18 私、サブイベント回収します!
朝の白い日差しを受け、目を覚ました私たちは早速第一の目的地、『オーネスの村』に向かって進んだ。
雪みがかった大地をザクザク歩いてゆくと、木に吊るされたランタンが目に入ってくる。
『これより先 オーネスの村』
立てかけられた看板には微かにそう書いてあった。
この世界の文字を書いたりする事はできないが、何故か読む事はできた。
どう見ても不思議な象形文字なのに、意味がなんとなくわかってしまう。
ちなみに私の外国語の成績はすこぶる悪い。
元々あまり頭のよろしくない私にとってダントツで出来の悪い数学とどっこいレベルだ。
英語の長文読解は軽く見るだけで吐き気を催すくらいだ。
しかし本来それよりも更に難解であるはずの『ファンタジア』世界の言語はストレスなく理解できる。
きっとミランダさんの慣れ親しんだ言語であるからだろう。
脳内で多分これまでの彼女としての記憶と、新たな「私」としての記憶がいい感じに融合を果てしているのだろう知らないけど。
「ついに着きましたねーオーネスの村」
オーネスは雪原と平原を結ぶ中間地点にある村だ。
農村というほどではないし、都会というほどでもない。
品揃えもまあまあ良好であるし、宿もそれなりにオシャレだ。
ここではストーリーの本筋に関わるようなメインらしいイベントも存在しない。
なんならそのまま素通りする事も可能といえば可能だ。
だが、それは飽くまで普段の周回プレイ前提時の話!
今の私には強くなるべく藁にもすがる思いで各方面に手を伸ばす必要があるのだ。
ここオーネスでは一応やった方がいいサブイベントが充実している。
私たち一向は宿屋に赴き、少々肌寒い外気に晒された身体を部屋で温めていた。
「はーっあったけーなぁー」
道中めちゃくちゃ身を震わせていたのはマックスさんだった。
彼は一番乗りで宿屋の扉を開き、真っ先に暖炉に向かって直行していた。
実はマックスさんは寒がりで、寒さにだけはとても弱い事で専ら有名な人なのだ。
公式のキャラ紹介にも軽くその事が触れられている。
寒さに苦手な彼がこの先吹雪が止まぬ極寒の地に降り立った時どうなってしまうのか。
それは今後の楽しみとしてとっておこう。
宿屋での準備を済ませ、各自調整や自由行動に入るのを確認して私はサブイベント回収に向かった。
武具の新調は後回しだ。
まずは教会の前をうろうろしているお爺さんを見つける。
「おお……お主もわしの話を聞いてくれるかの」
このお爺さんとはちょっとしたイベントがあり、色々と彼の昔話を聞かせてもらう事ができる。
――が、これがとにかく長い。
区切りは一応短いのだが、数が多いという意味で長い。
このお爺さんに9999回話しかける。
「話を聞いてくれてありがとうよお若いの。ささやかな礼じゃがほれ」
これによってお爺さんから『じじいのお守り』を貰う。
なんだこのイベントはと初見のプレイヤーの方々は頭を抱えてしまうだろうが、まだこれで終わりではない。
次にこの『じじいのお守り』を井戸の中にいるお婆さんに見せつける。
「お……おやこれは……! 無くしてたじーさまの形見でねーか。いやはやお嬢さん。それを譲っちゃくれねーだろうか」
それを渡すと今度はお婆さんから『蒼き瞳の乙女』なるアイテムをもらう事ができる。
近年稀に見るほどの美しいお宝ではあるが、換金所に持って行っても「これは貴重品だから売れないよハハッ」と言われて突っ返される。
勘のいい者ならここで気付くと思うが、お察しの通りこれもまたわらしべ長者のように今度はこれを渡すべき相手がいる。
このオーネスの村を出て西にある一軒のちいさな古民家。
そこには1人の吟遊詩人さんが住んでおり、彼は常に魂揺さぶる芸術品を求めて唄っている。
「うーん。イマイチノリが悪いなぁ……至高のお宝『蒼き瞳の乙女』でもあれば……って、キミ。まさかそれは……!」
とこういった感じで所持している時に話しかけると、またこのアイテムを吟遊詩人さんに渡すイベントが発生する。
こんなスゴイものを井戸の底にいるお婆さんが持ってるなんて考え付かないことだが、吟遊詩人さんが泣いて喜んでいるところを見るにどうやら本物であるらしい。
感激した吟遊詩人さんが渡してくれるのが『雪の結晶鍵』。
これを再びオーネスの村に戻り、村の中央部に描かれた雪の結晶のような模様が描かれた地面のくぼみに突き刺す。
するとなにやら地面がスライドできるようになり、そこに隠された深紅の細長い宝箱に入っている獲物こそ、このイベントの終着点――『日本刀』である。
日本刀とはそのまま我々日本人にとってお馴染みの和風の刀の事である。
ゲーム製作者は和ゲーが好みだったのか、
このヨーロッパ然とした情景溢れる世界観でも、それほど違和感のないデザインでアレンジされた刀が登場している。
【アイテム】
日本刀
性能:こうげき力+120
効果:装備している間、『アンデッド系』に直接攻撃が出来、『アンデッド系』に与えるダメージが2倍になる。
剣共通効果:『ドラゴン系』に与えるダメージが増える(大)
説明:とある国で作成されたとされる秘伝の剣。これを手にした剣士をとある国では『侍』と呼ばれているらしい。
ゾンビやドラゴンに与えるダメージが増えるぞ。
現パーティー内装備可能者:全員
まず目を張るのがこの時点では破格の攻撃力+120という数値。
これは大分先になる『ガルガンドラ』で購入出来る武器『ドラゴンイーター』の75を大きく上回るというチート級装備だ。
しかも『ドラゴンイーター』とは異なり、厄介な『アンデッド系』に与えるダメージが増えるというおまけつき。
奴らとはこれから多分どっかで遭遇するはずなのだが、まず通常攻撃が一切当たらないのだ。
対抗できる唯一の手段は『魔法』による攻撃のみ。
だが憎らしいことに奴らはそれを知ってか、こちらの魔法を封じ込めようとしてきたり、魔法を反射する攻撃を使ってきたりする。
倒すのに時間がかかるのに、個体の中には『即死』や『混乱』など厄介な状態異常攻撃を覚えているものがいるという始末。
そこでこの名刀によって一網打尽にしてやるというわけだ。
ちなみにこれは私にも装備できる。
手にしてみるとずっしりと重いそれだが、刀は私にとってピッタリフィットし、次第に軽々と振り回せるようになっていった。
《マスター……なんかカッコいいです!》
「えへへそうかな」
私を見たリーフルさんが興奮気味に飛び回っていた。
これで少々心許なかった物理攻撃が強化され、魔法でも肉弾でも隙のない無敵の魔法剣士・ミランダさんの誕生だ。
なんだか妖精さんの前で格好つけてみたくなって「ふん! ふん!」とわざとらしく振り回してみせた。
「きゃぁーっ‼︎」
するとどこからか女性の叫び声が聞こえてきた。
村中で剣を振り回していた事に対する恐怖の悲鳴かと思い焦ったが、見渡してみるとそうでない事がわかった。
「あ、あれは! 盗賊⁉︎」
道具屋のオンボロそうな扉を蹴破って、髭面の男たちが一斉に飛び出してきた。
《マスター……!》
「うん。追いかけよう!」
私たちは勢いよく逃げ去ろうとする盗賊たちの前に立ちはだかった。




