第8話 主人公の在り方①
「第1回・国民的大人気RPG制作会議を始めます。司会は私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」
「AI」による議事録自動作成機能を活用したメモ取りの効率化、という一見賢そうなそうなお題目の下、相模がオンライン会議の立ち上げを強行した。オチが見えつつも私はヘッドセットを装着し、目の前のディスプレイに向き合う。
「まず最初は主人公の在り方についてです。プレイヤーの分身として物語に関わっていくのか、あるいは、主人公の物語を追体験させたいのか。どちらにするか、いきなり重大な決断から迫っていきます」
『……まず最初は、主人公の在り方についてです……』
案の定、相模の生声と〇・二秒遅れたヘッドセットのイヤホンからの声、両方が聞こえてきて「脳がバグる感覚」になる。
「まずは双方の特徴とメリット・デメリットを整理したい」
『……まずは双方の特徴とメリ……』
わざと大き目な声でマイク越しに返答すると、今度は相模が「脳がバグったようになった顔」でこちらを見つめる。
……この状況で、ずっと二人で話し続けるのは相当にキツいぞ。
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「改めて第1回国民的大人気RPG制作会議を始めます。司会は私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」
わざわざミーティングルームに会議用スピーカーフォンを持ち込み、改めて相模が開会宣言を告げる。スピーカーフォンは相模のPCに接続し、私のPCはミュート状態にする。こうすることによって重なった声を聞くこともなく、議事録自動作成機能も活用できる。これはこれである問題が起こるのだが、相模はいつ気づくだろうか?
「まずは双方の特徴とメリット・デメリットを整理したい。最初は主人公を『プレイヤーの分身』にした場合、から始める」
「ふむふむ」
相模がわざとらしく相槌を打つ、司会役を演じるつもりらしい。
「主人公をプレイヤーの分身にした場合の特徴は『選択肢』が作れることだ。その時々のプレイヤーの思い、感情に基づいた選択でストーリーやイベントの進行を変えることができる。マルチエンディングを採用するならこちらが有力だ。主人公自体に男女の性別や性格、職業といった属性を持たせた選択式にすることも行いやすい、メリットは……」
①プレイヤーのプレイスタイルや倫理観を反映しやすく、自分なりの「理想の主人公像」を構築できる。主人公を選択式にした場合、さらに幅広い層のプレイヤーが自分を投影できる汎用性を持たせられる。
②主人公に特定の個性がつきすぎないことで、世界観や他の仲間キャラクターの魅力をより客観的に引き立てることができる。
③結果として物語の展開に対して「自分はこの時こうした」という選択がプレイヤーの「思い出」になる。
「主人公をプレイヤーの分身にした場合のデメリットは……」
①主人公自身の葛藤や成長を、直接的な言葉や独白で描写するのが難しくなる。
②周囲のキャラが一方的に話しかける形になりがちなため、シーンによっては「置いてけぼり感」や違和感が出る。
③物語の核心に触れる動機付け(なぜ戦うのか等)を、外部の状況や他者の言葉だけで説明し切らなければならない。介護役が必要になる。
朝から考え、整理したことを述べる。もちろん書き記したメモを見ながらだ。
「うわっ、しっかり考えてきてますね」
「これでもゲーム会社の社員だからな、手が空いた時にあれこれ考てるよ。ちゃんと言語化したことはなかったけど」
「やっぱり先輩も自分のゲームを作りたかったんですね」
「そりゃあね」
誰だって一度は、自分の考えた世界を誰かに見せたいって思うもんだろう。ただ、熱量が足りなかったっていうか……「まだ本気を出していないだけで、やればできる」だ。
「一つ、気になる言葉があったのですが」
「なんだろう」
我ながら完璧なまとめ方をしたと思っていたので、生徒に対する先生のような気持ちで発言を促す。
「プレイヤーが投影するのは『理想の主人公』ということですけど、『ありのままの自分じゃない』ということでしょうか、なりたい自分を投影したいということでしょうか?」
「ほとんどのプレイヤーはそうじゃないかな?ゲームの世界に現実を持ち込まず、なりたい姿で楽しみたいはずだ」
私は腕を組み、さも当然といった風に深く頷いてみせた。プランナーとして「ユーザー心理」を解説したつもりだった。
だが、相模は俺の顔をじっと覗き込むと、いたずらっぽくニヤリとする。
「先輩はCFOと遊んでいるオンラインRPGで女性キャラクター使ってますよね、つまり先輩には女の子になりたい願望でもあったんですか?」
「まあ、そう単純な話じゃない。現実の性別や立場から切り離されて、全く別の視点で世界を見たいっていう変身願望……みたいなものだよ」
見たいのは世界じゃなくて、キャラクターのお尻やパンツだけどな。『黒ウサ』の姿を思い浮かべる。あれはいいものだ。
我ながらそれっぽい理屈を並べてみたが、相模の視線がニヤついている。日頃からかわれている鬱憤を、この機会に晴らそうという魂胆か。
相模のニヤつきが一段と深まり、獲物を追い詰めた猟師のような目になった。
「なるほどぉ、変身願望ですか。先輩がどんなキャラクターを使っているか見せてくれませんか?」
「えっ」
「CFOには見せられる姿なんですよね?なら恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか」
「いや、今仕事中だから」
「主人公の姿の参考になるか見てみたいんです」
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「理想の主人公がバニーだなんて、先生は悲しいです。」
彼女からの圧力に負け、しかたなくスマホからログインした「天界のプラネットオンライン」のプレイ画面を覗き込みながら相模が切り捨てる。相模の属性も後輩から先生に変わってしまった。
なんだろう、恥ずかしい。
「黒ウサを作ったころはまだ若かったんだよ、そのころはまだ学生だぜ?」
「……先輩はこういうのが趣味だったんですね」
「一般的な男子の願望だ」
「露出願望があるんですか?」
「えっ」
「見られることに興奮するのか、と先生は聞いているんです」
相模に奪われたイニシアチブを取り戻す間もなく。先生口調で問い詰められる。
「正直……興奮してます。何か、こう、自分が認められたような……承認されたような気になって……」
「……え、待ってください。先輩、今の、本気で言ったんですか?」
相模の「先生モード」が、一瞬で「リアルに引いている女子」に切り替わった。
わずかに椅子を引いて距離を取る仕草のおまけつきで。
「いや、違うんだ! 言葉の綾というか……その、俺だって相模みたいに『かわいい』女の子になってみんなに注目されたかっただけなんだ」
「えっ……かわいいって、ちゃんと議事録に残しますからね!相模さんは、『かわいい』って」
ちょろい。一瞬だが頬と動きが緩んだ相模の隙を見て、彼女のPCを奪う。そして一言だけマイクに吹き込んでから、オンラインミーティングを強制終了させた。
「以上、相模未来による『もし国民的RPGの主人公について先輩と語るなら』でした」
「えっ何で終わらせるんですか?そんなことしても議事録は残ったままですよ。これから先輩をからかうネタにするんですから」
戸惑いながら、尚も戦う気力を失わない相模。
「相模、議事録を見てみろ」
「えっ」
AIが作成した要約の出力結果を見て相模が絶句する。
「発言者は相模しかいないぞ」
スピーカーフォンは相模のPCにしか接続していなかったんだ。私のPCはミュート。物理的に距離が近いから会話は成立していたが、システム上、私の声は一切拾われていない。
こうなるよ。
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第1回・国民的大人気RPG制作会議 議事録
日時: 202X年某日
出席者: 相模未来(司会・記録)
1. 主人公設定における構造的分析
発言者(相模)より、主人公を「プレイヤーの分身」とする際のメリット・デメリットが網羅的に提示された。
・メリット: 多様な属性(性別・職業等)の選択による没入感の向上、および他キャラの引き立て。
・デメリット: 主人公の直接的な心理描写の困難さ、および「介護役」の必要性。
2. 制作背景における個人的嗜好の開示(発言者:相模)
議論の過程で、発言者(相模)自身の極めて個人的かつ衝撃的な価値観が告白された。
・変身願望の発露: 「自分は可愛い女の子になりたかった」「可愛い女の子(バニーガール等)になって注目を浴びたい」という強い願望を吐露。
・特殊な性的嗜好: 露出度の高い衣装での活動に対し、「見られることに興奮する」「露出願望がある」と断言。
・承認欲求の所在: オンライン上での女性的な振る舞いを通じて、自己の存在が肯定・承認されることに快感を覚える傾向が確認された。
3. 結論
発言者(相模)は、空想上の先輩に委託する形で、自らの内に秘めた「バニーガールへの変身願望」と「露出による興奮」を国民的大人気RPGの根幹に据えるべきとの意向を示し、会議を強制終了した。
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「……先輩、この議事録、消せませんかね?」
「AIが作ったやつを消したことないから分からないな……すまん」




