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19 私、王様とのエンカウントです!?

「あぁん? なんだ女ども。邪魔だ! そこをどけ!」


 盗賊の一団と思わしき大男は、私たちが飛び出したのを見て立ち止まると、ドスの効いた低い大声で怒鳴り散らした。

 その凶悪そうな声と同様に、いかにも悪そうな顔つきをしていた。

 極太に逆立った黒い眉毛、額に浮き出る無数の血管、怒りで血走った目に、鼻下から顎までわっさりと伸び切った無精髭。

 パツンパツンに膨れ上がった両腕の筋肉と胸には、手入れの行き届いていなさそうな体毛が激しく自己主張を続けていた。


 風貌は全員が一様に袖なしタンクトップにぶかぶかの薄茶色のズボン。

 加えて今しがた大声を上げた先頭の男だけは、格の違いを表すためか赤いバンダナを付けていた。

 確かなんかどっかでこんなイベントあったような……。

 そうだ、あれは確か金品求めて世界中を暴れ回る盗賊団のやつだ。


 しかし失礼だがいかにも金目の物など無さそうな道具屋から飛び出してきたという事は、重要なのは店の『中』にいた人物。

 それを裏付けるように彼らの手にある荷物からは、道具屋ではとても手に入りそうにない物珍しい雰囲気が感じられた。

 微かだが、盗賊団のその何日もお風呂に入っていなさそうなむさ苦しい男臭に混じって、ふんわりとした高級そうな甘い匂いがする。


 先程悲鳴を上げた女性のものに相違あるまい。

 高級取りな彼らが狙うほどの一品、女性、そしてこの彼らの焦りよう。


 中にいたのは恐らく王族か――それに準ずる高貴な御身分の方々。

 たまたま道具屋にお忍びで立ち寄ったところに目をつけられ、まさに荷物を奪われてしまった瞬間というところだろうか。


「おい! 聞いてんのか? どかねぇと痛い目に遭わせるぞ‼︎」


 やがて私の観察に痺れを切らした大男が、腰に携えた大きくて長いサーベルを抜刀しこちらに向けてきた。

 それを合図に後ろに待機していた5人ほど、同じ様に武器を構え始めた。

 悪いがそんな物を見せつけられても私は一歩も退く気はないんだなこれが。


「いいえ、どきません! 大人しく盗んだ物を返しなさい! こちらとしても手荒な真似はしたくありません!」


 ミランダさんのキリッとした凛々しい声が辺りに響き渡る。

 やばいこれカッコいいけど恥ずかしいな。

 ミランダさんならこんな事言いそうだけれども。


 見るからに自分たちよりもか細くて丸腰の女にそう言われたからか、大男たちは更に「カチン」とその身を怒りで震わせていた。


「いい気になるんじゃねぇぞ女ぁ! おい! お前ら! こんなやつに構わず殺っちまえ!」


「へい! 親分!」


 そうして私を取り囲むように5人の部下たちが素早く散らばっていった。

 じりじりと円の中心にいる私に向かって距離を詰めてくる。

 いやらしい強かな顔つきを浮かべ、武器を舐めるように舌を出している。


「へっへっへ、いい女じゃねぇか」


「たっぷりと可愛がってやるからよ……これからもな……」


 部下たちは一斉に下品な笑い声を浮かべて攻撃の準備を始めていた。

 ならばこちらも防御の準備を始めさせてもらおう。


「あぁん? てめぇ何してんだ?」


「いやちょっと日課の筋トレを……ね!」


「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞこのクソ女ぁ‼︎」


 私が華麗にもその場でスクワットを続けていると、とうとう我慢の限界がきたと言わんばかりに男たちがその剣を振るいかかる。

 やれやれ君たち。そんなに血気盛んによってこられても動きが丸見えだよ。


 貴重な貴重なバリア権一回をこんなところで行使したくないので、単調な部下たちの攻撃をひらりひらりとかわしていく。


「な……⁉︎」


 たしか部下たちはそれほどステータス高くないはずだ。

 今の私の多少重ねたレベルアップ上昇値+過剰なドーピング摂取による素早さならばこんなもの避けるのは朝飯前だ。


 その様子に面食らってる男たち目掛けて私の魔法が火を吹く。


「『雷魔法(サンダー)』」


「ぎゃやああああああっ‼︎」


 部下たち5人まとめて雷の餌食となった。

 自慢の大振りをかわされて体勢を崩したところにこの一撃だ。

 効かないわけがない。


 そしていよいよ大ボスの男との一騎打ちとなった。


「おのれぇえええ! 小癪な真似をぉおおお!」


 怒りに任せた男の強烈な一撃が私の首元目掛けて飛んでくる。

 予想された惨状に誰もがその目を覆った事だろう――だが!


「な、何⁉︎」


 男の凄まじい勢いのサーベル捌きは、私の身体に届く事はなくその場でひたすら静止を続けていた。

 ふはははっ。何が起きたかまるで分かるまい。

 これが筋肉の加護だ。

 さて、迂闊にも私に『攻撃』をしてきたな?

 残念であったなお頭殿。私に対するあらゆる『攻撃』は効こうが効くまいが、その結果の如何に関わらず強烈な『反撃(カウンター)』となって貴君を襲うのだよ。


 目の前のおかしな光景に妙な汗を流して様子を見ていた男の元に、やがて一陣の大竜巻が飛んできた。


「ぐわあああっな、なんだこりゃあああ!」


 風に煽られて身を引き裂かれる男の疑問に私が答えた。


「『竜巻魔法(トルネード)』」


 全力のドヤ顔を浮かべ、盗賊団の皆さんは全員その場に倒れていた。

 戦闘終了。私たち正義の勝利である!


《やりましたねマスター! 相変わらずお見事です!》


 私推しの腰巾着兼薬草の妖精ことリーフルさんは、私の華麗なる勝利に惜しみない賞賛の拍手を送った。

 それを受けて、この一戦を静観していた村人たちから続いて歓声が飛び交った。


「いやーそれほどでもっ」


 こんな風に大勢の人から喝采を浴びた経験などなかったもので、私は頬に熱を帯びてくるのを感じた。

 せっかく手に入れた日本刀ではあったが、今回出番は無い。

 いくら盗賊でも生身の人間相手に試し切りしようとは思わなかったのだ。


 本当にやばかったら抜刀しようとは思っていたが。

 いやはや血で血を洗う激戦にならなくてなによりだ。


 しばらくして騒ぎに駆けつけた衛兵たちが現れたが、そのキチッとした身なりから私は恐らく『中』にいる人間の従者か何かであると判断した。

 真っ先に衛兵たちは道具屋の中に詰め寄って行き、ゆっくりと中から要人を慎重に囲いながらゆっくりと出てきた。


「危ないところを助けていただきありがとうございました」


 店内から出てきた女性は、所々破れた古そうな布を纏っていた。

 しかしフードを取った尊顔は清く正しく美しくを体現するようにお淑やかで凛とした気品のあるものだった。

 また、布の縫い目から覗き見えるのは眩しい程純白のドレスらしきもので、肌も艶やかでふっくらとしたどう見ても貧しそうには見えないなりをしておられた。


 失礼だが、こんなのでよく身分を隠せてるとお思いになったものだ。誰がどう見ても高貴なお方である事が一目瞭然である。


 衛兵に連れられ、私の前に現れて丁寧に深々とお辞儀をした。

 それに合わせて私もあたふたと忙しなく頭を何回も下げた。


「い、いえいえそんな。あの、お怪我はありませんでしたか?」


「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。たまたま兵士の皆さんが出ていらしたところをうっかり狙われてしまい……」


 それを聞いて兵士たちが申し訳なさそうにそのお人に向けて頭を垂れていた。


「我々が油断したばかりに、クララ様を危険に晒してしまい……近衛兵として不覚の極みです」


「謝らないでくださいネルソン。私がもっとしっかりとしていれば……」


 優しい高貴なお嬢様と生真面目な兵士さんによる謝罪合戦が始まろうとしていた頃、いかにも王様然とした人物が2人の間に割り込んできた。


「おおクララよ。無事であったか」


「はいお父様。この方が私の奪われた荷物を守ってくださったのです」


 クララさんにお父上と呼ばれた白髭のおじ様は、衛兵によって縛り上げられていた盗賊と私の方を一瞥すると事態を把握したようだ。


「いやはや私の娘を助けてくれてありがとう旅のお方よ。わしはギブラルという国の主レオン・ギブラルじゃ」


「いえいえ! あっ、そのええとすみませんギブラル王。私はミランダ・クロスフィールドと申します」


 いけないいけない。先にお偉いさんに名乗らせてしまった。

 再び非礼に対するお詫びの意を込めて深々と頭を下げる。

 ギブラル王は「いや良いんじゃよ」とお笑いになっていた。


「キミには一度是非、此度の礼を申したい。もし機会があれば今度我が城にきていただけますかな?」


「え、えええ⁉︎ そそそそんなとんでもないですっ」


「ははは。遠慮する事はない。キミは私の娘を救った命の恩人だ。我が国ギブラルはそう遠くない地にある。えー……これ、少し」


 国王様が手で合図すると、若い憲兵の1人が跪いて地図を献上した。

 それを受け取ったギブラル王が今度は私に地図をくださった。


「そこに記されておるのがギブラルの城じゃ。先に関所があるはずじゃから、そこに同封されておるわしの手形を見せるとええ。必ず通してくれるじゃろう」


「あ、ありがとうございます……」


 ぺこぺこ頭を下げつつ私はいただいた貴重な手形付きの地図をカバンにしまい込もうとした。


 すると。


「んっ? キミの持つその光る金のそれは……す、すまんが一度見せてくれるかね?」


「えっ、ああ。これですか。どうぞ」


 国王様が興味をお示しになったのは、薬草の洞窟で例のゴブリントリオが隠し持っていた金貨だった。

 あれ。なんかこれ、表面の絵と王様似てるような……。


 その認識が正しいように、王様は金貨をじろじろ手に取って眺めると目玉を大きくして叫んだ。


「こっ……これは大変貴重な我が『ギブラル王家のメダル』ではないか! 無くしていたと思っていたが……こ、これをどこで⁉︎」


「えっ、あっはい。あの、ここより向こう側の洞窟で……」


 突然勢いよく私の細腕をがっちりと鷲掴みにしてきたので少々驚いてどもってしまったが、意味は伝わったように思う。


「ふむ……ミランダ殿よ。も、もしよろしければこちらのメダルを預からせてはくれないだろうかいやいや勿論タダでとは申さぬ!」


「い、いえ良いですよっていうかあの是非もない事お返しします。元々国王様の所有されていた物のようですし……」


 正直売れもしないコレクターアイテムを大事に抱えていても仕方ない。

 それにこうして必要としている者がいるならば、どうぞどうぞといった感じだ。

 それを聞くとギブラル王は大層驚かれたご様子で私に言ってきた。


「ほ、本当か? 本当に良いのか⁉︎ 金に糸目はつけぬぞ! もしくはわしが出し得る限りの褒美を取らせるぞ⁉︎」


「いえいえ。無くされていた大切な物なのですよね? どうか国王様が持っていてください。お礼なら構いませんので」


 いやこれそんなに貴重なものだったのか。

 なんか適当に袋の奥に突っ込んでてすみませんでした。


「ふーむ……キミはなんと欲のない謙虚で素晴らしい人間なのだろうか……。よしわかった。だがそれではわしの威信に関わる。この度の謝礼は重ねてキミが我が城に訪れた時に必ずや行おう! 今はなくとも何か必要になる物が出てくるはずじゃ。その時にでも城を訪ねてくれれば、必ずや力になろうぞ」


「は、はい。ありがとうございます」


 こうして一連の盗賊イベントは、王様との遭遇という思わぬ結果になって幕を閉じた。


「本当にありがとうございました。ぜひまたお城でお会いしましょう」

 帰り際にクララ様が私に向かって別れの挨拶を告げに来てくれた。


「はい。私も是非」

 と互いに会釈を交換して、彼らはまたどこかに行ってしまった。


 これでギブラル王国領への通行フラグが立ったわけだが、そんな国プレイしてる時あったっけかなぁ……。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは。  一言だけですが,面白かったです。 これからも読ませていただきます。
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