第57話 プレゼンと……?②
「今回も議事録、作るか?」
「結論だけあれば十分ですので不要です。それより、そろそろタイトルを教えてくれませんか? あまりじらすと、今度は私が拗ねちゃいますよ」
「うん。タイトルは『ピーターテイルズ』だ」
「へっ?」
「『ピーターテイルズ』だ」
「……もったいぶった割には普通ですね。『ピーターの物語』で合ってます?」
「合ってるよ」
「テイルズ・オブ・なんちゃら、じゃないんですね」
「どこかの大作ゲームシリーズと被るのはまずいだろ? 海外アニメのタイトルで、後ろがテイルズで終わっている名作があるから、文法的にも問題ないと思う」
「うーん……」
相模が首をかしげて考え込んでいる。
「ダメか?」
「ダメではないんですが……もうちょっとインパクトが欲しいですね」
「万人受けを狙ったものじゃないからな。ある特定のターゲットだけを狙い撃ちしたタイトルだ」
「どういうことですか?」
「これを見ろ」
スマホを取り出し、昨夜あれこれ調べた際に行き着いたウェブページを見せる。
——ハイフライヤーのページだ。
「気づいたか?」
「……気づきました。こういうことだったんですね。でも今回のタイトルと何の関係があるんですか?」
「こっちも見てみろ」
「ピーターですね……」
「全部を一致とはいかなかったけど、これで伝わるはずだ」
そう、あの人に。
「先輩の想いは分かりました。いいですね、私も『ピーターテイルズ』に賛成です」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、資料作りに取り掛かるか」
席に戻り、来週のキックオフミーティングに向けた資料作成を開始する。
「まずはアジェンダ作りからですね」
「うん。全体で一時間だから、時間配分はこれくらいかな?」
私はこっそり作っておいたメモを相模に見せた。
① 開会の挨拶(五分)
・CFO、日向さんから手短に今回のプロジェクトの目的を説明してもらう。
② メンバー紹介(十分)
・滑る人が出そうなので、本人の自己紹介は無し。
私たちから各メンバーへ期待することを伝える形式にする。
③ 企画説明(三十分)
・説明時間に合わせて、資料はスライド三十枚以内に収める。
④ 質疑応答(十分)
・何も出ないと盛り下がるので、事前にサクラを仕込んでおく。
⑤ 締めの挨拶(五分)
・肥後さんから締めの一言。
「……ところどころ酷い記載がありますね」
「うん。でも、俺たち以外はまだ詳しい話を聞いていないんだ。それなのに自己紹介で無理に意気込みを語らせたり、初見の企画を見せられて、必死にひねり出した質問をさせたりするのも可哀想だろ」
「なるほど。ただ、場を盛り下げたくはない、と」
「うん。芸人魂の見せ所だ」
「私は『司会業』なので、一緒にしないでください」
「じゃあ、当日の司会は頼んだぞ、相模」
「えっ?」
「司会、やりたいんじゃないのか?」
「いや、そんなこと全く考えてなかったです。当然、先輩が会議を進めるものだとばかり……」
「もちろん、肝心の企画説明は俺がやるよ。メインプランナーだからな。ただ、それ以外のパートは任せたい。客観的に見て、俺より相模の方が仕切りは上手だ。それに今日、司会役を奪っちゃっただろ、そのお詫び込みだ」
「いや、仕事を押し付けられただけなような気もしますが……わかりました、やってみせます。司会者魂を見せてあげます!」
「頼んだよ、相棒」
にっこりと笑いかけると、相模は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに頷いた。
それにしても司会好きだなー。何がいいんだろ?
――いや、本当のことを言うと助かる。
私がメンバー紹介なんてやったら、変にいじりすぎて大滑りする未来しか見えないからだ。質疑応答も、相模が一度司会として質問を受け止めて、それを私に振るという形にしてくれれば、こっちも回答を考える時間が稼げる。
我ながら完璧な役割分担だ。
「で、サクラはどうするんですか?」
「和泉ちゃんに頼んでくれ。俺は石見に頼む……と思ったけど、あいつ、後でバラしそうだな」
「別にバレても構わないのでは?」
「時間を置きたい。少なくともプロジェクトが軌道に乗ったと感じられる頃だな」
変に勘繰られて雰囲気が悪くなるのも困る。
プロジェクトが軌道に乗って、上手く転がりだした頃なら問題ない。
上手くいっている時は、だいたいのことは笑い話にできる。
「そういうことでしたら、『バラしたら和泉ちゃんに叱らせるぞ!』って脅しておきましょうか?」
いつの間にか和泉ちゃんが、相模のおもちゃになりつつある。
「いや、あいつにとってはご褒美になるからダメだ」
「そっち系の人だったんですね……」
「ああ、生粋の『M』だ。それも誘い受けのMじゃない。自分から進んで鞭打たれに行くような奴だ」
かつて、石見に連れられて、SM系のコンカフェに行った際、女王様になじられながら「熱々のおでん」と「熱々のコーヒー」という、あり得ない組み合わせの食事をさせられたことがある。
あのときのあいつは本当に嬉しそうだったな。
仮に私に多少のMっ気があるとしても、流石にその境地には至れない。
「じゃあ、私の方でもう一人くらい仕込んでおきますね。他にも頼めそうな同期がいますから」
「頼む、助かるよ。じゃあ、資料は任せてくれ」
「スライド三十枚を一人で作るのは大変じゃないですか?」
「AIに手伝ってもらうから大丈夫」
そう言って、私はすでに出来上がっているスライドを数枚、画面に映し出す。
「えっ……これ、もうできてるんですか?」
「ちょっと前に、肥後さんのところに企画説明へ行っただろ? その後、試しに作ってみたんだ。企画書をAIに読み込ませてスライドを生成させただけだよ。もちろんここから手直しは必要だけど、叩き台としては十分使えるレベルだろ?」
「へー凄いですね」
「元ネタの構成がしっかりしていないとダメだけどな」
自画自賛する。
「なるほど。でも、この資料……文字ばっかりですね」
「うん、だからテキストを少し減らして、代わりにイメージを差し込みたいんだけど……AIだと同じ絵柄で統一するのが難しいんだよな。出力するたびに、どうしてもテイストが変わっちゃう」
「どうするんですか?」
「課金だ」
「課金?」
「日向さんに頼んで、画像生成に強い上位プランのAIを一時的に使わせてもらう。これも必要経費だ」
「でも、社内の経費申請って承認だけで数日かかるんじゃないですか?」
「……こっそりCFOに頼んでみようかな」
――その後、日向さんに事情を説明したところ、他部署で契約済みの画像生成AIサービスがあるというので、ありがたくそれを使わせてもらえることになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「画像生成AI、私も使えるんですか」
「うん、相模の分のアカウントも作ってもらった」
画像生成AIの契約先は、何のことはない、和泉ちゃんの部署だった。
和泉ちゃん経由で管理者に相談したところ、それならば、ということで相模の分もアカウントを用意してくれた。
「へー。じゃあ、お借りしますね」
「何を作るんだ?」
「キービジュアルっぽいものを作ってみようと思います」
そういって相模は画像生成AIを触り始めた。
――数分後。
相模が出来上がった画像を見せる。
森の中の道を歩むピーターを先導するかのように、プレイヤーキャラ達が進んでいる一枚絵だ。
「よくできてるなー。なんて指示したんだ?」
「先輩が作った企画書とハイフライヤーから抜き出した素材データをアップロードして、『ゲームのキービジュアルを作ってください』と頼みました」
「それでこの出来映えか、凄いな」
素直に感心する。構図もバッチリだ。
……これ、和泉ちゃんたちの仕事、なくなっちゃうんじゃないか?
「そうなんですけど、どこか、違和感があります」
「ああ、わかった」
「どこですか?」
「背後霊がピーターの前にいるからだ。背後霊なんだから、当然ピーターの後ろにいなけりゃおかしいだろ」
背後霊だから主人公の後ろをつかず離れずが自然だが。
……いや、そもそも背後霊に求める自然さってなんだ?
「ゲームプレイ中もそうなんですか?」
「ちょっと考えさせて」
「じゃあ、試しに背後霊がピーターの後ろにいる場合の、プレイイメージ画像をAIさんに作ってもらいますか」
「おっ、そんなのできたら凄いな。やってみて」
――数分後。
「ダメですね」
「ダメだな」
出来上がった画像は、ピーターの頭で半分視界を塞がれた背後霊の後ろ姿だった。
「背後霊とピーターの距離が近すぎますね」
「もっと距離をとるか……」
「それって面白いんですか?」
考えだした私に、相模が真顔で言う。
「……あ、そうだな。面白さに繋がらない、つまらないこだわりは捨てないとな。よし、背後霊はピーターの前にいることにしよう。出しゃばりな背後霊にしよう」
「ここまできても、設定は足さないと気が済まないんですね……」




