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第49話 ラスボス④

「これより『第13回・国民的大人気RPG制作会議』を始めます。司会は引き続き、私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」


 いつも通りの開会宣言。


 今日はお昼休みを挟んで午前・午後の二回、会議の予定が入っている。

 こういう場合、開催回数はカウントアップされるのだろうか? 


 ふと、どうでもいいことが頭をよぎる。


「本日の議題は、『確固たる思想を持ち、ピーターの壁として立ちはだかり、倒した際に納得感のあるラスボス』の検討です。まずは先輩からどうぞ」


 さて……事前に考えをまとめたメモを、ディスプレイに投影する。


「今回は方向性だけだが、少し捻ってみた。まずは聞いてくれ」


 実はもう一つアイデアがあったのだが、なんとなくイヤだったので除外した。



①ピーターと親友、二人の共通の目標となる「師匠格」の人物。


②親友そのもの。唯一無二の友でありながら、最大のライバルでもある関係。


③ピーターの親。この場合は物語の中盤と終盤を統合し、親友のもとへとたどり着くまでの旅路はダイジェスト(ムービー)として描く。



「確かに捻ってきましたね。最初の案①の場合は、ピーターと親友の共闘展開というのも面白そうです」


「いいよな、それ。ただ、問題は何の師匠にするかだが」


「ピーターはサーカス団に属していますから、そこから考えると……ピエロ? とかでしょうか。それも『伝説の道化師』級の。この場合は親友も過去サーカス団に属していた設定にした方が自然ですかね」


「思想というか独自の哲学を持ったピエロか。やっぱり芸にうるさいんだろうな」


「伝説のピエロと同じ動きを再現できるか超えれば勝ち……となると、もはやRPGじゃなくなりますね」


「武術以外の師匠だと、単に戦闘でHPを削りきれば『超えた』ことにならないな。どういう存在にすれば良いかが、難しいな」


 武術以外の分野で師匠を超えるということは、「師匠と同じことができた上で、さらに自分だけのオリジナリティを加える」というプロセスを踏めばよいのか?


 考えがまとまらなくなってきたので、一旦、師匠枠から離れて別の存在を提案してみる。


「あとは、思いついたのは『伝説のガキ大将』とか」


「思想というより、独自の信念や美学を持ったガキ大将ですか。過去に二人で挑んでボロ負けしたけれど、笑って見逃された……なんてエピソードを加えれば、物語に深みが出そうです」


「ただそうなると、ピーターたちにもそのガキ大将を上回る『正義』がないといけないんだよな。親の許可をもらって旅に出る理由が単なる喧嘩の延長だと、プレイヤーの感情が乗ってこない気がする」


「親が快く送り出すほどの大義名分があり、かつ倒さなければいけないガキ大将……。これも難しいですね。いっそ『全国ガキ大将選手権』での優勝を目指す、というのはどうでしょう」


「冗談だと思うが、それは無理だな」


「どうしてですか?」


「ルール上、使い魔やペット、果ては背後霊の参加まで許されるとは思えない」


 背後霊は気づかれないかも?


「では、ペットたちを闘わせる……」


「皆まで言うな。似たようなコンセプトのゲームがすでにあるだろ?勝ち目なんて、万に一つもないぞ。『パクリ』と言われるのがオチだ」


 あの『大乱入』と同じメーカーが放ったRPGの金字塔だ。

 国民的人気を通り越し、もはや世界的人気を誇っている。


 その後もいくつか候補を挙げていくが、なかなか「これだ!」としっくりくる存在に辿り着けない。


「……うーん、では次に行きましょうか。案の②、親友そのものがラスボスというパターンです」


「これは少年漫画でありそうな熱い展開だな。ただ、①の師匠案と同様、どう戦わせるかが問題になりそうだ」


「一応、回避策としては、戦うではなく『競い合う』という手もあります。ただ前提として、実際にバトルをこなすのはプレイヤーキャラである背後霊たちですから」


「すまん。ちょっと①に戻るが背後霊と使い魔とペットを完璧に操りこなす師匠って一体、何の師匠なんだろうな」


「そうですね。師匠格の人間をラスボスに据えるのは一度白紙にしましょう。まだ『伝説のガキ大将』の方がしっくりきます」


「伝説のガキ大将や親友と競い合える、競技的な何かがあればいいわけか。それも、背後霊が参加していても違和感がないやつだ」


 脳裏に『全国背後霊選手権』というワードが浮かぶ。

 一体何を競うのだろうか? ターゲットを呪い殺すまでのスピードだろうか。


「そんな不穏な競技はありません。公認の競技では無理そうですね。そうなると『宝探し』のような、冒険の延長線上にある勝負でしょうか」


「競い合う内容はともかく、そっちの方が自然だな。旅に出る理由も『昔の約束を果たすため』といった具合に理由付けができる」


「ただ、親友を同じ土俵に上げてあげる必要がありますね。ピーターは頼もしいお供を連れていますが、親友が一人きりでは不公平感が出てしまいますし」


「そうだな。親友側のパーティ構成については、②の方向で行くとなったら、また後で考えよう。では次に行こう」


 親友も背後霊に憑りつかれている設定にするか……。


 いや、ピーターだけが憑かれているなら「不運(?)な主人公のギャグ」で済むが、そこかしこの人々にまで背後霊が憑いている世界観となると、決して優しい感じがしない。


 かといって、背後霊を今さら守護霊的な『綺麗な何か』に変える気もしなかった。


 こいつの設定に悩まされてきた分、なんだかんだ文句を言いながらも、妙な愛着が湧いてしまっているのだ。

 

「最後の案③は、かなり大きめの変化球ですね」


「個人的には一押しだな。物語のテーマとして、これが一番綺麗に収まると思っている」


「その点は私も同感です。ただ、この案を採用した場合、旅の許可をもらうまでの間に何か大きなイベントが必要ですね」


「そうだな。物語を牽引するために、何か中目標となるエピソードがあると収まりがいいと思う」


「それと、親友に会いに行く目的がもう少しハッキリしていたほうがいいかもしれませんね」


「やっぱり、何かしらの『約束』かな」


「そうですね。子供同士の約束といえば……何があるでしょうか」


 パッと思いついたのは「誕生日にプレゼントを贈る約束」だったが、来週が相模の誕生日であるのに未だプレゼントを決め切れていないので、なんとなく自分の口からは言い出しにくい。


「未完成の何かを完成させる、というのはどうだろう?例えば、秘密基地を完成させるための最後のパーツを届ける、とか」


「なるほど。ピーターがおつかいの途中で、偶然そのパーツを手に入れる。それを親友に届けたいという気持ちが高まって、会いに行く決意を固めると」


「うん。……まあ、『大人に頼んで送ってもらえばいいだろ』と言われたらおしまいだけどな」


「それは情緒がなさすぎます。完成の瞬間に立ち会いたいから、ピーター自らが届けに行く。これで行きましょう」


「いいな。二人が一緒に育て上げてきたものが完成するエンディングシーン、というのも悪くない」


 さて、案②と案③どちらを採用するか。まずは比較検討のための判断軸から決めるか……。


 しばし思考を巡らせる。

 ――そこに、相模特製の爆弾が投げ込まれた。


「そういえば先輩」


「ん?」


「案④を思いついたんですけど」


「いいよ、聞かせてくれ」


「ラスボスですが、親友の――いえ、彼女の『親』というのはどうでしょうか」


 やっぱり、それを思いつくよな。


 絶対、『あの話』に繋がると思うので、意図的に避けていたんだが……。


「……うん、長くなりそうだから午前中はここで一旦止めよう。続きはお昼を食べてからだ」


 相模は一瞬考える素振りを見せたが、いつものように議事録作成をAIに任せた。


「ではAIさん、議事録作成をお願いします」



##################


第13回・国民的大人気RPG制作会議 議事録


日時: 202X年10月某日

出席者: 相模(司会・記録)、因幡


1. 本日の議題

「確固たる思想を持ち、ピーターの壁として立ちはだかり、倒した際に納得感のあるラスボス」の検討。


2. ラスボス候補案の比較検討

物語のテーマ「親からの脱却・自立」および「ピーターの設定(サーカス団員)」に基づき、以下の3案を議論した。


案①:師匠格の人物(伝説の道化師等)

内容: ピーターと親友が共通の目標とする存在。


課題: 単なる戦闘能力の凌駕(HPを削り切る)だけでは「師匠を超えた」という納得感に繋がりにくい。独自の「芸」や「哲学」をどうシステムに落とし込むかが課題。


案②:親友そのもの(ライバル関係の極致)

内容: 共に成長した最大の理解者が、最後に立ちはだかる王道展開。


課題: プレイヤーキャラである「背後霊」たちが戦うことへの整合性。ガチの殺し合いではなく、あくまで「競い合う(宝探し等)」形での勝負が望ましい。


案③:ピーターの親(自立の象徴)

内容: 旅の許可を出す「中ボス」から、物語を締めくくる「ラスボス」への昇格。


課題: 中盤から終盤にかけて、親友に会いに行くための「中目標」が必要。子供同士の「未完成の約束(秘密基地のパーツ等)」を軸に、物語を牽引する。


3. 継続審議および新規提案(案④)

終了間際に、以下の新規案が提出された。


案④:親友(ヒロイン)の「親」

内容:未定。


4. 次回の課題

案②と案③の優劣を判断するための「判断軸」の策定。

案④の具体性の検討。


##################



「あれ?今日も特記事項がありません……AIさん、具合が悪いのでしょうか」

「おい、相模これを見ろ」



##################


★バージョンアップのお知らせ

会議支援AI Ver.3.0 アップデート完了


本アップデートにより、議事録生成ロジックを大幅に見直しました。


■ 変更点

・ノイズキャンセリング機能の強化

文脈上、決定事項に寄与しない「冗長な会話」「個人的な感想」「冗談」「比喩表現」を自動的に検知・削除するように最適化されました。


・客観性の強化

前バージョンにおいてAIの主観的と思われる一言が散見されたため、ビジネス利用における信頼性向上の観点から、アルゴリズムの再学習を行いました。


■ 今後の仕様

今後もビジネス価値の向上に繋がる、情報の欠落がない「清潔で無駄のない議事録」を提供いたします。


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「AIさんが!」

「まともに!?」



 まさかここへ来て、議事録AIの「まとも化」が行われるとは。


 いや、そもそも今まで「まともじゃないこと」をさせていた反動で、無機質なアップデートが適用されてしまったのかもしれない。



 ふと気になり、私は手元のPCでAIエージェント「相模さんmkⅡ」を起動する。

 おして、短くプロンプトを打ち込んだ。



>相模さんはまともですか?


##################


「ぶっとばしますわよ」


##################



 こちらのお嬢様は、特に変わりないようだった。

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