうに、だが私が危険なバリアゾーンを物ともせずしれっとした顔で歩いていると、その全てをつぐんで黙り込んで唖然としていた。

 まぁ無理もない。

 初見の彼女をにやにやしながら見つめているのがレイブンさんだ。

 通常なら痛いバリアを装備品耐性ですり抜けると、貴重な宝箱に巡り会えた。


「あった……!」


【ぬすむ の秘伝書を手に入れた!】


 そう私が欲しかったのはこれ。

 特技【盗む】の秘伝書だ。

 これを使うと盗むが使えるようになり、人のいない民家やタンスから侵入して…………って違いますよ。

 これはモンスターからアイテムをドロップ率関係なく拝借できる特技なのです。


 つっても100%絶対というわけではなく、器用さに依存するみたいですが。

 私の器用さは自慢じゃないけれどそこそこ高い方なので、ええと多分35%くらいの確率で成功するはず。

 私は早速手にした秘伝書を使って【盗む】を習得した。

 すると秘伝書は砂になって崩れ落ちた。


 こういう秘伝書系アイテムは一度使うと無くなって再使用不可能になるのだ。

 読むだけで特に苦労もなく一発で習得できるアイテムなんてチート極まりないから仕方ないけど。

 正規の手段で【盗む】を習得するにはジョブチェンジしなければならないはず。

 なんか勝手に勇者さんたちに断りもなく使っちゃったけど、いいよね。


 新特技習得でホクホク顔の私が再びバリアを素通りで通過する。

 流石に2回も見せられれば否が応にも信じざるを得ないだろう。

 彼女は開いた口が塞がらない状態で私をじっと見ていた。


「…………お前、何者ですか。人間じゃないですか?」


「そうだよ。ミランダさんは何を隠そう生物兵器ミランダーさんで、日夜悪の怪人たちと戦闘を――」


「やめてくださいよレイブンさん。信じちゃうでしょその冗談を。私は普通の人間ですよっ」


 しかしその言葉を信じるものは誰もいなかった。

 まぁこれまでの奇行を思えば無理もない。

 さて。これを使ってやりたかってことは、かの例のレッドドラゴン相手に『火龍の加護』を略奪することだ。

 炎属性100%軽減……軽減? いや、無効にするのは強い。

 特にこれが揃うと私は金輪際普通のブレス攻撃でダメージを受けることがなくなるのだ。

 そう考えて早速ぬすむを連発するものの、なかなか目的のアイテムは盗めない。

 一度は確実に盗めるはずだが、思うように決まらない。

 ちなみに一度盗んでしまったら同じモンスターからはもう盗めない。

 また盗むが成功するとドロップ判定も消滅する。


「何してやがるですか。こんなやつ早く倒していくですよ」


「も、もう少しだけまってくださーい!」


 盗むが難航していると、痺れを切らした彼女からの突っ込みが入ってきた。

 せ、せめて勇者パーティ4人分は欲しい!

 これがあるのとないのとでは難易度に天と地の差が――


「やった!」


 まずは1個目ゲットである。

 盗まれた赤竜は別に怒りもしなかったが、代わりに激しく荒ぶる炎を吐き付けてきた。

 ジーカちゃんは龍人だからか、かなり高い耐性を持っているようでほとんど効いていなかったが、まだ耐性の薄い私たちはモロ炎の雨を直撃した。


 再び頭が黒焦げ状態となる。

 それなりに軽減できるはずの今でこれだ。

 無耐性だと思うとぞっとする。

 戦闘開始前「盗む」のために『反撃(カウンター)』を設定しなかったため、これに対する反撃は発動しない。

 ようやく私の攻撃ターンになった時、刀でドラゴンさんの赤身を引き裂いた。


 これをあと3回……したいのですが……。



「…………好きにしやがれですよ」


 よかった。なんか死んだ魚みたい目してたけどっ。


 ごめんなさいジーカちゃん。

 終わったら必ず協力しますからね!

 なにせ『ガルガンドラ』に入ってしまったら、次ここを訪れることができるのがだいぶ先になってしまうのだ。

 できるだけここでやれる要素は回収しておきたい。


 そうしてかなり時間はかけたが、なんとか人数分の火龍の加護を手に入れることができた。

 まずレイブンさんに装飾品として付けてもらう。


「かっこいいー」


 これでレイブンさんは今後炎でダメージを受けなくなる。

 そして私も竜のお守りの代わりにこいつを装備する。

 氷耐性はもうあるので、炎耐性だけみると完全にこれが上位互換なのだ。


「さぁ。お待たせしましたジーカちゃん! これで私、フル装備ですよ!」


「おせーです。あとだからちゃん付けするなです。ジーカ人間より長生きしてるです」


 不機嫌そうなジーカちゃんの頭をわしゃわしゃやって、今度は彼女の用事を達成すべく第五層の散策に向かった。

 といっても彼女の要件は私と違って物語の進行に無関係なものではない。

 その先に待っている人たちがいたはずだ。

 

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