第51話 ラスボス⑥
「よし、議事録を作ろう」
「背後霊の親は、本当にいなくていいんですか?」
話がまとまらないから、いったん、背後霊の親はいないことにした。
「ピーターの親まで背後霊に憑りつかれていたら可哀そうだろ。どれだけ呪われている家系だよ」
「ではAIさん、今の会話は忘れて議事録作成をお願いします」
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第14回・国民的大人気RPG制作会議 議事録
日時: 202X年10月某日(定時退社予定日)
出席者: 相模(司会・記録)、因幡
1. 本日の議題
「確固たる思想を持ち、ピーターの壁として立ちはだかり、倒した際に納得感のあるラスボス」の検討。
2. 新規提案(案④)の検証および結果
前回持ち越しとなった案④について、提案者(相模)より具体的なプロットが提示され、実現可能性の検証(ロールプレイを含む)を行った。
案④:親友の「親」
・内容: ピーターがヒロインとの「結婚の許可」を求め、父親が壁として立ちはだかる王道展開。
・検証: 結納品の選定、挨拶、対話の持続性、および関西弁の父親について模擬交渉(計4テイク)を実施。
・結論: 却下。理由として、
主人公たちが子供であるため生々しすぎる。
主人公とヒロインの親が争う動機付けに不足。
中ボス(ピーターの親)からラスボス(ヒロインの親)への「親続き」の展開はカタルシスに欠ける。
3. 採用案の決定(案③のブラッシュアップ)
議論の結果、出席者両名の合意により「案③:ピーターの親(自立の象徴)」をベースに採用することを決定。課題であった「中目標」および「約束」について、以下の通り「発想の飛躍」を用いた具体的なプロットを策定した。
・ストーリー導線
① 物語冒頭:ピーターが「いつか初めてサーカスに出演する姿を(ヒロインに)見せる」という約束を交わし別れる。
② 中盤~終盤:初出演が決まったピーターが、手紙ではなく「自分の手でチケットを届ける」ため、一人旅を決意する(中目標)。
③ 終盤:親が「一人旅は危険」と反対。ピーターの覚悟を試すため、親がラスボスとして立ちはだかる。
④ 結末:ピーターが勝利し、自立の姿を示して旅立つ。こじんまりとしつつも美しい納得感のある着地。
4. ラストバトルの演出強化(新規システム案)
ゲームとしての派手さを担保するため、以下の仕様を追加する。
・ラストバトルにおいて、プレイヤーキャラ側の「親たち(使い魔や幻獣等のサーカス看板スター)」も戦闘に参加する。
・ただし背後霊の親は除く。
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「案④の議事録がこうなるとはな……」
「真面目に議論していた様に見えますね」
「してなかったのかよ」
その後、『親を持たないプレイヤーキャラ』が今後さらに追加された場合を考慮し、ラストバトルには汎用の親側キャラクター(代理の保護者枠)を用意して対応することにした。
こうして私たちは、無事に「ラスボス」という難敵を片付けることに成功したのだった。
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ミーティングルームを出て、通常業務に戻る道すがら、私は相模とこれからの予定を確認する。
「今日は予定通り、定時で上がりましょうね」
「そうだな。日向さんに今回の内容を報告して、明日からは来週のプレゼンに向けた資料作りだな」
「そうですね。あとは、チームの道標となる言葉作りですね」
「ああ。一つはもう決めているぞ」
「何ですか?」
「背後霊について、深く考えるな」
今回のゲームで人気が出たら、誰か考察サイトでも作ってくれないかな?
「そんなのでいいんですか?みんなが悩んだ時の道標になる言葉ですよ」
「冗談だよ。そうだな、『面白さと設定が対立したら、面白さを優先しなさい』これでどうかな?」
「あ、それ、いいですね」
「改めて思ったんだ。ゲームは『感情に訴える』ものなんだよ。あれこれ理屈立てた設定を披露するものじゃない。細かい設定なんか時が経てば忘れられてしまうけれど、面白かったという熱量や記憶は、ずっと心に残り続けるからな」
あまりに酷すぎる理不尽設定が、別の意味で末長くネタとして語り継がれてしまうリスクはあるが、それはそれ、ご愛嬌ということで納得してもらおう。
「――因幡、相模。ちょっといいか?」
自席に戻ると日向さんに呼ばれた。
肥後さんと部長の大隅さんまで一緒だ。何事だろう?
「何でしょうか」
「実はな、来週のキックオフに社長もご出席されることになったんだ」
「えっ?」
私より先に相模が声を上げたので、私は驚き損ねてしまった。
「さっきまで社長と部長陣の定例会議に行っていたんだが、企画が進んでいるという説明をしたら、興味を示されてな。社長がご出席なら、他の部長達も出席した方が、といった具合に話が大きくなりそうでな。すまない」
大隅さんが申し訳なさそうに状況を説明する。
「私は反対です」と、日向さんがきっぱりと言った。
「今回の目的はあくまでキックオフ、つまり顔合わせと目的の共有の場です。企画については、私が独断で二人に先行して考えてもらっている段階です。社長や他の部長たちまで参加されるとなると話が大きくなりすぎます。若手参加者に無用なプレッシャーを与えかねません」
「しかし、社長のお話は今更断れないんじゃないかな」
肥後さんが苦笑交じりに言う。
日向さんは明確に反対の意思を示し、肥後さんは半分あきらめながら同意、といった具合のようだ。
「事情はわかりました。社長のご出席は仕方がないと思います」
相模が次の言葉を言いにくそうにしている姿を見て、私が言葉を継ぐ。
「ただし、大人数になるのは確かにプレッシャーになります。部長の方々にはご辞退いただけると助かります」
「大隅さん、そのあたりの調整をお願いできますか?」
日向さんが大隅さんに頭を下げる。
「分かった。やるだけやってみるが、話のとっかかりをどうするかだな……」
日向さんが大隅さんにお願いをする。
……相模とあんな仕打ちをしたばかりなのに、この人はホントにいい上司だ。
よし、私も覚悟を決めよう。
「私から、CFOに根回しをお願いしてみます」
「えっ?」
「今晩、CFOと会う機会があります。――オンラインゲームの中でですが」
「どういうことだ?」
お三方に、CFOとは入社前からオンラインゲームのパーティー(といっても二人きりだが)を組んでいること、そして入社後もその関係が続いていることを明かす。
「そんな関係だったんだな。ひょっとしてキックオフにCFOが参加する話も事前に知っていたから、あまり驚かなかったのか?」
「申し訳ありません、その通りです。ただ、私としても関係を大っぴらにして『コネがある』と思われるのが嫌でしたので、これまで黙っていました」
「分かった。その辺の事情は他言しないよ。俺は前科があるけどな、信じてくれ」
日向さんが悪戯っぽく笑いながら、私と相模を見る。
前科と聞いて、「ああ、噂のことか」と、大隅さんと肥後さんも深く頷いている。
一体どこまであの噂は広がっているのだろうか?
別の意味で不安になってきた。
「じゃあ因幡、CFOへのネゴ(根回し)を頼むぞ」
「はい、承知しました」
「それにしても、社長が出席されると聞いても因幡くんは緊張しないんだね」
肥後さんが不思議そうに尋ねる。
「CFOは今回の件を『授業参観』と言っていましたから」
「授業参観?」
「自分が生み出したお金がどう使われるか、見てみたいんだそうです」
「あの人らしいな」
大隅さんが思わず吹き出す。
「授業参観と言う以上、CFOは見ているだけだと思います。社長にも同じスタンスでご出席いただけるよう、CFOからお願いしてもらうようにしますね」
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「色々謎が解けたよ」
「すみません、今まで黙っていまして」
「いや、気持ちは分かるから気にするな。よし、この話は終わりだ。で、色々決まったんだろ? 聞かせてくれ」
大隅さんと肥後さんが場を離れた後、日向さんへの本格的な報告に移る。
今週の打ち合わせ分の議事録を見せながら、前回報告以降の決定事項を説明した。
・世界観:優しい世界観を維持。「こじんまり」感を強みに変える。
・ゲームシステム: ジャンルは家族向けの「オープンワールド・アクションRPG」とし、最大三体の自由な編成や成長要素を確定。
・戦闘と探索: テンポ重視のバトル設計(時間配分やギミック)と、時間変化や高低差によるマップの密度向上。
・舞台と移動: サーカス団の巡業設定によるマップ変化と、過去の街へ再訪するための転移装置の導入。
・目的の設定: 主人公がサーカスに出演する姿をヒロインに見せることを最終目的とする。
・ラスボスの設定: 主人公の覚悟を試す壁として、『親』をラスボスに据える。
・今後の方針: 詳細な仕様策定は、今後合流するメンバーの自律性に一任。ただしメンバーの「道標」となる言葉を用意する。
「どうでしょうか」
相模が日向さんの顔色をうかがう。
「今まで考えてきたことを組み合わせて、うまいこと課題をたたんだな」
「ありがとうございます。……で、それって『褒めてもらっている』と受け取っていいんですよね?」
「もちろんだ」
日向さんの太鼓判に、相模がホッと胸をなでおろす。
「それにしても『こじんまり』か。今回の企画に合った表現だが、マーケティングの連中は売りにくいって文句を言いそうだな」
「取らぬ狸の何とやらですね。まずは売るに値するものを作らないといけません」
「そうだな。……因幡、お前も少しはクリエイターっぽくなったじゃないか」
「ありがとうございます。日向さんと……相模のおかげです」
「私のおかげです」
「調子に乗るな」
「はーい」
「お前ら、ホントいいコンビだな」
日向さんが私たち二人を優しげに見つめる。
少し照れ臭くなったので話題を変えることにした。
「そういえばキックオフの後、懇親会があるんですよね」
ふと思い出したように尋ねてみる。
「そうだな……ただ」
「ただ?」
「店探しがこれからなんだ。食べたいものがあるなら、リクエストを受け付けるぞ?今回は会社から全額出るからな」
「おお!」
相模が嬉しそうな声を上げる。
「社命なんだから当然だ。因幡は何か食べたいものがあるか?」
「みんなに食べさせてみたいものなら、ありますね」
「まさか……アレですか?」
相模が私の意図に気づく。
「ああ、アレだ」
「先輩止めましょうよ。結局、最後は先輩が全部食べるというオチが待ってますよ」
「まさかアレってアレのことか……それより全部食べるオチって何だ?」
不穏な空気を察して、日向さんが身を乗り出してきた。
「実は、CFOにも『ラスグッラ』を食べさせました」
「お前、無茶するな……」
「一昨日、偶然カレー屋の前でお会いしまして。つい出来心で」
「一昨日?」
「はい、二日連続でラスグッラを頼んだので、気に入ったと思われたのでしょうか。昨日の日向さんのお皿には、一昨日より一個多く入ってました」
「なんと……」
「ちなみにCFOと相模は一個ずつ食べてギブアップしたので、残りは全部私が食べました」
「お前、凄いな……」
「出されたものは残さない。それがポリシーですから」
「そのポリシー、三十歳を超えると辛いぞ……」
日向さんが胃のあたりを手で押さえながら苦笑いする。
結局、私の意見は二人の賛同を得られず、懇親会は日向さん行きつけの創作居酒屋になった。




